第42話 見た目は酒豪、中身は限界! 酒場のアイドルをお姫様抱っこで運び出し、そのまま隣のベッドで力尽きました
フロアの盛り上がりは最高潮に達していた。
片や、薄暗い夜を照らす灯りを受けてほのかに輝く月光の髪を少し乱した男装の麗人。
酒を浴びるように飲んだ影響で熱くなったのか、首元のボタンを一つ二つと緩め、その柔肌を存分に曝け出し色気を振りまくルーカス。
片や、眉一つ動かさず、淡々と注がれる器を空にしていく男。
相対する彼女とは正反対に、隙のないスーツ姿のまま無表情で静かに飲み続けていた。
「きゃー!! ルーカス様、乱れたお姿も素敵!!」
「なんなんだあの男は……底が見えない……!」
誰もが恐れおののく「無表情な男」──そう、僕である。
底が見えない? 嘘をつけ! こっちはもう限界突破して底の底まで見えちゃってるんだよ!!
視界はぐるぐると回り続けてるし、一口飲むたびに胃が燃え上がっているんじゃないかってくらいの激痛が走る。
前世では体験したことのない、新たな感覚。
この世界のお酒の精製度にバラつきがあるせいなのか、同じ酒を飲み続けているはずなのに、まるで違う酒精のものをちゃんぽんで飲んでいるような嫌な酔い方だ。
それともただ単に今世のエルニアの肉体がアルコールを受け付けないのか、判断がつかないが……かなりヤバい状態なのは変わらない。
自分の体について考えている間にも、お酒は絶え間なく注がれていく。ふと横を見ると、ルーカスもだいぶ出来上がっている様子だ。
「ふふふ、ははは! お前、本当に強いな。オレ様がここまで追い詰められたのは初めてかもしれないぞ」
そう言って、辛うじて首に掛かっていたジャボを大胆に外し、放り投げた。
それによって顕になる、酒気によって鮮やかに染まった薄桃色の胸元。
──バタン! と、取り巻きの女性の一人があまりの色気に気を失った。
『えっえっ!! ルーカスの色気が美女を気絶させただと!? はっ、こうしちゃいられない、今が絶好のチャンスだ!!』
一斉にその女性へと周りの視線が向き、ルーカス自身も席を立って彼女を介抱する。
僕はその隙を見逃すことなく、闇騎士ヴェイグの隠密スキルを存分に活かし、イシュー特製の眠り薬をお酒に入れることに成功したのだった。
すぐさま女性は上の空いている部屋に運ばれたようで一安心だ。
まったく、ルーカスの色気にも困ったものである。まさか女性を失神させるほどの色気を放つとは末恐ろしい。
さすが『ムンナイ』屈指の色男(しかし、男装の麗人)である。
ルーカスは何事もなかったように、僕が薬を入れたお酒を飲み干す。
『やったー!! やっと、やっと飲ませることができた……! もう頭がくらくらして、先にこっちがおねんねするところだったよ!』
僕は心の中でめちゃくちゃガッツポーズを取り、飛び跳ねたい勢いなのだが、相変わらずヴェイグの身体は冷淡に彼女を一瞥するだけに留まる。
まあ、エルニアの身体だったら表情に素直に出てしまい、薬を飲ませるなんて土台無理な話だっただろう。
「マスター、チェイサーを2つもらっていいか?」
僕は人形のような冷たさのまま、何気なく亭主を呼んで水を頼む。
「ふっ、どうした、あきらめたの……か」
ルーカスの勝ち誇った言葉は最後まで続かなかった。
僕はカウンターにいきなり突っ伏した彼女にグラスが倒れてこないよう素早く遠ざける。
そして、亭主からもらった水を飲んでアルコールによるデバフが少しでも軽減されることを祈る。
『まあ、そんな気休めが効くわけないよね!!』
しかし、ここで倒れるわけにはいかない。アランの着せ替え人形になってまで潜入したんだ。やるっきゃない!!
「マスター、すまない。部屋を一つ借りることは可能だろうか? さすがに自分が酔いつぶした相手をこのまま放置するのは忍びない」
亭主は心得たように鍵を手渡してくれた。なぜか親指を一本立ててサムズアップされたが、よく意味が分からなかった。
なるべく急いで、ルーカスに肩を貸して運び出そうとしたが、完全に意識を失っている相手だとバランスが取りづらいと思い直し、お姫様抱っこに変えて持ち上げる。
「きゃー! なんて絵になる光景なのかしら!」
「ルーカス様は寝顔も素敵なのね!」
「あの男、あれだけの量を飲んで顔色を一つも変えず、ルーカス様を担ぎ出すなんて……まさに怪物……っ!」
周囲がざわざわとしつつも道をあけてくれたおかげで、僕はスムーズに階上の部屋まで進むことができた。
さて、どうやってドアを開けようかと一瞬悩んだが、ヴェイグの筋力に不可能はなかった。
軽々と彼女を片手だけで支え、難なく鍵を開けて中に入る。
部屋に入った途端、ベッドへとルーカスをそっと静かに横たえた。
『よし……っ! 意識が飛ぶ前に、血を……!』
既にこちらも限界を迎えていて、視界がチカチカと明滅する中、僕はポケットから採血用の小瓶を取り出した。
ヴェイグのハイスペックな指先を無理やり精密に動かし、ルーカスの指先から手際よく必要量の血を採取して固く栓をする。
『と、取れた……! これでアランたちに呆れられずに済む……』
その瞬間、張り詰めていた糸がプツリと切れた。
猛烈なめまいと睡魔が津波のように押し寄せる。
僕は小瓶をしっかりとポケットに仕舞い込んだのを確認した直後、そのままルーカスのすぐ隣のベッドへとなだれ込むように倒れ込んだ。
『あ、これ……完全にダメなやつだ……』
脳内で最後のツッコミを呟いたのを最後に、僕の意識は深い闇へと落ちていった。
第42話をお読みいただきありがとうございました!
酒勝負の末、限界突破しながらもなんとか血を採取し、お姫様抱っこからの寝落ち……!
見た目は「余裕顔で美女を連れ去る怪物」、中身は「限界寸前の必死なエルニア」という激しい温度差を楽しんでいただけたら嬉しいです。
ここで読者の皆様に質問です!
もし自分が隣のベッドで目覚めたルーカス(男装の麗人)だったら、起きて一番最初にどんなリアクションをすると思いますか……!?
「怒る!」「勘違いして焦る!」「素知らぬ顔で煽ってくる」など、皆様の予想や一言コメントをお待ちしております!
次回の第43話は、【9/18(金)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。
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