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洗脳されて闇騎士になった僕、なぜか中身はマイペースなゲーマーです~親友を救うため、前世知識でバッドエンドを攻略します~  作者: 終端カヌレ
第1部:すれ違いの残響編〜呑気な闇騎士と失意の救世主〜(第1話〜第33話)

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第32話【番外編】冷酷なる闇騎士。忠臣アランが目撃した、心なき『主君』の異常


戦端の幕は日が落ち切った暗闇の中、静かに落とされた。


魔族は人族とは違い、夜目が効く。


その隙を突くために我らはあえて夜を待ち、黎明(れいめい)の道標が立て籠もっている砦を包囲することに成功した。



この作戦の立案は、私の横で淡々とその戦果の報告を聞いている闇騎士ヴェイグ様だ。


今は兜(かぶと)を被っているため表情を窺うことも難しく、いつにも増して何を考えているのかを察するのが困難である。


普段の主は感情を表現するのが苦手な方ではあるが、思慮深く、このように犠牲が多く出るような作戦はお嫌いのはずなのだが……まるで魔王陛下が戦場に立った時のような重苦しさを感じる。


そう、本日のヴェイグ様は何かがおかしい。短い付き合いではあるが、このようなことを積極的にする方だっただろうか。


ヴェイグ様は魔王様が突然連れてこられて重宝されているため、魔王軍でのお立場がまだ盤石ではない。この作戦を機に武功を立てて、ぜひとも周りの有象無象たちを黙らせてしまえと思っているのだが……とても軽口を叩ける雰囲気ではない。私はヴェイグ様を支えるために神経を尖らせていた。


だが、彼は私とは真逆で戦場を眺めては事務的に指示を出している。功を焦っているのかと陰口を叩かれたりもしたが……いや、そんな理由で動く方ではないと思うのだが……。


最初は夜襲を行ったので有利に進めていたはずだったのに、やはり砦という強固な壁が立ち塞がり、時間の経過とともに徐々に戦線が後退していく。


「伝令です!! 右翼は持ち堪えていますが、左翼部隊の損壊が激しく……闇騎士様! このままでは押し返されてしまいます!!」


伝令部隊の者が額から汗を垂れ流しながら必死に戦況を訴えてくる。だが、我が主は特に動くこともなく、静かに戦場を見つめているだけだ。


「下がりなさい。報告は以上なのでしょう? 伝令がいつまでもここにいるものではありません」


私はそう言って憔悴している兵士を下がらせ、主の手元で広げられている地図に状況を再現する。まるでこちらの手が読まれているように、ことごとく作戦が潰されていく一方だった。


──これが、救世主イヴェットの実力なのか……本当に未来が見えているとしか思えない。



「ヴェイグ様、左翼が手酷くやられているようです。少し手助けしてもよろしいでしょうか?」


主に向かって意見するのは如何なる時も緊張が走る。ヴェイグ様の紫黒(しぐろ)色に輝く兜から覗く、冷たいアメジストを見つめ返し、答えをじっと待つ。


「アランが望むなら好きにするがいい」


「側を離れることをお許しいただき、ありがとうございます、ヴェイグ様。代わりにイシューを付けますので……」


冷たく温度を感じない言葉を受け、私は深々と一礼し、ヴェイグ様の御前から下がる。左翼の戦線を回復させたら直ぐに戻ろう。やはり、今日のヴェイグ様の様子は何か変だ。救護の指示系統を担当しているイシューに声をかけ、私は急いで左翼へと転移するのだった。



◇



そこは奥の天幕で予想していた光景より数段、酷い状況だった。夜襲としての利点は既に敵側の魔法士により失われていて、煌々と魔力による灯が点され続けている。そして、この魔力による明かりが指し示す状況は、我ら魔族にとっては不利に働くのだ。


