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洗脳されて闇騎士になった僕、なぜか中身はマイペースなゲーマーです~親友を救うため、前世知識でバッドエンドを攻略します~  作者: 終端カヌレ
第1部:すれ違いの残響編〜呑気な闇騎士と失意の救世主〜(第1話〜第33話)

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第30話 故郷消滅とイヴェットの生存。崩壊する僕の精神は、最悪の夢へと連れ戻される


──バチッと、強制的に壊れかけた起動スイッチを押し込まれたような、最悪な目覚めだった。


「がはっ……、ぁ……!?」


目を開けた瞬間、肺からせり上がってきたのは、鉄の味がする黒い血で、咄嗟(とっさ)に押さえた手のひらに垂れてくるのが見えた。


身体を起こそうとしただけで、胸の真ん中を赤く焼けた鉄コテで抉られるような激痛が走る。


「くっ……なんで……」


いつもの魔王の刻印の痛みじゃない。

胸の真ん中あたりに包帯がしっかりと巻かれていて、そこが灼けるように痛む。


そのうえ頭痛も止まらず、意識がまだはっきりとしない。

どうにか状況を確認しようと目線を上げると、趣味の悪い家具が目に入る。


あぁ、ここはヴェイグの私室か……。


『待て……僕のこの胸の傷は、なんだ? 刻印じゃなくて、まるで、何かで深く"貫かれた"ような──』


「……様! ヴェ……様! お気づきに……!」


アランが心配そうにこちらを覗き込んでいるのに、ようやく気づくことができた。

どうやら耳までおかしいようで、彼の言葉が上手く聞き取れない。


すぐに反応を返さない僕に何か察したのか、アランが触診するように、だが傷に触らないようにゆっくりと容態を確認していく。


「イ……、回復……を」


その言葉の後に視界に緑の光が溢れる。

イシューが回復魔法を掛けてくれているようだ。


「聞こえますか? ヴェイグ様?」

「……あぁ、すまない。助かった、イシュー」


鼓膜が修復され、耳もしっかりと音を拾う。

胸の痛みは残念ながら弱まったくらいだが、頭痛や意識の靄(もや)は綺麗さっぱり消え去っていた。


「アラン。何があったか、聞いていいか? 途中から記憶が曖昧で……」


そう言葉にした瞬間、三従者たちの表情が文字通り凍りついた。


アランは唇を強く噛み締め、イシューは悲しみに濡れた顔を急いで隠すために僕から目を逸らし、ロスタはその大きな目に涙を浮かべる。

だが、アランが覚悟を決め、ゆっくりと話し出した。


「どこまで覚えていらっしゃいますか?」


「……正直なところ、陛下とお茶会をした後から記憶にノイズが混じるというか、所々飛んでいる箇所がある。おそらく、警備任務に就いたはずだったんだが……いつの間にかレテラ村に居て……」


必死にその先を思い出そうとすると、まるで「忘却したままでいろ」とでも言うように左胸の刻印が熱く激しく脈打つ。


──いや、違う。

僕の記憶は、あの燃え盛るレテラ村でミルトレッドの絶叫を聞いた瞬間に、ブツンと回路を切断されたみたいに完全に途切れている。


ならば、この胸の凄まじい傷はなんだ?

僕が心を失って暴走した後に、一体誰が『闇騎士ヴェイグ』をここまで追い詰めて、胸を貫くことが出来ると言うんだ?


状況証拠とゲーム知識(アイデア)が、最悪の答えを弾き出す。


──あの場にいて、闇騎士の紫黒の鎧をぶち破り、僕の胸の中心を正確に射抜ける存在なんて、世界に一人しかいない。


「……イヴェット、なのか……?」


ぽつりと小さく漏れ出た僕の呟きに、アランたちがビクリと過敏に肩を揺らした。

それが何よりの肯定だった。


「救世主は、どうなった……!?」


声が震えて出なくなるかと思ったが、こういう時も都合よく洗脳魔法の効果で、冷たい声が淡々と尋ねる。


「敵(きゅうせいしゅ)は、我々が駆けつけた際にはすでに命からがら逃走した後でした。追撃は行っていません」


『生きてる。イヴェットは、生きてる……!』


その事実だけで、僕の崩壊しかけた精神は、かろうじて現世に繋ぎ止められた。

本当に良かった……。


「そうか。……あの、村は?」


「セドューレ閣下の軍がすでに制圧、および消火を行なっているとのことです。こちらの損害は……ヴェイグ様が重傷を負われたこと以外は軽微。投降者はおらず、人間の生存者は……確認されていません」


ロスタの言葉に、目の前が真っ暗になる。


あの優しかった故郷は、僕という『自動人形』のせいで、地図から完全に消滅したのだ──


咄嗟に何も反応出来ず、僕は唯一自由に動かせる右手で強くシーツを握りしめることしか出来なかった。


だが、その感覚にも何か違和感があり、ゆっくりと利き手を開く。


──そこには、先ほどのイシューの回復魔法の範囲外だったのか、傷が見える。

何かを強く握り締め過ぎたせいでくっきりと爪の跡があり、爪の中にも赤黒い血が残されたままだった。


それを注意深く見ようとした瞬間、また──ッジジと視界の端にノイズが走る。

意識が飛ばないように強く目を瞑り、再び開いた時に目に入ったのは、真っ赤に染まった両の手だった。


「……ッひ」


引き攣った(ひきつった)小さな声が喉から漏れ出た。

近くにいたイシューには気付かれたようで、視線がこちらを向く。


「手がどうかされましたか? ヴェイグ様」


その言葉で、この異常な光景が自分にしか見えていない事を悟る。


それもそうだ、あの世話焼きのアランが僕の手をそのままにしておくはずがない。

では、なぜ? この手が赤く見えるのだろうか……。


その時、耳元で甲高い悲鳴がリフレインする。


《どうして!? なんで……ニカにぃ。パパとママを殺したの!?》


『あぁ……あぁそうか……僕がこの手で……あの優しいミルトレッドの両親を……』


今度は真っ黒な血ではなく、喉が灼けるように痛い。


咄嗟に真っ赤に染まった両手で口を押さえるも、すぐに溢れて酸(す)えた臭いが部屋に充満する。

アランが琺瑯製(ほうろうせい)の桶を僕の口元に当てながら、ゆっくりと背中を摩(さす)ってくれるが、呼吸が上手くできない。


喉が胃液の痛みではなく苦しさでいっぱいになる。

あれ……? 僕、今までどうやって息を吸ってたんだっけ……。


「ッひ……ひ」

「ヴェイグ様。空気の吸い過ぎです。ゆっくり、意識して空気を吐いて下さい。ヴェイグ様!!」


息が、吸えない。吐けと、言われ、ても、身体は、勝手に、酸素を、求めて吸い続ける。目の前が急激に黒く塗りつぶされていく……ぐにゃりと世界が回った気がした。


その時、何故か窓際に置かれた小さな赤い花が目に入った。

……そうだ! あの花だ!


あの花を煎じてスープに入れれば、こんな傷すぐに癒えてイヴェットの助けになれるはず……でも、今は少しだけ休ませて……。


「……美味しいもの作らなきゃ……」



それを最後に、僕はまた、苦しいだけの夢へと連れ戻されたのだった。


第30話をお読みいただきありがとうございました。


明日も【18:00頃】に第31話を投稿予定です!

(連日投稿中!)


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