第47話 「もうどこへも行かせはしません」忠臣たちの激重愛が爆発! 報告書捏造&隠蔽工作で平和なニート生活(監禁)がスタートしそうです
(イシュー視点)
「いつまでも我が主を床に倒れさせているわけにはいかない。イシュー、そちらを」
「ええ、ヴェイグ様……失礼します」
意識を失った主に声をかけながら、ベッドへ移動させる。
身長は我らの方が高いが、意識のないヴェイグ様をお運びするのは三人がかりでやっとであった。
「ヴェイグ様……どうしてこんなことに……」
事態を知ったロスタが、悲しげにその枕元に寄り添う。
今回も潜入だったため、アランが選び抜いた仕立ての良いスリーピースのスーツをお召しになっていた。
これが鎧姿だったら益々大変だっただろう。
このままでは寝苦しかろうと、少しでも楽にするためにアランが丁寧にジャケットとベストを脱がせ、首元を寛げていく。
相変わらず体内で瘴気を浄化しようとしているが、受容量が多すぎ、まだ体表に瘴気特有のくすんだ黒い靄がまとわりついていて痛々しい。
これでも帰還時よりはマシに見えるのだから……このお身体でどれだけの瘴気を身に宿したのか、想像したくもない。
「……ロスタ。ヴェイグ様のお体から少しでも瘴気を吸い上げる術式を展開するので、補佐を頼みます。本来は人族の術ですが、今のヴェイグ様の体内は瘴気の過充填で壊れかけている。少しでも逃げ道を作らねば、本当に精神が持ちません」
「わかった……! すぐやる、すぐやるよイシュー……っ!」
ロスタが泣きそうな顔で手袋を脱ぎ捨て、主の手を握りしめながら必死に魔力を巡らせ始める。
私はそれを楽器を調律するような精密さで調整していく。
アランは手袋を外し、手早く用意した冷たい水で絞った手ぬぐいを使って、ヴェイグ様の額に浮かぶ血の混じった脂汗を拭っていた。
その所作はあまりにも静かで、そして──恐ろしいほどにどこに向けるわけでもない殺気を発していた。
顔は無表情なのに、激しい怒りに満ちているのが伝わってくる。
それもそうだろう、アランは闇騎士の従者筆頭として、常に側に仕えてきたのだから。
あの紅蓮の村で、心が粉々に砕け散り、ガラス玉のような瞳で涙を流しながら「おいていかないで」と呟いた痛々しい我が主の姿が……今も私たちの脳裏に焼き付いて離れない。
あの時、私たちは誓ったのだ。
二度と、あのお方に一人で絶望を背負わせはしないと。
魔王軍の闇騎士としてではなく、かつて傷ついた幼き我らウサギ獣人に手を差し伸べてくれた『エルニア様』として、命に代えても守り抜くと。
久しぶりに再会した時は、こんなに大きくなられてと喜んだものだ。
彼が覚えていなくとも我らは恩義を忘れない……そう強く決心していた。
それなのに──。
「……まただ」
アランの絞り出すような声が、重苦しい室内に落ちた。
「また、我々はあのお方の背中を追いかけることすら出来なかった。砦の時も、あの村の時も……そして今回も。ヴェイグ様はいつだって、我々には見えぬ孤高の領域で、たったお一人で地獄と戦っておられる」
「……ええ」
私は静かに頷き、ヴェイグ様の胸元に手を当てる。
狂ったように脈打つ心臓。
その鼓動の一つ一つが、心の中で泣き叫んでいるエルニア様の本音に思えてならない。
過酷な宿命に耐え抜く英雄の血吐く悲鳴などこの方には似合わないのに、どうしてそんな道を選んでしまわれるのだろう。
魔王陛下は、一体何を思ってあの密命をヴェイグ様に与えたのか。
彼の方は昔から人の心を実験動物のように扱うのは分かっていた。
私の目から見ても我が主を気に掛けていたと思っていたが、考え違いだったのだろうか?
