第50話 【暗躍完了】監視をすり抜けて本場のカルパッチョを堪能し、ついでに激レア隠しボスを無音ワンパンしておきました
『はぁー、潮風が爽やかで最高すぎる……!』
前世では海寄りの街に住んでいた僕にとって、山ばかりのレテラ村や不気味な魔王城と比べると、グラナーダの空気は美味しさが違った。
イヴェットたちと旅をしていた頃は海辺に寄る機会がなかったので、今世で初めて訪れる海だ。
僕がなぜ魔王城を抜け出してここにいるのかといえば──話は数時間前に遡る。
──数時間前、魔王城地下庭園。
「アラン。私はいつまで療養しておかねばならないのだ。身体ならとっくに癒えていると何度も伝えたが……」
無口なヴェイグにしては饒舌に「もう体調は万全だ」と訴えたものの、過保護なアランを筆頭に従者たちが首を縦に振ることはなかった。
息が詰まるような療養生活の中、ロスタが持ってきてくれた魔界史の本や教本を読み漁り、机に読み終えた本が積み重なっていく日々。
『これ絶対、僕を外に出さない気だよね!? でも、いい加減動き出さないとグラナーダの大侵攻に間に合わなくなる……!』
そこで僕は、闇騎士ヴェイグの隠密スキルをフル稼働させることにした。
アランとイシューが交代の申し送りをし、結界を張り直すほんの一瞬の隙──。
練習に練習を重ねた【隠密スキル+短距離転移】の同時使用により、僕は誰にも気付かれることなく魔王城からの脱走に成功したのだ。
さらに、自由都市グラナーダへの暗躍もすでに完璧に終わらせてある。
本来のゲームのシナリオなら、とある冒険者ギルド職員の手引きで防護結界が破られ、さらに自警団が遠征で不在という最悪のタイミングでセドューレさんの精鋭部隊が街を強襲する大イベントだった。
身の丈を超える大槍と氷魔法を操るセドューレさんの立ち絵(スチル画像)、めちゃくちゃカッコ良くてユーザーに大人気だったんだよね……。
『生で見られないのは惜しいけど、流血惨事になる前に手を打たねば!』
僕は軍部の連絡系統へ少し介入し、セドューレさんの部隊へ偽情報を送って別の場所へ配置転換させた。ついでに自警団側へも「魔王軍の偵察隊あり」と伝令を飛ばし、遠征を取りやめさせて街へ引き返させたのだ。
『これで街の被害も出ないし、イヴェット側も無傷で通過できる! ……あれ? 僕の裏工作、完璧すぎない??』
セドューレさんとのバトルイベントを潰してしまったのは少し心苦しいが、無用な犠牲を避けられたのだから万々歳だ。
そして今──僕は待ちに待った「本場の海の幸」を目の前にしている!
『うんっっっま……!!! レモンのような爽やかな香りがまた合う……!』
グラナーダの港近くの露店裏。変装した僕は、出来立てのカルパッチョ(魚醤添え)をフォークで行儀良く頬張る。
口の中で広がる獲れたての弾力と濃厚な旨味に感涙した。白ワインをきゅーっといきたいところだが、この間の反省を活かしてこれまた爽やかなレモネードをお供にする。現地調達の刺身、最高すぎるだろ……!
──バッシャーーーん!!
その時、対岸付近で派手な水飛沫とともに強大な影が姿を現した。
『あ、あれは……この付近の海域で極たまにエンカウントするウルトラレアモンスター【ウォーターワーム】さんじゃないですか!?』
なんで今出てくるかな!?
