第41話 口滑らせて「お前が欲しい」と言ったら男装の麗人に酒勝負を挑まれた件。助けてLV.99の毒耐性!
今日も変わり映えのしない、いつもの日常。がやがやと賑わう王都の喧騒の中、重厚な扉が開く。
現れたのは、仕立ての良すぎるスリーピーススーツに身を包んだ、恐ろしいほどに整った容姿の男。
長くここで勤めているが、あんな雰囲気のある男はてんで見たことがない。それほど印象に残る美丈夫だ。
闇のように深い藍色の長髪、冷たく光る紫水晶の瞳、そして全身から溢れ出る圧倒的な強者の覇気……。
居合わせた客たちが息を飲み、酒場が一瞬で静まり返る。
(な、なんだあの男は……! どこぞの超高位貴族か……? いや、あの放たれる殺気、ただ者じゃねえぞ……!)
男は冷徹な眼光で店内を見回すと、誰もが自然と道をあける中、静かに、そして確実に狙いを定めたように歩みを進める──。
◇
安いエールの酒気が立ち込める店内の隅。僕は静かに目立たないように座ろうとしたつもりだった。
『うわっ、めっちゃ見られてる!! なんで!? 服装変えたのに全然目立たないように潜入できてないじゃん!! アランのヤツ、ノリノリで選んでおいて……やっぱりこのスーツ目立ちすぎるんだよ!! 胸元の紫水晶のピンもキラキラ主張しすぎてるって!!』
だが、息をつく間もなく、あっという間にルーカスの取り巻きだった美女二人に囲まれてしまった。
「ねぇ、お兄さん。一人で寂しく始めようっていうなら、こっちに来て一緒に飲まない?」
「そうよ。壁の花になってるなんて勿体ないわ」
願ってもないチャンスだが……いや、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ!
美女に手を引かれながら、本日のターゲット──ルーカスの前へと連れ込まれた。
「おやおや、オレ様のガールフレンドたちはオレではなく、本日は彼を所望なのかな?」
「いいえ、ルーカス様。見かけない方だったので、お話しされたいかなって思ったんです」
僕の前での態度とは打って変わって、しなだれかかりながら妖美にルーカスへ笑いかける。
なるほど、ルーカスに対しての点数稼ぎのダシにされたのか……。
改めて正面から見ると、相変わらず無駄に顔が良い。
月光を思わせる儚げで薄い金髪に、吸い込まれそうな金眼。
黙っていればまるで一輪の美しい花のような儚い美形なのに、男物のジャケットを小粋に着崩し、チャラけた笑みを浮かべて女性客を骨抜きにしている。まさに「男装の麗人」の真骨頂といった姿だ。
「お前が噂のルーカスか?」
無表情がデフォルトのおかげか、こちらを一瞥した彼女は特に顔色を変えたりはしなかった。
どうやら、魔王軍最高幹部・闇騎士ヴェイグの情報はまだ手に入れていないようだ。
「おやおや、何の噂かは知らないけれど、見知らぬ御仁にもオレの名前が知れ渡っているなんて、このルーカスも随分人気になったものだ」
「きゃー、ルーカス様!!」と黄色い悲鳴と、煽り立てる酔っ払いたちの口笛が響き渡る。
慎重に言葉を選ぶべきだと気を引き締めた。
『一応、この姿では初対面だからな。疑われないようにしないと……』
「……ルーカス。私と杯を交わせ。お前が欲しい」
──あっ。まさかここでヴェイグ口調のミスが発生するなんて。
ザワッ……男同士のロマンス!? それとも果たし状!?
周りが色めき立ったのが、見回さなくても空気から伝わってきた。
すると、目の前の男装の麗人はニヤリと男臭く笑ってから、こう宣言した。
「へえ、急に名指しで告白かい? 面白い、オレ様を泥酔させて連れ去る気なら、酒勝負で勝ってからにするといい! マスター、この酒場で一番度数の高い酒を2つ!」
ルーカスは酒場の亭主に向かって堂々と注文する。ざわざわと喧騒が激しくなる中、酒がドンっと派手な音を立ててカウンターに置かれる。
『ふっ、ルーカス、甘いな。僕は前世ではお酒はそれなりに強かったんだ。これくらいの量じゃジュースみたいなもんだよ』
くいっと二人同時にグラスを煽る。
その瞬間、アルコールが一気に喉を焼く。薬酒なのかと思わせる独特の風味、僕が飲んだことのあるどのお酒より酒臭さが鼻につく。
ていうか視界が歪……ッ! 嘘だろ、ヴェイグの身体、酒に弱すぎる!!? 毒耐性があるはずだろう!! なんでアルコールに弱いんだよ!
だが、僕はそれを表に一切出さず、優雅に飲み干したグラスを置く。
「……ふっ、軽いな。水のようだ」
「あの強い酒をストレートで!? なんて怪物だ……!」
ざわざわと周りの盛り上がりが明らかに増している。先ほどより観客が増えているようだ。
「なるほど! 中々イケる口のようだな。じゃー、次も同じモノを!」
亭主も面倒になってきたのか丸ごと瓶を置き、取り巻きの花たちがすかさず空いた器を満たしていく。
そういえば、エルニアになってから僕ってお酒飲んだことあったっけ……。
──って、考えてる場合じゃない! 視界が益々ぐにゃりと歪み始めた。
闇騎士ヴェイグの毒耐性スキル(LV.99)は!? 飾りか!!
それとも、アルコールは毒に入らないとか……嘘でしょ、ゲームの仕様どうなってんの!?
ここで倒れれば潜入は失敗、おまけに『酒に敗れた闇騎士』なんて前代未聞のダサすぎる二つ名が付けられてしまう。
『頼むぞ……唸れ! 闇騎士ヴェイグのポーカーフェイス力……!!』
僕は口を開けば吐きそうなのを死力で耐え、一切の感情を殺した絶対零度の無表情(鉄仮面)を顔面に貼り付けた──。
第41話をお読みいただきありがとうございました!
王都潜入早々、まさかの口滑らせ(ヴェイグ口調の誤発動)から酒勝負に発展してしまいました……!
闇騎士のハイスペックな【毒耐性:LV.99】が、まさかアルコールには意味をなさない仕様だったとは……神様の意地悪ですね(笑)。
ここで読者の皆様に質問です!
今回初対面となったヴェイグとルーカス、皆様にはこの二人のやり取り、どんな風に見えましたか?
「初対面で『お前が欲しい』はヤバい(笑)」「ルーカス楽しそうだな!」「この二人の掛け合い好き!」など、印象に残った場面があれば一言でもいただけると嬉しいです!
作者はこういうキャラ同士の掛け合いが大好きなので、皆様の感想をこっそり覗かせていただけると喜びます(笑)。
次回の第42話は、【9/15(火)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。
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