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第5話 肉体は命令に従いつつ、頭脳は密かに魔王城のマップを狙う

洞窟で意識を失ってから再び目覚めた時、僕の身体は牢獄のような一室に閉じ込められていた。


部屋の壁には禍々しい紋様が彫り込まれ、窓はなく、換気孔らしき小さな穴があるだけの、絶妙に気分が沈む作りになっている。


このデザインセンス、誰が好き好んで選んだのだろう。まさか魔王本人の趣味とか……勘弁してほしい。


そして──僕の身体は依然として、完全に闇騎士ヴェイグの制御下にあるままだ。

思考だけが、頑なに自由を保てているのが唯一の救いだった。


固いベッドに横たわりながら天井を見つめると、自分の右腕が視界に入る。

艶のある暗紫(あんし)色の装束に包まれた腕。


手の甲には禍々しい紋章が浮かび上がっていて、触ると微かに脈動しているのが伝わってきた。

洗脳当初よりも鮮明になってきている気がするが……それ以上は考えたくなくて思考を中断する。


「……もうすぐ朝か」


いつもの自分の声とは似ても似つかない、低い声が呟く。

寝起き早々から憂鬱になるのも、毎朝の儀式みたいになってきた。


コンコン、と金属製の扉がノックされる音とともに、無遠慮にドアが開く。

入ってきたのは人型の魔族──鎧姿の下級兵士だろうか。

無表情で直立不動の姿勢を取り、用件を告げてきた。


「闇騎士ヴェイグ様。魔王陛下のご命令です。謁見の間に参集せよとのことです」


「了解した」


僕の意思など関係なしに、口が勝手に答えてしまう。

立ち上がると、身体が勝手に身支度を整え始める。

ベッド横に立てかけてある黒銀の剣を腰に帯び、暗紫色のマントを翻した。


鏡はないが、この格好をした自分を想像するだけで胃が痛くなる。


漆黒に見間違うような深い紺色の長い髪。

本来は明るい水色だったのに、今の瞳は黒に近い紫で光を失っている。

完全に『闇落ちした主人公のライバル』スタイルじゃん……。


前世の二次創作サイトなら『こういうパターン大好き!』とコメント欄が賑わっていたかもしれない。

だが、当事者にとっては冗談じゃない。

ストーリー上は間違っていない、つまり『公式の仕業』だからこそ余計に質が悪いのだ。

いざその被害者になってみると……はぁ。

鏡があったら絶対に絶叫するか、恥ずかしさで死ぬかの二択だろう。





兵士の先導で廊下を歩く間、僕の脳裏には昨日までの記憶が蘇ってきた。


あの時……イヴェットを庇った瞬間から全てが変わってしまった。

前世のゲーム知識がフラッシュバックし、「あっ、これ詰んだ!?」と思った時には既に遅く、気づけば魔王の前に跪いていた。


最初は抵抗しようと必死だったが、肉体の主導権を奪われると自分の声すら自由に出せなくなることが分かった。

せめて声さえ出せれば、「僕はエルニアだ、聞いてくれ!」って叫べるのに……。


いや、でもあの時の魔王の笑い方は本物だった。

おそらく、自我が残っているのがバレている。

それでも放置しているということは……まだ利用価値があると思われているってことだよな。

『ここから入れる保険はありますか?』


城の中庭を通ると、夕暮れのような赤紫に染まった空が見える。

この世界の太陽は常に赤黒く淀んでいて昼も夜もない。そのせいか体内時計も狂いそうだ。


魔王城に初めて連れてこられた時には、前世のゲーム知識的に『めっちゃネタバレ! つらみ』と頭を抱えたものだ。なにしろ、ここは本編のラスボスダンジョンなのだから。

はぁー、いつ来ても陰湿で閉鎖的な空間だ。鬱陶しいったらありゃしない、一体誰得なのだろうか。


そんなくだらない事を考え続けていても、身体は迷わず道を進み、やがて重厚な門が見えてきた。

その向こうには玉座へ続く長い階段が伸びている。


深呼吸したい衝動に駆られるが、息苦しさもなく緊張も感じられない。

まるで他人事のようだ。


