第46話 【勘違い大暴走】主が痛すぎて白目を剥いて寝落ちしただけなのに、忠臣たちが世界の危機を背負ったと錯覚してブチギレていました
(イシュー視点)
──転移の波動と共に、ヴェイグ様の寝室に異様な音が響いた。
「ぐ……っ、がっ……あ゛ぁ~~~!!」
「ヴェイグ様――ッ!?」
アランと共に部屋へ躍り出た私の視界に飛び込んできたのは、床に崩れ落ち、声を上げて苦悶に身をよじらせるヴェイグ様の姿だった。
あのお方が、声を隠すことすらできずに……!?
いかなる戦場でも顔色一つ変えず、常に絶対の冷徹を崩さないあの闇騎士が、床で泡を吹きかけて身を折って苦しんでいる。
息を呑む暇すらなく駆け寄り、私は即座に手から緑の治癒光を張った。
「息をお整えください! すぐに回復魔法を──っ!?」
だが、術式を接触させた瞬間、弾け飛んだのは私の魔法の方だった。
指先から腕へと駆け抜けたのは、焦げ付くような禍々しい悪寒。
(なッ……!? どうしてこんな高濃度の瘴気がヴェイグ様の中に……!? 脈が狂っている、それどころか全神経が灼かれて焼き切れかけているじゃないか……ッ! なぜ、なぜこんな状態で即死していない!?)
「イシュー! 外傷はない、だが体内で何かが弾けている! 一体何が起きているんだ!?」
アランが顔を蒼白にしながらヴェイグ様の体を支え、血走った目で私に叫ぶ。
「わかりません……! 回復術式が拒絶されている……! ヴェイグ様ご自身の強靭すぎる生命力と瘴気耐性だけで、なんとか即死を踏みとどまっている状態なんです……ッ!」
その時、激しく喘いでいたヴェイグ様の身体から、ふっと力が抜けた。
白目を剥き、がくりと首が傾ぐ。
「ヴェイグ様……? ヴェイグ様ーーーッ!?」
アランの痛切な叫びが部屋に響く。
意識を失われた……いや、あまりの激痛に耐えかねて途切れたのだ。
あぁ……そうか。そういうことか、ヴェイグ様……。
「くそっ、なぜ効かないのですか……!?」
何度手から緑光を張っても、まるで目に見えない壁に弾かれるように術式が散っていく。
焦燥で指先を震わせながら、私の頭の中では恐ろしい推測が組み上がっていく。
先日、魔王陛下とのお茶会の時、直々に賜った不審な密命。
あのお方はあの場で意気揚々と任務を受諾された。……いや、意気揚々と引き受けざるを得なかったのだ。
供犠式が行われれば、確かに我等魔王軍が不利益を被る。
だが、儀式自体を中止にしただけではこんな状態になるだろうか……。
はっ、もしやヴェイグ様は最初から全てを見抜いておられて……。
我々配下を巻き込めば全滅すると知っていたからこそ、たったお一人で、人界へ流れ出る瘴気をその身一つで引き受けて帰ってこられたのだ……!
『説明する余裕が無い……ごめん、おやすみ……』
などと脳内で泡を吹いて気絶した張本人の知る由もないところで、盛大な勘違いが発生しているなど、誰も気づくことは出来なかった。
私の脳裏には、絶望的なまでの「真実」が完成していた。
「……アラン! イシュー! 一体何があったの!?」
そこへ、騒ぎを聞きつけたロスタが息を切らせて飛び込んできた。
床に倒れ、ピクリとも動かないヴェイグ様の姿を見て、ロスタの顔から一瞬で血の気が引き、蒼白になっていく。
「……ロスタ。静かになさい」
私は震える手でロスタの背を撫でて宥めると、冷酷なまでに冷え切った声で告げた。
「ヴェイグ様は……我々のために、たったお一人で魔王城と王都の地獄を背負って下さった。……この恩義、どう返すべきか……分かりますよね?」
第46話をお読みいただきありがとうございました!
9/20からスタートしたシルバーウィークの3連日投稿、楽しんでいただけましたでしょうか?
連休日中にたくさんのPVや評価をいただき、本当にありがとうございました!皆様の応援のおかげで無事に完走できました!
今回はイシュー視点での「崇め奉られ(大勘違い)回」でした。
本人は限界を迎えて気絶しただけなのに、忠臣たちの覚悟がどんどん完了していく様子は、書いていてとても楽しかったです(笑)
読者の皆様にお聞きしたいのですが、
今回の忠臣たちの「あまりにも重すぎる愛」と「噛み合わないヴェイグ様」、皆様は誰のリアクションが一番ツボでしたか?
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次回の第47話は、【9/25(金)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。
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