第52話 新前衛を補充しない理由=僕がいなくても困らないから!?」勘違いで勝手に凹む元ゲーマー
ぽちゃんと、洞窟の天井から水滴の落ちる音が静かに響き渡る。
ここは自由都市グラナーダの地下に広がる遺跡──潮風の香るこの街に無数の冒険者を引き寄せる、巨大な迷宮の一つだ。街の繁栄に欠かせない拠点であると同時に、今、ある異変が起きている場所でもある。
『異世界と言えば一度はやるよね? ダンジョン攻略!!』
……まあ、実際には観光気分で来られる状況ではないのだが。
数日前、グラナーダへの魔獣大侵攻を未然に防ぐため陰で暗躍していた際、激レアモンスターとエンカウントした。念のためロスタを使って周囲の情報を調べさせていたところ、案の定、不穏な噂を掴んできてくれたのだ。
『近頃、翠風の入江にて見たこともないモンスターが大量発生している。討伐依頼を何度出しても一向に数が減らず、自警団も対応に苦慮している』……とのことだった。
残念ながら、ゲーム時代にそんなサブイベントが存在したかは判別がつかない。最近は魔王陛下の洗脳ノイズのせいで、記憶の混濁が日に日に激しくなっているのだ。
いつまでゲームの詳細を覚えていられるか分からないため、最近の僕は『攻略メモ』──日本語表記の分厚い日記帳を必死に書き足す日々を送っている。
だが、供犠式以来、従者たちの過保護は加速の一途を辿っていた。彼らの目を盗んで怪しまれずにメモを取るなど、もはや至難の業だ。
「ヴェイグ様。何をお書きになられているのですか?」
そう声をかけてきたイシューは、無理に覗き込んできたりはしない。だが、勘の鋭さはイヴェット並みに危険なので一瞬たりとも油断できない。
「少し覚書をな……。ところでイシュー、本日の予定を確認しても良いか?」
一瞬、イシューの表情が陰った。だが今はそれを気にしてやる余裕はない。目的を果たすためなら手段を選んでいられないのだ。
「本日も特にご予定はございません。お部屋でごゆっくりと静養なさってください」
「なら、少し出かけてくる」
立ち上がると同時に、覚書へ素早く隠蔽魔法を施す。
いくら日本語で書かれていて読めないとはいえ、見慣れぬ幾何学的な暗号だと怪しまれるのは避けたかった。これ以上、従者たちに余計な負担(と勘違い)をかけたくないからね。
「ヴェイグ様、どちらへ……?」
不安そうに首をかしげるイシューに、僕はため息まじりに告げる。
「どうせ尾行するつもりなのだろう? 皆を呼んでこい。……ああ、武器の備えを忘れるな。少し遠出をするからな」
「はっ! 30秒ほどお待ちください!」
さっと一礼した瞬間、優雅に見えるギリギリのラインで身を翻し、イシューは猛烈な勢いで他の従者たちを呼びに走っていった。
◇
──でもって、今に至るというわけだ。
今回のパーティ構成は、三従者+僕。
正直、このダンジョンの難易度は物語中盤レベルだ。僕一人でも十分に攻略できる難易度だったはずなのだが……僕は愛剣【ブラックエスパーダ】を鞘から一度も抜くことなく、サクサクとダンジョンの奥へ進んでいた。
『皆が強いのは薄々感じてはいたが……これほどまでだったとは……!』
うごめく影──ダンジョンの闇から、この階層の主級と思われる巨大な岩石竜が咆哮とともに躍り出てきた時のことだ。
よし、軽く準備運動でもしておくか、と僕が剣の柄に手をかけた──その一瞬の間すら、彼らは僕に与えてくれなかった。
「ヴェイグ様のお手を煩わせるな!」
アランが左手の魔導書を翻し、即座に無詠唱で極大の氷槍陣を展開。巨体を足止めしたかと思えば、右手のレイピアで一突きで核を穿つ。
同時に、影から疾走したロスタが魔族スペックを存分に活かした跳躍力で旋回し、暗器と投げナイフで竜の首関節を完璧に切断してみせた。そう、切断である。
『投げナイフであんな太くて硬そうな関節を切断できるのなんでなの!? ロスタ、顔に似合わず恐ろしい子……!』
さらには後方で待機していたイシューが、走るのが苦手なはずなのに「アラン、ロスタ! 張り切りすぎですよ〜。ヴェイグ様に埃ひとつかけることは許しませんから」と叫びながら、宮廷魔術級の広域バフと衝撃波を相殺するための術を叩き込んでいた。
──ドォン!!
僕が「あ」と口を開くより早く、巨大な岩ドラゴンさんは影も形もなく消滅した。残されたのは綺麗に掃除された通路だけだ。
……強い。強すぎる。
どうしよう。これ、益々イヴェットたちのパーティとの戦力差が広がってしまっていないか?
いや、でもゲームの原作において、闇騎士ヴェイグと三従者が『揃って』救世主イヴェットと戦うなんて凶悪なイベントシーンは存在しなかった。だからきっと大丈夫なはず……。
──それを、世間では大いなるフラグと呼ぶのである。
手に汗握る死闘 ?を終え、僕たちはさらに奥へと足を進める。
それにしても、本当にイヴェットのやつはなんで新しい前衛を補充しないのだろうか?
僕がパーティからいなくなって、不便ではないのだろうか?
……あ、待って。
さっきの秒殺劇を思い出して、ふと恐ろしい可能性に思い至る。
僕が手を出す暇もなく敵が蒸発した。ということは……つまり……。
ここでも、僕がいてもいなくても変わらないくらい、最初から戦力外だったってこと……!?
(ただの従者たちの過保護が炸裂しただけである。この頃、色々なことが起こりすぎて情緒不安定なエルニアであった)
『えっ、ツラいんだけど。泣いていい……!?』
僕が心の中でがっつりと落ち込んでいた──まさにその時。
突然、隣を歩いていたイシューがピタリと足を止めた。
第52話をお読みいただきありがとうございました!
初めてのダンジョン攻略!……のはずが、愛剣【ブラックエスパーダ】を1度も鞘から抜くことなくサクサク進んでしまいました。
アランの氷槍、ロスタのナイフ切断、イシューの広域バフ……三従者の無駄のない完璧な過保護連携が光る回となりました。
皆様にお聞きしたいのですが、今回の三従者の無慈悲すぎる無双劇、誰の立ち回りが一番ツボでしたか?
「ロスタ恐ろしい子……!」となった方や、「いやイシュー走るの苦手なのに頑張りすぎw」となった方など、ぜひ感想をコメントで教えてください!
次回の第53話は、【10/11(日)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。
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