その証拠にロスタの偵察により判明した敵の主戦力、光の魔法士のエルフがこちらを見据えているのが遠目に見える。


ヴェイグ様のお側をあまり離れたくはないが……目の前の女をあの方に近寄らせるわけにはいかない。


彼女──キュリアは救世主の仲間であり、光魔法を得意とするので要注意人物だ。


魔族にとって彼女の体に触れるだけで、低級のモノは消滅する。私だってタダでは済まない。少し接触しただけでも身体に激痛が走り、一瞬で行動不能になるだろう。奇襲も考えたがこちらの姿を一度見られているので効果が薄いと考え、正面からぶつかる。


「貴女は救世主殿の側にいなくて良いんですか?」


「良いのよ。彼には私以外にも仲間はいるし、いつまでも保護者代わりの私が側にいると成長出来ないじゃない?」


そう言ってエルフの女は攻撃的に笑う。髪が風に流され、戦場の炎に煽られながらその金糸が揺らめき、より妖美に魅せた。


「それより、貴方こそ彼の側を離れていいの? イヴェットが向かっちゃうわよ」


「救世主殿に遅れを取るなど、我が主に限ってあり得ませんから……それより、その場に貴女が立ち会う方がこちらの損失になります。お覚悟を……」


私は腰に挿しておいたレイピアを慎重に引き抜き、彼女へ刺突をお見舞いするために一気に加速する。


まずは詠唱をさせないために喉を狙い、小さな的に向かって進むが、初撃は女が持つ杖で簡単に右へ逸らされ阻まれる。


だが、私の本当の狙いはそれではない。左手に抱いていた魔導書が私の魔力に反応して、自動的に捲れていく。


「風よ、我が前に立ち塞がる相手を引き裂け──」


直線的に放たれた不可視の風刃が、女の喉元へと襲いかかる。詠唱器官を潰すのは対魔法士の鉄則。完璧な一手のはずだった。


だが、女は嘲笑うかのように薄く口元を歪めると、身を捻りながら手に握る杖を斜めに滑らせる。


──ガゥン、と。まるで硬い金属を弾いたかのような重い衝撃音が夜気に響いた。


女は杖の先端で風刃の一番威力が乗る節を的確に捉え、円を描くような最小限の振りで、かまいたちの軌道を真横へと受け流してみせたのだ。逸れた風刃が背後の瓦礫を激しく切り裂き、粉塵が舞う。


(……嘘でしょう、魔法を……ただの杖術で逸らした……!?)


魔法で相殺させる隙すら与えない計算だった。それが相殺どころか、魔法の発動すら必要とさせずに処理されたのだ。教科書通りすぎる自分の初手をあざ笑うような女の余裕に、背筋を冷たい汗が伝う。


(っく、これは一筋縄ではいきませんね)


私は右手のレイピアを下段に構えてから名乗りを上げる。


「面白い、魔王軍最高幹部・闇騎士ヴェイグが従者アラン。参ります」


弾かれた風刃の軌道の裏、私はすかさず左手の指を弾く。


「……甘いですね」


軌道を逸らされた風刃が切り刻んだ瓦礫の粉塵に紛れ、先ほど仕込んでおいた微細な魔力糸が女の足首を絡め取る。


同時に、死角から私のレイピアが彼女の心臓へと肉薄した。流石のエルフといえども、このゼロ距離からの刺突を躱すのは不可能なはず。


だが、キュリアは微動だにせず、ただ私を冷ややかに見据えた。


「……っ!?」


直後、彼女の足元から放たれた強烈な光の衝撃波が、私の魔力糸を焼き切り、吹き飛ばす。躱されたのではない。最初から私の罠など見越して、自分の魔法で相殺するための餌にされていたのだ。


(馬鹿な……私の全力を、ここまで容易く……!)


