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第24話 【悲報】脳内ガチムチ槍ニキ、マカロンを前にハート目になる氷の美女でした。お前セドューレだったんかい! ③


「──軍律の乱れを感じる。そこで何をしている、ヴェイグ」


凛とした、しかしどこか涼やかで美しい『女性』の声だった。


煙の向こうに立っていたのは、上質な生地で仕立てられた、身体のラインにぴったりと沿う漆黒の軍服姿の美女。


軍議の途中だったのだろう、胸元にはきらびやかな勲章が並び、きゅっと引き締まった細い腰がベルトで強調されている。


艶やかなペールブルーの髪をきっちりと結い上げ、切れ上がった鮮烈な紅色の瞳は凍てつくような冷徹さを放っている。


ただ、その華奢で白い手には、綺麗に(なめ)された黒の手袋がはめられ、彼女の身長ほどもある禍々しい長槍がガチッと握りしめられていた。


『……は? 誰、この綺麗な人』


僕の思考が完全に停止した。

ガチムチゴリラのイメージとかけ離れすぎている。


周りの料理人に「あの人は誰?」と聞こうにも、全員が目を血走らせて「お、お許しくださいセドューレ様ァ……ッ!」と小声で呪文のように唱えながら、頭を抱えてガタガタ震える芋虫と化している。


怯えすぎて会話にならない。


セドューレ様って言っているが、アイツらが言ってたセドューレって「ガチムチの槍ニキ」だったはずだ。


ということは、この人はその妹か何かだろうか。

セドューレって苗字だったんだな! それか新手の暗殺者……?


僕が混乱の極みに達している間にも、その「軍服の槍美女」の視線は……ヴェイグの顔ではなく、完全に皿の上のパステルカラーの肉球&雲形マカロンにロックオンされていた。


足元からピキピキと床を凍らせるほどの威圧感を放っている……割には、その綺麗な喉が、小さくゴクリと鳴った。


あのマカロンをめちゃくちゃ見ていることに気づく。

これ、完全に食べたいだけのやつだーー!!


──ぐぅぅぅ〜〜〜。


……静まり返った厨房に、彼女の盛大な腹の虫の音が響き渡った。


顔を真っ赤にする彼女に、僕は無表情のままツンと皿を差し出す。


「……処分に困っていたところだ。お前が食え」


「な、魔王軍幹部たる私に、そんな……ッ!」


「……では、そこの君、すまない。これを廃棄してもらえ──」


「ま、待て! 物資を無駄にするのは軍人として看過できん! し、仕方ない、毒見だ……ッ!」


美女は震える手で、恐る恐る「猫の肉球型マカロン」を摘み、サクッと(かじ)る。


その瞬間、彼女の動きがピタリと止まった。

僕は、それを横目に丸い方のマカロンをパクッと食べる。


外はサクッ、中はしっとり。

濃厚な甘みとベリー風の酸味が広がり、そして何より──見た目が圧倒的に可愛い。

うん、よく出来た。


「う……」


必死に感情を抑えようとしているようだが、残念ながら彼女が喜んでいることは丸わかりだった。


普段は蒼白い肌が興奮で赤く染まり、髪にその赤みが透けてピンクがかったようにも見える。

その目は完全にハートマークになり、頬をこれ以上ないほどふにゃりと緩ませてメロメロになっていた。


「な、何これ!? サクサクなのにフワフワで、こんなに愛らしくて美味しいものがこの世にあって良いの!? ヴェイグ、貴様天才か!? いや天才だ、間違いない!!」


さっきまでの威厳はどこへやら、マカロンを「可愛い……美味しい……」と呟きながらモグモグと幸せそうに口へ放り込んでいく美女。


それを見て、僕は内心でガッツポーズを決めた。


『よし、完全に胃袋掴んだわこれ。これでいつでも美味しいマヨネーズが作れるぞ! この様子が広がればみんなこぞって食べてくれるに違いない! これで魔界飯改良計画は一歩前進したぞ!』


