第39話 王都へ潜入調査に行きます! ──なお、過保護な部下たちが黙っているわけありませんでした
王都の酒場にいる敵軍の最高幹部って、色んな意味で危険だよね?
ということで、闇騎士ヴェイグの正体がバレないように潜入し、ルーカスに一服盛ることになりました!
ただでさえ、この深藍色の長髪のせいで一般人には紛れづらい容姿になってしまったのに、さて、どうするべきか……。
『まぁ、この前魔界の市場に行った時と同じ格好でいいだろう』
そんな適当なことを考えてクローゼットを漁っていると、過保護のアランが仕事を中断して俊敏にやってきた。
「クローゼットなんてご覧になって、如何されましたか? ヴェイグ様」
「あぁ、ロスタに聞いているだろう? 次の任務の為に王都に潜入しようと思っているので、この前使った外套を探している」
するとアランがやんわりと僕の手を止めさせ、少し寂しそうな顔をしてからこちらを真剣に見つめる。ん? なんか圧が……。
「ええ、存じておりますとも。酒場で女性に一服盛って血を採取するんですよね? では、その外套姿ではかえってヴェイグ様のお姿が目立ってしまわれますよ」
「そんな……事はないと思うが……」
「いいえ、王都の栄えている酒場で外套とフードを被った如何にも……みたいな人物は、怪しまれてしまうに決まっています。ここは私にお任せくださいませ」
そう言ってイシューを呼び出し、アランが先程までやっていた仕事を引き継いでから、彼は足早に僕の部屋を慌ただしく出て行った。
『ヤバイ。アランの従者魂に火を付けてしまったかもしれない……これは長くなりそうだ』
内心汗だくで、それをただただ見送ることしか僕には出来なかった。
◇
「ヴェイグ様……、アランに何を言ったんですか?」
中断されたものを確認しながら、のんびりとマイペースなイシューがこちらを窺う。
「別に、潜入に必要なものを揃えていただけだ」
身の潔白を証明するために、無表情なりに頑張って端的に主張を返す。イシューは静かにこちらを見つめてから作業の続きではなく、簡易キッチンへと向かい、お茶を用意し始めた。
そうしている間にすぐに準備ができ、僕は相変わらず高そうなマホガニーみたいな素材で出来ている書斎机の前に座らせられ、紅茶を提供される。うん、美味しい。相変わらず、素晴らしい腕だ。
「あれは暫く、時間を要しますよー。今のうちに服装以外のものを確認致しましょう」
そう言って懐から透明な液体が入った硝子製の小瓶を取り出し、僕の目の前に置く。
「こちら頼まれていた物です。見ての通り無色透明で、嗅いで頂ければわかりますが無臭です。味もお酒に混ぜるのでしたら気にならない程度に仕上げたので、それもご安心ください。試されますか?」
「いや……そこは信頼してる。ご苦労だったなイシュー、助かった」
小瓶を受け取るためにマホガニー製の書斎机に置いた手が、ふと軽く体重を預けた──その瞬間。
パキッ、と。乾燥した小枝が折れるような、ありえない硬質の音が響いた。
恐る恐るゆっくりと視線を落とせば、最高級品であるはずの頑丈な机の端が、五本の指の形に沿ってごっそりと崩れ、放射状に深いヒビ割れが走っている。
『──ッぅえ!? うそ、僕そんなに握力強かったっけ!? おかしいな……最近ちょっと筋トレ増や……いや、サボり気味だな!?』
冷や汗を流しながら内心で絶叫する僕とは裏腹に、声音は合成音声のように微塵の揺らぎもない平坦な響きを保ったまま、僕は何事もなかったかのように指を離した。
「……失礼、少し古かったようだな」
「いえ、流石は魔王軍最高幹部の闇騎士ヴェイグ様……。お渡しの際、うっかり我々が触れれば粉砕されてしまいそうなほどの、凄まじくコントロールされた殺気を感じますね」
『古くないわ! えっ古くないよね!? めっちゃ高級品だよ! あと殺気じゃなくてただの力加減のバグだから!!』
崩れ落ちた木片を拾い集めながら、イシューは何事も無かったように会話を再開する。
「残念です。ロスタかアランにでも盛って試させるのかと思ってました」
いやいや、流石に自分の従者を実験台にはしないよ! 試すなら自分で試すくらいだよ! 陛下といい、なんで魔王軍ってちょっとみんなマッドサイエンティスト気味なの!? なんで!?
「ヴェイグ様。この頃、ロスタの髪を撫でるのが気に入っているのなら、この薬を盛って撫で放題にするとかいかがですか? 本人が寝てるなら何をしてもバレないですよ……」
「……む。まぁ、彼等はこの頃よくやってくれているから、休暇がてらついでに試すというなら私は止めないが……あまり、二人で遊んでやるんじゃない」
『なっ……!? 悪魔の囁きが聞こえたが気のせいだ……というか部下に眠り薬を盛るのは普通に犯罪だろう!?』
心の中で盛大に頭を抱えつつ、表情筋を死なせたまま冷徹な最高幹部っぽくスルーを決め込む。
「ふふふ、冗談ですよ」
そう言って用事は済んだようで、先程の作業へと戻っていった。
◇
潜入調査ということで暫く魔王城を空けるので、引き継ぎというか決裁書類などで前倒しできるものは片付けて、僕が居なくても近衛部隊がちゃんと回るように采配していく。
基本はアランが仕事を切り盛りしてくれているが、最終確認だけは闇騎士ヴェイグとして僕がする必要がある。不備なんてないので本当にただ、確認するだけの作業だ。
まぁ、なんでもこういう仕事の書類の最終チェックは複数人でした方が良い。
どんなに優秀な人間でもケアレスミスをすることはあるからね。それを少しでも潰せるなら使えるものは使わなくてはね。
アランが戻ってくるまでに大体の確認作業は終わった。これで暫く闇騎士ヴェイグが居なくても、アランがいれば問題なく運営出来るだろう。
──バタンと派手な音を立てて扉が閉まる。普段は落ち着いていてロスタの粗忽を注意する側のアランが、慌ただしくやってきた。
「お待たせしましたヴェイグ様。では、お召し替えを……」
恭しく礼をしつつ、山になった荷物が嫌でも目に入る。アランだけかと思っていたが、荷物持ちにちゃっかりロスタが参戦していた。お前もなのかロスタ……。その視線に気付いたようで、ロスタがこちらを向いてニッコリ笑う。
「ヴェイグ様。王都に行くんですよね! 隠密行動なら僕にお任せ下さい!!」
なんか滅茶苦茶張り切ってるんだけどなんで?? そんな事を考えていたらいつの間にかイシューによって、僕の背後に大きな姿見が置かれた。
「お覚悟を……ヴェイグ様」
『僕は着せ替え人形じゃなーーーーい!!』
第39話をお読みいただきありがとうございました!
力加減のバグで高級マホガニー机を砕き、「殺気」と勘違いされるヴェイグに爆笑でした(笑)。
そして「ロスタに薬を盛って撫で放題に」と笑顔で提案してくるイシュー……魔王軍の過保護とマッドサイエンスっぷりが留まることを知りません!
ラストの「僕は着せ替え人形じゃなーーーーい!!」からの着せ替えタイム、一体どんな姿に仕上がってしまうのか楽しみですね!
【読者の皆様へ質問です!】
今回のお話で一番笑ったヴェイグのツッコミや部下の行動はどこでしたか?
また、過保護な三従者によってヴェイグがどんな変装をさせられると思うか、予想をぜひ教えてください!
次回の第40話は、【9/11(金)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。
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