第45話 【激痛】幼馴染の代わりに拷問級の呪いを引き受けたら、痛すぎて魔王城の床で泡を吹きながら転がり回る羽目になりました
※今回は一部、苦痛を伴う描写があります。苦手な方はご注意ください。
『あぁ……ミルトレッドの瞳から、完全に光が消えている』
自分の仕掛けた魔法陣が正しく作動しているか確認するため、気配を完全に遮断して天井の影に潜んでいた。
視界の下で繰り広げられる悲劇を、僕はまるでスクリーン越しに他人の舞台劇でも鑑賞しているかのような、恐ろしいほどの冷ややかさで見下ろしている。
イヴェットが五感を塞がれ、ルーカスが絶句していた。
『……可哀想に。イヴェットも、ルーカスも』
胸の奥で何かが静かに千切れた気がしたけれど、痛みはどこにもなかった。
闇騎士ヴェイグとしての優秀な肉体は、脈拍一つ乱さず、体温すら削ぎ落としたまま完璧な隠密を維持している。
『ニカにぃは化け物になりました、か』
ミルトレッドの小さな唇が紡いだその言葉を、高スペックすぎる超聴覚が無駄に鮮明に拾い上げる。
うん、そうだね。
君の言う通りだ。僕はもう、君たちの知っている人間じゃない。
感情の起伏すら失った思考の海で、僕はただ静かにその地獄を最後まで見届けていた。
役者たちが全員退場すると、いよいよ供犠式が始まるようだ。
隣の部屋にいても、満月教の司教が高らかに歌い上げる聖句が聞こえてくる。
それに合わせて、僕が持っている対の魔法陣がゆっくりと輝き始めた。
『さぁ、カルさんの魔法陣の効果は如何に!』
その光はゆっくりと回転しながら、始めは綺麗な透き通った光魔法特有の煌めきを放っていた。
だが、次の瞬間──バチっと雷に打たれたような衝撃と痺れが僕の身体を襲った。
全神経がブチブチと焼き切れる激痛。
そして魔法陣はドス黒い紫色の瘴気へと染まり、鈍く光りはじめる。
『ッガ、ァ……ッ!?!?』
脳を直接灼かれるような衝撃に、意識が白く染まりかける。
痛い、痛い、痛い!! ヴェイグの肉体には高い瘴気耐性があるはずなのに、身代わりとして流れ込んでくる瘴気は、想像を絶する拷問のような激痛だった。
『……っ、はは……。耐性のある僕でこれなんだ……イヴェットが毎回こんな痛みに耐えてたなんて、冗談じゃないよ……』
激痛で涙が滲む視界の果てで、意識が真っ白に染まりかける。
その白けた視界の奥底で、ふと、幼い頃の記憶が弾けた。
『イヴェットが辛いときは、僕が代わりに半分背負ってあげるよ』
『じゃあニカが辛い時は俺も背負う! 半分こだ』
あ……そうだ。僕、村でずっと浮いてて……苦しかったんだ。それを救ってくれたのは……イヴェット、お前だったんだな……
──そうだった。昔、二人で話したっけ。
泣き虫だったイヴェットの手を握って、生意気にもそんな『約束』を持ちかけたのは、僕のほうだった。
『……まったく。昔から……変わってないな、僕らは』
痛みに狂いそうになる脳内で、僕は力なく笑う。
また、お前に助けられたな、イヴェット。
霧散しそうになる正気を、痛みとあの日の言葉のおかげでなんとか踏みとどまることができた。
『──って、しみじみ思い出に浸ってる場合じゃない痛い痛い痛い!! 耐性あるって踏んでたけど、洗脳魔法レベルの激痛が来るなんて聞いてないよ!!』
っていうかイヴェット……お前、毎回こんな拷問に耐えてたのかよ……ッ!?
すげぇなアイツ。今度会えたら褒めてあげたいくらいだよ!
