第48話 【悲報】僕「全快したよ」→従者「体温計ブスッ」魔王城の過保護度が限界突破して絶品パン粥より愛が重いです
嗅ぎ慣れた朝食の香りで目が覚めた。辺りはまだ薄暗い。
いや、魔界なので朝から太陽が燦々と照るということはないのだが、僕の体内時計はまだ未明の時刻だと告げている。
「ここは……あー、戻ってきたんだったな」
珍しくヴェイグ口調に強制されることもなく、素直に言葉が出てきた。
相変わらずインテリアの趣味が悪い部屋を見渡し、ここが闇騎士ヴェイグの寝室だと否応なしに理解させられる。
朝が早すぎるせいかアランの姿もない。僕は久しぶりに自らの手で、寝巻きから魔王軍の制服に着替えることにした。
昨日はあまりの激痛に耐えかねて大醜態を晒して気絶したはずなんだけど、誰かが丁寧にベッドに運んで、着崩れを直してくれたみたいだ。くっ、情けない……。
そんな詮無いことを考えながら、いい加減見慣れてきた軍服に袖を通し、姿見で寝癖がついていないか確認する。
その瞬間、鼻につく薬草臭い香りに首を傾げながら、僕は鏡に映る美丈夫を見つめた。
それにしても病み上がり(?)なのにこのイケメン具合。本当に運営に愛されてたんだな、闇騎士ヴェイグ。
今は自分自身であるその身体を見つめながら、思考に耽る。
寝癖などつくはずもない、しなやかでサラッとした指通りの良い深い紺色の長い髪。冷酷に光る紫色の瞳。
どれをとっても元のエルニアの時とは正反対で、僕には相応しくないイケメン仕様だ。
ふと自分の手に目をやると、今回は赤く染まった幻覚は見えなかった。
けれど、陛下に洗脳されて以来、右手の甲から手首にかけて走る禍々しい紋様が、昨日より深く刻まれている気がする。
不気味に思い、急いで黒い手袋をはめて隠した。
『今、何か見えてはいけないものが見えた気がする……! 確かおんなじ様な刻印が左胸にもあるけど、絶対確認したくない!!』
盛大な現実逃避を兼ねて、僕はがむしゃらに長くて邪魔な髪を束ねようと格闘し始めた。
──ガシャン、と何かが床に落ちた音がして、僕はドアの方に視線を向ける。
そこには驚愕に目を見開いたアランが立ち尽くし、トレーを取り落としていた。
「ヴェッ、ヴェイグ様!! もう起き上がられていたんですか!? というかあんなことになっておられたのに一人で立ち上がるなんて……危のうございます!!」
そう言われ、僕はすごい勢いと圧でベッドへと逆戻りさせられた。
幸い、まだ軍服の上着を羽織る前だったのでシワにならずに済んでよかったと、ノースリーブのアンダーシャツ姿でベッドに押し込まれながら思う。
「アラン、心配かけてすまなかったが……見ての通りもう全快している。今日の予定は……」
最後まで言わせてもらえず、体温計を口に突っ込まれて強制的に黙らせられる。
「っよし、熱はないようですね。もうすぐイシューが来るので触診を受けてくださいね。私はロスタに言って食事を持ってきますから、絶対にベッドから出ないでくださいね」
そう言い聞かせられ、僕は大人しく他の従者たちを待つことにした。
『なんかくしゃくしゃに扱われて……過保護に拍車がかかってないか?』
そんな疑問を持ちながら、僕はこの後の作戦について考え始める。
とりあえず、ルーカスがゲーム時より早くイヴェットに合流してくれたのは確認できたから、救世主側の戦力は僕が抜けた穴を少しは埋められたはずだ。彼女は斥候だからもう一人くらいタンクが欲しい所ではある。
なんか供犠式の時、ルーカスと目が合った気がしたけど、いくら彼女の観察スキルが高くてもヴェイグの隠密スキルを破れるはずもないし、気のせいだよね。
「ヴェイグ様……勝手にベッドを抜け出したそうですね!」
優しくも怒った口調のイシューが、手元に看護セットを携えて僕の前で仁王立ちをしていた。
「いやだから、アランにも伝えたがもうなんともないと……」
「嘘ですね! あんなに沢山の瘴気を体内に入れて半日で全快するなんてありえません!! 今日は柔らかくて栄養が高いものを用意しますから、それで我慢してくださいね」
そう言ってぷりぷりと怒りながら、手早く僕を触診していく。
でも、本当にもう大丈夫なんだって……。どちらかと言うとこないだの二日酔いの方がきつかったくらいで、今は本当に何ともないんだって!!