息を呑む私の眼前で、キュリアは優雅に杖を構え直す。


「いい腕してるわ、魔族の執事さん。でもね、イヴェットはもっと先を見てるのよ。あなたたちの手の内なんて、とっくに全部想定済みなのよ」


背筋に冷たいものが走る。私が命を懸けて編み出した戦術が、彼らにとっては過去に通った通過点に過ぎないというのか。


だが、悔やんでいる暇はない。


左翼の崩壊は時間の問題。これ以上ここに長居すれば、私の命だけでなく、ヴェイグ様の方にまで致命的な影響が及ぶ。退避用の転移を──


「逃がさないわよ。こっちへいらっしゃい」


キュリアがふわりと微笑んだ瞬間、彼女の足元から周囲一帯へ、複雑な幾何学模様を描く光の陣が展開された。


転移阻害の魔力封鎖──!? いや、違う。

誘導のトラップだ!


魔族にしか使えない転移魔法を攻略するために作られた光魔法の一つ。それが目の前で鮮やかに私の転移魔法を書き換えていく。


視界が眩い光に覆われ、私の身体が強制的に別の空間へと引っ張られる。空間跳躍の行先を無理やり書き換えられた私は、気がつけば激しい戦闘音が響き渡る戦場のど真ん中、ひときわ眩い光を纏った一人の男の目の前へと引きずり出されていた。


琥珀色の瞳。

血が滲むほど聖剣を握りしめ、圧倒的な殺気を放つ青年。──救世主イヴェット。


(しまった、誘導された……っ!)


脳内で警報が鳴り響く。隙だらけの私を捉え、イヴェットの瞳に凄まじい怒りと殺意の光が宿るのが見えた。


「──もらったァッ!!」


凄まじい神速の踏み込み。救世主の聖剣が、私の首を両断すべく、容赦なく一閃の軌跡を描いて振り下ろされる。死を覚悟したその瞬間。


ガァンッ!! と、耳を裂くような重い金属音が響いた。


間に合わないはずの距離から、漆黒の騎士が滑るように割って入り、黒銀の断罪剣でその一撃を完璧に受け止めていた。


──闇騎士ヴェイグ。


冷酷なる魔王軍の最高幹部が、我が主が、私の盾となって立ち塞がったのだ。


(ヴェイグ様……!)


忠誠を誓う主が自分を救ってくれた。その事実に安堵しかけた瞬間、私の脳裏を猛烈な違和感が駆け巡る。


違う。おかしい。


救出のタイミングがあまりにも完璧すぎる。まるで、私がトラップに掛けられ、ここに引きずり出されることすら『織り込み済みの駒』として計算していたかのように。


犠牲を何より嫌うはずのお方が、私すら餌にして救世主を引きずり出した……?


「……あ……」


喉から引きつった声が漏れる。

兜の奥から覗く紫黒の瞳。そこには、私を救った安堵も、敵への憎悪すら存在しない。


私は悟ってしまった。

目の前に立ち塞がる『主』は──魔王の命を完璧に遂行するためだけに動く、心なき人形なのだと。


第32話をお読みいただきありがとうございました!


本日はアラン視点による番外編をお届けしました。

洗脳下にある「闇騎士ヴェイグ」の冷酷な実態、そしてアランが抱いた戦慄をお楽しみいただけていれば幸いです。


【お知らせ】

当初は5日連続投稿を予定しておりましたが、この過去編の描写をより深掘りするため「アラン視点」と「イヴェット視点」に分割することにいたしました!

そのため、急遽【6日連続投稿】へ変更となります!


明日の【18:00頃】は視点をイヴェットへと移し、かつての親友ふたりによる地獄の対峙をお届けします。


このすれ違いの果てにふたりが迎える結末を、ぜひ最後まで見届けていただけると嬉しいです。


続きが気になる方は、ぜひブックマーク登録や評価(☆☆☆☆☆)での応援をよろしくお願いいたします……!


※本作は「なろうチアーズプログラム」に参加しています。画面下のボタンから応援チアをいただけると嬉しいです!

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シリアス ダーク 男主人公 魔王 勇者 西洋 魔法 冒険 日常 ハッピーエンド 勘違い 飯テロ ゲーム転生 闇堕ち コメディ
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