こんな捨て駒のような任務を与えて。
人族が自分たちの領土を守るために行う供犠式……その莫大な瘴気をヴェイグ様一人に処理させ、潰れればそれまで、生き残れば儲けもの……。
あのお方のあまりの忠誠心と圧倒的な強さを過信しているのではないか。
「……許せない」
ロスタが歯を食いしばり、ぽろぽろと涙を零す。
「ヴェイグ様は……エルニア様はさぁ! いつだって僕たちのために、世界のために耐えてるんだよ!? なのに陛下も、あの救世主イヴェットも……! みんなでエルニア様を追い詰めて、傷つけて……っ!」
「静かにしてください、ロスタ。ヴェイグ様のお休みを妨げてはいけないよ」
私は優しく、だが冷徹にロスタの言葉を遮った。
ベッドの脇に膝をつき、ヴェイグ様の冷え切った指先をそっと包み込む。
もう、決して二度と。
レテラ村で、あのお方の心が壊れるのを目の当たりにした、あの背筋が凍るような絶望。
救世主イヴェットに向かって「彼を殺したくなければ引け」と叫んだあの日から、私たちの覚悟は決まっていたはずだ。
「アラン。ロスタ」
私は二人を見つめ、静かに、けれど狂気すら孕んだ笑みを深めた。
「ヴェイグ様がお目覚めになられたら、まずは『完璧な事後処理』が終わったとお伝えし、安静にしていただきましょう。……そして、二度とあのお方が表舞台に出る必要がないよう、我々で『準備』を進めます」
「……『準備』、とは?」
アランの目が危険な光を帯びる。
「魔王陛下の監視を完全に遮断する結界の展開。これは私の十八番なので問題ありません。そして……人族の救世主どもが二度とあのお方に近づけないよう、この魔王城の最奥、最も安全で美しい地下庭園へ……あのお方を『避難』させるのです」
「──保護、ではなく……幽閉、ですか」
「言い方が悪いですよ、アラン。……あくまで『療養』ですよ」
私はヴェイグ様の、やっと穏やかになった寝顔を見下ろした。
洗脳の術式に苦しみ、世界の強制力に苛まれ、それでも私達を守るためにたった一人で地獄を飲み込んで帰ってきた、愛しい我が主。
もう、どこへも行かせはしません、ヴェイグ様。陛下の命令も、救世主との因縁も、世界の運命も……すべて我々が切り捨ててみせます。あなたはただ、お好きなだけ料理を作って食べて、私が淹れた温かいハーブティーを飲み、穏やかに笑っていれば良いのです……。
「ロスタ。今すぐ薬草庫から最高級の精神安定成分を持つハーブをお願いします。目覚められた際、一口でも多く召し上がっていただけるように」
「うん……! 任せて、ぜったいエルニア様が安心できるようにエルニア様のレシピでご飯作るね」
「では、私は陛下の耳に今回の件が正しく届かぬよう、報告書を捏造するとしますか。『闇騎士ヴェイグは任務を完璧に完遂し、現在は次の作戦に向けて極密の瞑想に入られた』と」
「流石、アラン。我が主の安寧のためならば、いかなる手段も問わないですもんね」
激重すぎる忠義と、10年の降り積もった愛とトラウマが完璧に合体した3人の従者たち。
主の『また勝手に話が大きくなってる! 助けて!』という悲鳴が届くはずもない暗闇の中で、彼らの「過保護すぎる絶対幽閉計画」が、静かに、そして着実に動き始めたのだった──。
第47話をお読みいただきありがとうございました!
イシューさんたちの激重すぎる愛とトラウマが暴走し、ついに「絶対幽閉(療養)計画」が始動してしまいました……!
報告書の捏造に魔王陛下の監視遮断、そして地下庭園への隔離計画まで……。
本人は「ただ痛すぎて寝落ちしただけ」なのに、目覚めたら外に出してもらえない箱入り主君になっていそうです(笑)
ここで読者の皆様に質問です!
・「激重な愛で過保護に閉じ込めたい従者たち」
・「ニート生活(監禁)の足音が迫りつつあるエルニア」
皆様なら、この従者たちの『重すぎる愛』、受け入れられますか? それとも全力で脱走を試みますか……!?(笑)
ぜひコメントで感想やツッコミを教えていただけると嬉しいです!
【★次回更新のお知らせ】
次回の9/27(日)18:00は、本編第48話の前に**【第47.5話 番外編(前編・後編)】を2話一挙同時投稿**いたします!
救世主イヴェットとエルフのキュリア、二人の旅の始まりを描いた過去エピソード(情緒破壊注意)となっております。
どうぞお楽しみに!
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