門衛の魔族に敬礼され、門が静かに開かれる。


玉座の間は広大なホールで、天井は高く薄暗い。

左右には複数の柱が並び、それぞれの柱頭には巨大な水晶が埋め込まれていた。そこから漏れる微かな光が床の紋様を照らしている。


正面奥には黄金に輝く王座があり、そこに座るのが──。


「来たか、我が忠実なる片翼よ」


威厳ある低音で呼びかける声。

魔王ユラシーズだ。


漆黒のローブに身を包み、玉座に深く腰掛けている。顔半分は影になって見えないが、残る左眼には鮮血のような赤い輝きがあった。

これがゲームのラスボス……改めて見ると壮観だな。前世だったらスクショ撮りまくりたいシチュエーションなんだけどな。


「遅くなりました、我が主」


身体は勝手に膝を突き、臣下の礼を取る。


「よい。そなたは我が期待通り動いている。我が右腕……いや、我が『片翼』たるヴェイグよ。何か不足はないか?」


『不足も何も、何が片翼だ設定盛りすぎかよ! っていうかそんなことより、僕はイヴェットたちの所へ帰りたいんですけど!』


そう心の中で叫んでも、もちろん外側のヴェイグに反映されることはない。

正式に臣下となった肉体は、深く頭を下げたまま平坦な声で応える。


「もったいないお言葉、痛み入ります。でしたら、城の見回りをしても構わないでしょうか? 賊が入り込んだ際に対処しやすいように、間取りなどを把握したく……」


『うへ〜仕事熱心なことで……はっ、待てよこれは使えるのでは!』


「ふむ、それはそうだな。許可する」


『やったー! あっさりと魔王から許可をもらえたぜ!』


これで魔王城のマップを把握して、後々、イヴェットたちに役立ててもらうんだ。


「次の指令までは自由を許そう。ただし──」


言葉の途中で冷たい魔力が染み渡る。

その内の何かが、首元にべっとりと絡みつくようにまとわりついた。


「この呪印がある限り、いつでも私の意のままに操れることを忘れるなよ?」


首輪をつけられたような感覚。息苦しさすら覚えるほどの圧迫感。

それでもやはり、僕の身体は何もできない。くそっ……悔しさだけが募っていく。


「では行くがいい。しばらくは好きにするがよい。新しい部屋を用意させたので、英気を養うことだな」


そう告げると、魔王は玉座に深く腰掛けて腕組みをした。もう興味がないと言わんばかりに目を閉じる。


謁見の間を退出し、解放されたと感じた瞬間──洗脳されていた身体にわずかな自由が戻ってきた。


膝が震える。立っているのがやっとだ。

……でも、なんとか動けそう……。

主導権が完全に奪われているわけじゃない時間があるなら、この隙に絶対にマップを頭に叩き込んでやる!

★1週間連続毎日投稿・実施中!


第5話をお読みいただきありがとうございました!

今回からはエルニアは魔王城を中心にマッピングしながら楽しく?攻略に向けて進んでいく予定です。是非、彼のゲーマーならではのツッコミを楽しながら読んで頂ければ幸いです。


次回の第6話は、【明日のお昼(12:00頃)】に投稿予定です。


現在、スタートダッシュを懸けて毎日更新を頑張っています!

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明日もどうぞよろしくお願いいたします!


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シリアス ダーク 男主人公 魔王 勇者 西洋 魔法 冒険 日常 ハッピーエンド 勘違い 飯テロ ゲーム転生 闇堕ち コメディ
― 新着の感想 ―
主人公のライバルと化しながらも、心の中では軽快にツッコミを入れ続けるエルニアのタフさが面白いです! 仕事熱心な臣下を装い魔王城のマップ把握許可を勝ち取るところも素敵です。 彼がどう反撃の足がかりを…
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