忘れないように
囲ヵ原家は華之宮に古くから仕えていた神官組織のようなもので、主に華之宮の保護を行い、副収入を得ている。
ゆうちゃんは、『かたつむりの殻のようなものですわ。』と例えたけれど、もっといい例えはないのかと苦笑いしてしまう。
ずっと田園が広がる長野。
駅には既に、こののどかな風景に似つかわしくない黒いリムジンが待機していた。
カーテンが閉められており、外の風景は見えなくなってしまった。
「一応、国家機密ですの。」
そんなら無理に命の危険に会いたくないな。
納得した俺に、ゆうちゃんはさて、と俺の横に座った。
いつも向かい合って座るのに…ちょっと驚く。
「道祖土様、あなたにはまひる様を攫っていただきます。
それで世界最悪最凶犯罪者としてその名を最高に轟かせてくださいね。」
にっこりと俺の横でほほ笑むゆうちゃん。
あ、悪魔がいる!
「俺にアズカバンの死刑台で死ねと言うんですか…!」
「アズカバンに死刑台はなかったはずですが。
…法に裁かれる立場に立てればそうなりますね。」
さらりと肩から垂れる黒髪を耳にかけると、彼女は俺に顔を近づけてきた。鼻先に触れる彼女の白い頬。
どきどきする展開だが、ゆうちゃんは真剣な顔をしている。
「でも…それは、あなた自身にかかっているのですよ。」
「…何か作戦があるんだね?」
がたん、と急に車が止まった。
どうやら目的地に着いたらしい。
「こちらの準備が整い次第すぐに遂行します。
今日中に心の準備をお済ませくださいね。」
接近していた彼女がいつもの顔に戻る。
ちょっと残念な気持ちを押し殺しながら、ゆうちゃんに続いて車から降りた。
そこには…
「ごきげんよぅ、ゆう様」
夜に浮かぶ三日月のように目を細めて怪しく笑う、
奇妙なくらい美しいお姉さんが蒼い着物に身を包んで立っていた。
「ごきげんよう、白月さん。」
恭しく頭を下げる、しろつきさんと呼ばれた女性はそのまま屋敷の方に先導した。
瓦から外壁までを、朱と紅に塗りたくった、奇妙な屋敷へ。