まだカルパッチョがたくさん残っているのに! と焦る僕の視界を、鮮やかな赤茶の髪がかすめた。
イヴェットが街や仲間を守るため、一歩前に出て聖剣を抜き放つ。
『アカーン!! 序盤のイヴェットたちのレベルで勝てる相手じゃない!!』
正攻法で戦えば間違いなく全滅する隠しボス級の相手だ。
僕はナプキンで口元を素早く拭き取ると、短距離転移で一瞬にしてワームの死角へと回り込んだ。
隠密スキルを重ねがけしつつ、闇騎士ヴェイグの固有魔法をノーモーションで放つ。
視界を覆い尽くすほどの漆黒の奔流──専用の暗黒魔法エフェクトが、超激レアモンスターの巨躯を一瞬で、跡形もなく消滅させた。
『ふっ、闇騎士ヴェイグは魔法騎士だからこれくらい造作もないんだぜ! これでイヴェットも無傷、街の被害もゼロ! 僕のフォロー、完璧すぎるな!!』
満足げに深く頷くと、僕は何事もなかったかのように短距離転移で元の席に戻り、至福のお食事タイムを再開したのだった。
◇
『ふぅ、美味しかった! 満足満足!』
残りのカルパッチョとレモネードを綺麗に平らげ、無事に魔王城の地下庭園へと極秘帰還を果たした僕は、何食わぬ顔でティーカップを持ち上げた。
アランたちの引き継ぎも無事に終わったようで、僕の脱走は完璧に隠蔽できたようだ。
『よしよし、これでグラナーダの惨劇も回避できたし、イヴェットたちも無傷! 手際が良すぎて自分が恐ろしいよ』
達成感に存分に浸っていると──ジジッ、と脳裏でノイズが跳ねた。
『……あれ? でも、グラナーダの後に控えてる『あのイベント』って、どうやって対策すればいいんだっけ……?』
思考を巡らせようとした瞬間──
──ジジジジジッ!!
左胸の刻印が焼け付くような激痛を放ち、脳の芯を強烈な熱が焼き焦がす。
「ぐっ……つ……あ゛……っ!?」
あまりの激痛に視界が真っ赤に染まり、机にしがみつく。
反抗心や疑問を抱こうとした瞬間に訪れる、強制的な思考の破壊。
……あれ? 今、僕は何を考えようとしていたんだっけ?
そうだ、僕は現地で美味しいお刺身を食べ終えて満足していたのだ。イヴェットたちも無事にモンスターを倒せたみたいだし、僕が陰から手助けしてあげれば全部うまくいく。
「ヴェイグ様!? いかがなされましたか!」
「……問題ない、アラン。少し目眩がしただけだ」
心配そうに駆け寄ってくるアランに頷きながら、僕は穏やかな心地よさの中でティーカップを傾ける。
魔王の洗脳魔法によって、自分が「イヴェットたちの成長機会を奪い、温室育ちにさせてしまっている」ということにも気づかないまま──僕は完璧な暗躍の成果にひとり酔いしれていた。
第50話をお読みいただきありがとうございました!
過保護な監視を華麗にかいくぐり、念願の(?)本場のカルパッチョとレモネードをキメて大満足のエルニア。しかも邪魔をしてきた超激レア隠しボスをうっかり秒殺してしまうという、最強の闇騎士としての貫録(?)を見せつけました!
果たして、無事に魔王城へ極秘帰還できた彼は、今後もこの隠密食い道楽を貫けるのか……!?
次回の第51話は、【10/6(火)の夜(18:00頃)】に投稿予定です!
【特別なお知らせ】
実はこの『自由都市グラナーダ』、8月に投稿した短編『100年封印されていた伝説の剣士、不衛生すぎてギルドの真面目な捜査官に連行される。時代遅れの『シーラカンス』とバカにされますが、実は魔剣の呪いすら力づくでねじ伏せる規格外の強者でした。』の舞台と同じ街だったりします!
あちらを読んだ方には「おや?」とニヤリとできる要素もあるかもしれませんので、気になった方はぜひ覗いてみてくださいね!
(https://ncode.syosetu.com/n6427mo/)
ここで読者の皆様への質問です!
「皆さんは、作中のエルニアのように『これを食べるためならどんな障害(過保護な監視など)も突破できる!』という大好物はありますか?」(ぜひコメントで教えてください!)
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