「気に入ったなら良かった。このマヨネーズソースの材料の余りで作ったから大量に出来てしまってな」


そう言って、ボウルいっぱいのマヨネーズを様子見していたモブ料理人に手渡し、「要冷蔵で三日以内に使い切るように」と告げる。


こちらの視線にやっと気付いたのか、セドューレはマカロンの皿を大事に抱えて後ずさった。


「ふっ、今回はこれで勘弁してやる! また、不審な真似をしたら許さないからな、私は軍議に戻る!」


そう言って嵐のように去っていった。

本当に何をしに来たのだろうか。

お腹が空いていたのだろうか。


入れ違いにアランが追加の材料を抱えて帰ってきた。


「ヴェイグ様、先程、上機嫌なセドューレ様とすれ違いましたが何かありましたか?」


「いやなに、副産物のマカロンをお気に召した様で大量に持って帰っていったよ」


本当に凄い勢いで召し上がっていらっしゃった。

やはり可愛いお菓子は正義だ。


「それにしても本当にお可愛らしい、彼女らしいと言いますか」


アランは楽しそうにクスクスと笑う。


「……彼女、って。そういえばアラン、さっきの人は?」


「おや、ご存じではありませんでしたか? 魔王軍が誇る凍槍(とうそう)のセドューレ閣下ですよ」


『はぁぁぁぁぁっ!? セドューレってあのガチムチ槍ニキじゃなくて、さっきの氷の美女だったの!? ガチムチ要素どこに置き忘れたんだよ!!』


前世から思い描いていた、脳内の世紀末覇者像が音を立てて崩壊していく。


発売した当初、プレイヤーのみんなで思い描いていたガチムチ槍ニキは幻想だったのだな……あんなにファンアートもあったのに、開発サイドはしめしめと思ったに違いない。


だが、アランはすぐに思い出したように真面目な顔になった。


「……まあ、でも、彼女がヴェイグ様を前にしてピリピリされるのも、無理はありませんがね」


「……どういう意味だ?」


僕の硬質な声に、アランは肩をすくめる。


「お忘れですか? 二日前も、ヴェイグ様が散歩がてらに軍部の演習場へ立ち寄り、『ちょっと身体を動かしたい』と、彼女の部下である最精鋭の魔導兵たちを一人残らず叩きのめしてしまわれたでしょう。結果として彼らは見違えるほど頑強(がんきょう)に鍛え上げられましたが、軍部のトップである彼女からすれば、完全にメンツを潰された形ですからね」


うわあああ、やらかした……何してんだよ僕!

でも、声掛けてきたのは向こうだし……いや、ダメか。

彼女にとっては部下をメタメタにした原因なわけで……。


近衛(このえ)と軍部。

立場は対等だが、実質的な武力において、ヴェイグは軍部の管轄を無視して暴れる「最強の治外法権」だったのだ。

なんか、ごめんねセドューレさん……。



---

本日のメニュー

・瘴気鹿のハンバーグ(ストレス発散のために、ただひたすらミンチにしたかったので選定)

・ピンク色の自家製マヨネーズたっぷりのポテトサラダ

・ポタージュスープ(ほうれん草っぽい赤い菜葉をバターでソテーし、自慢の腕力で力任せに擦り潰し、牛乳で伸ばしたもの)

・パステルカラーマカロン〜可愛い形を添えて〜


第24話をお読みいただきありがとうございました!

無事にガチムチ疑惑も晴れ、威厳ゼロでマカロンをモグモグするセドューレ閣下でした。胃袋は完全に掴めたようです(笑)


皆さんは「肉球マカロン」と「鹿肉ハンバーグ」、もし目の前に出されたらどちらを食べてみたいですか?

「〇〇食べたい!」「セドューレ可愛い!」など一言だけでも大歓迎ですので、ぜひ気軽にコメントで教えてください!


次回の第25話は、【8/11(火)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。


続きが気になる方、応援してくださる方は、ぜひページ下部から一言コメント、ブックマーク登録や評価(☆☆☆☆☆)をよろしくお願いいたします!励みになります!


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明日もどうぞよろしくお願いいたします!


※本作は「なろうチアーズプログラム」に参加しています。画面下のボタンから応援チアをいただけると嬉しいです!

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