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きみのやさしさを

ヴァイオリンはこれでも小さい頃には有名なコンクールとかにも出ていた。


…でも実は記憶があいまいでよく覚えていない。

どうも小六の頃に交通事故にあったらしく、

その頃から過去の記憶が鮮明に思い出せないのだ。

でもヴァイオリンだけは覚えていた。


俺はリムジンの中で、覚えている曲を弾いてみせると、それまで呆れていたゆうちゃんの顔がはっとしたのが分かった。

これだから人前で弾くのはたまらない。


「思っていたよりも上手なのですね。

謝罪しますわ、その腕前でしたら…私のお気に入りにしたいくらいです。」


「下僕から昇格か」


ゆうちゃんはそれでも拍手を止めなかった。

ちょっと恥ずかしい。

俺の長所なんてこれくらいだ。ヴァイオリンが上手、これだけ。


本当はまひるにも弾いてやりたかった。きっと喜ぶと思った。

俺はこれだけしかできないけれど、まひるには届くと思った。

せめてそれだけ、試させてほしい。


「っていうか、どこに向かってるの?」


「もちろん、華之宮家総本家邸宅の地…長野ですわ。」


夜通し!?と思ったのだが、駅から新幹線に乗せられた。

せっかく歩いてきたのにというがっくり感と、バイトの疲れとかで俺はすっかり寝入ってしまった。

というのも用意された座席が一番高い席だったからなのもあるけれど。


―――夢を見た。

ヴァイオリンを弾いていると、泣いている女の子がいた。

声をかけたら、さらに泣き声は大きくなる。

ごめんなさいとしきりに謝る女の子。


ふと手元にあったヴァイオリンが消え、

俺は腹から血を垂れ流して立っていた。


『想い出さないで』


―――目が覚める。

目の前にはなだらかな田園風景。

長野が、もう近いのか。


「そろそろ着きます。」


ねぼけまなこの俺の横に立って、ゆうちゃんは無表情のままで外の景色を眺めていた。


「…いやなかんじ、ですね。」


下を向いて、落ち込んでいるゆうちゃん。

やっぱり、実家は彼女にとってあまり楽しいものではないのだろうか。


「早くお風呂に入りたいです。」


そっちかよ。

ともかく、俺は長野に到着した。

長野の華之宮家総本家…かこいはら邸宅へ。



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