必死に無口のヴェイグなりに訴えるが、全く聞き入れてもらえず効果はない。
それにしてもアランに引き続き、なんでイシューまで過保護が加速してるの!? 僕は何もしてないのに……!
そうこうしていると扉がゆっくりと開き、ロスタがワゴンを押しながら部屋へ入ってきた。
風に乗って爽やかなハーブの香りと、何かコクのある出汁のような芳醇な香りが広がる。
「エルニアさ……じゃなかった、ヴェイグ様! 朝ごはん持ってきましたよ!」
相変わらず犬が尻尾を振っているような勢いの笑顔でロスタが微笑む。
その目元が少し赤く、心配を掛けてしまったのだと自覚させられた。
すかさずイシューが給仕する支度を整え、僕の前にロスタお手製の朝食が出される。
見たこともないほど綺麗なポタージュ仕立てのお粥だった。
上には細かく刻んだ緑のハーブと、ほぐした鶏肉のようなものが繊細に散らされている。
トロリとした乳白色のスープに、蛍光ピンクのじゃがいもが小さく賽の目に切られて浮き身としてお粥を彩っていた。
「前にヴェイグ様に教わったミルクお粥を再現してみました。お米??というのは僕には早かったみたいで、料理長と相談してヴェイグ様が前に焼いて保存しておいたパンをくたくたになるまで煮込んでパン粥にしてみたんです」
少し誇らしげに胸を張りながら料理の説明をしてくれる。
前に興味深そうに僕の手元を覗き込んでいたので簡単な料理を何個か教えておいたのが、ここで生きてくるなんて思わなかった。
だが、一口食べて違いに気づく。
僕が教えたのはただのミルク粥で、こんなに旨味のある出汁は入っていないはずなのだが……。
「気づかれましたか? 弱ったお体に障らないよう、魔獣の最高級軟骨を八時間煮込んで出汁を取り、消化に良い薬草を合せてあるんです」
『いや重い重い重い!! 出汁の取り方の情熱がプロ仕様だよ!!』
圧倒されつつも、漂う香りに胃袋がくうと鳴った。
手に持っていた銀のスプーンでさらに一口掬い、口へと運ぶ。
『──ッ!? う、うま……っ!!』
舌の上でとろけるような滑らかさと小麦の甘み。
そこに濃厚なのに一切しつこくない魔獣出汁の旨味がじわりと広がり、全てをまとめあげる牛乳がまたいい仕事をしている。
細かく刻まれた薬草も独特の臭みは消され、爽やかな風味だけが鼻を抜けていく。
絶品だ。これ、病み上がりじゃなくてもバケツ一杯いけるやつだ。
いや、チーズをたっぷり掛けてグラタン風にしても絶対美味しいやつだ。
「どう、でしょうか……?」
固唾をのんで僕の顔を覗き込んでくるロスタ(と、横で腕を組んで見守るイシュー、いつの間にか戻ってきたアランの三人)。
「……美味い。完璧な出来だ、ロスタ」
ヴェイグ口調で短く褒めると、ロスタの顔がパァっと花が咲いたように輝いた。
「よかったぁぁあ……!!」
いや、だからなんで泣きそうなの!? 僕、ただ美味いって言っただけだよ!? なんかみんな過剰な反応じゃない?
美味しい朝食を噛み締めながらも、三人から照射される「二度とどこへも行かせない」と言わんばかりの激重な愛の視線に、僕は猛烈な胃もたれ(精神的な意味で)を覚え始めていたのだった──。
第48話をお読みいただきありがとうございました!
前回までの番外編(切ない過去回想)から一転、魔王城に戻ってきた途端に過保護な従者たちによる「激重な愛の洗礼」が待っていました(笑)
魔獣の最高級軟骨を8時間煮込んだ出汁でつくるプロ仕様のパン粥……絶対に美味しいのは間違いなさそうですが、愛と視線が重すぎてエルニアの精神的な胃もたれが限界突破しそうです!
ここで読者の皆様に質問です!
・「病み上がり(?)のエルニアをベッドへ秒で叩き戻すアラン」
・「手早く触診して逃がさないイシュー」
・「8時間出汁を煮込んで号泣するロスタ」
皆様なら、この3人のうち誰の過保護っぷりが一番『胃にくる』と感じましたか……!?(笑)
ぜひ一言コメントや評価で教えていただけると嬉しいです!
【★次回更新のお知らせ】
次回の第49話は、【10/2(金)の夜(18:00頃)】に投稿予定です!
従者たちの目を盗み、密着監視体制のなかでなんとか攻略メモ(日本語)を残そうとするエルニア。
はたして無事に『日本語の不審な紙片』を残し、次の舞台へと動くことができるのか……!?
どうぞお楽しみに!
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