ボロボロの身体に鞭を打ち、一目イヴェットの姿を覗き見る。
──その時、不可視のはずの僕をルーカスが驚愕で目を見開いて見ていたような気がした。
『まぁ、隠密スキルカンストしてる僕が見えるはずないし……うん、イヴェットが無事なのも確認できた! これ以上ここにいたらマジで痛さで泡吹いて倒れる! 撤退、撤退ーーーッ!』
僕は必死で無表情(※痛みを噛み殺しているだけ)を繕い、完璧な隠密動作のまま、魔王城の私室へと直接転移の魔法を起動したのだった──。
◇
──フッと視界が切り替わり、見慣れた私室の絨毯が目に飛び込んでくる。
転移術式が完了した瞬間、糸が切れたように膝から崩れ落ちた。
「ぐ……っ、がっ……あ゛ぁ~~~!!」
あまりの痛みにヴェイグとしての威厳など吹き飛び、悲痛な悲鳴が口から漏れ出す。
『痛い痛い痛い無理無理無理!! 陛下バカなの!? こんなエグい拷問レベルの洗脳魔法を気軽に使ってるなんておかしくない!? そしてそれと同レベルの痛みを与えてくる供犠式も絶対なんかおかしいって!!』
誰もいない寝室なのをいいことに、床を転がり回って悶絶する。
だがその時、異様な物音と主のうめき声を聞きつけて、扉が凄まじい勢いで叩き開けられた。
「ヴェイグ様――ッ!?」
「な、何事ですかヴェイグ様!!」
飛び込んできたアランとイシューが、床で泡を吹きかけながら悶絶しているのを見て、一瞬で顔から血の気を引かせる。
あのいかなる時も冷静沈着で、感情を表に出さない闇騎士ヴェイグが、声も隠さず床で苦悶に身をよじらせているのだ。
その異様な光景に、従者たちの脳裏へ強烈な激震が走るのも無理はなかった。
「おのれ……敵の奇襲か!? 一体、誰がヴェイグ様をこれほど苦しめたというのですか……ッ!!」
「息をお整えください! すぐに回復魔法を――!」
『やばい、アランたちの殺気が凄まじいことになってるけど、説明する余裕が無い……痛い……ごめん、おやすみ……』
従者たちのパニックと叫び声を遠くに聞きながら、僕は闇騎士ヴェイグらしからぬ醜態で白目を剥き、そのまま意識を手放したのだった――。
【後書き】
第45話をお読みいただきありがとうございました!
天井の角から優雅に高みの見物をしていたはずが、カルさんの仕掛け(?)のせいで一気に地獄へ叩き落とされたエルニアでした。
本人は「完璧な隠密作戦大成功〜!」と思っていたのに、待っていたのは脳を直接灼かれる拷問級の激痛……。
最後は自室の床で盛大に白目を剥いて悶絶しているところを、よりによって重すぎる忠誠心を持つ部下(アラン&イシュー)に見られてしまいました!
───
【ここで皆様に質問です!(投票)】
Q. 床で泡を吹いて悶絶している闇騎士ヴェイグを目撃したアランとイシュー。次の瞬間、二人がとった行動はどれだと思いますか?
① 「敵の暗殺呪術だ!」と城中の医務官と兵士を動員して大パニック
② 「ヴェイグ様がこれほどの苦痛に耐えている……我らも同じ痛みを!」と全員で床に転がり始める
③ 「これは……二日酔い!?」と勘違いして、そっと温かいお茶を差し出す
「①だと思う!」「②なら面白すぎるw」など、数字だけでもお気軽にコメントで教えてください!
───
【連休日曜〜火曜・連日更新中!次回予告】
シルバーウィーク特別連日更新!
明日・9/22(火)の18:00に、第46話を投稿します!
次回は、主の白目悶絶を目撃してしまった三従者視点。
「一体誰がヴェイグ様を……!?」と、勘違いと忠誠心が恐ろしい方向へ暴走し始める回となっております。
連休最終日もぜひお楽しみください!
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