第23話 【悲報】公式の詐欺グラに騙された僕、暗黒魔法で肉球マカロンを焼きつつ世紀末覇者(※ガチムチ)を身構える②
『よし完璧! ……さて、となると問題はこれだよね』
横にあるボウルの中に残った、大量の卵白。
マヨラーとしては卵黄ばかり使うから、どうしても卵白が余るんだよなぁ。
よし、せっかくだし、前世の知識をフル活用して最高に可愛いやつ──マカロンでも焼くか。
ストレス発散じゃぁ。
つまり、またメレンゲのためにアレをやるわけだが……。
その前にまず、先にナッツを手で軽く叩き潰して粉砕。砂糖を同量、そして少量の卵白を入れてペースト状にする。
僕はそっと右手に持っていたスプーンを左手に持ち直す。
そして右手には、大量の卵白が入ったボウル。
筋肉痛になったら困るから、筋肉を苛める時は平等に、だ。
『オラオラオラオラオラオラァッ!!!』
卵白の入ったボウルを高速乱舞。
最高幹部の本気の腕力によって、みるみるうちにツノの立った、弾力のある極上のメレンゲが泡立てられていく。
マカロンはここからの作業も重要だ。
ペーストの上にメレンゲを入れて、木ベラでマカロナージュしていく。
ただ、マカロナージュって言いたいだけである。
『よし、いい感じに馴染んだな。あとは生地を丸く絞り出したいんだけど……当然、絞り袋なんて無いよなぁ』
そこで僕は、厨房の隅にあった調理用の清潔な羊皮紙に目をつけた。
それをくるりと円錐状に丸め、先を少し折り返して、先端を包丁で小さく切り落とす。
前世で伊達に製菓動画を見てないからね、と即席の絞り袋を完成させた。
……いや、待てよ?
ふと思いつき、僕は指先に少しだけ闇の魔力を込めてみた。
じわじわとあふれ出る漆黒のオーラ。
もちろん手は洗ったから、汚くはないはずだ。
『これ、魔力で生地を包み込んで、等間隔にポトンポトンって落とした方が早くね?』
戦場では数多の敵を塵にしてきたであろう最凶の暗黒魔法。
それが今、マカロンの生地を一個あたり直径三センチの綺麗な真円に成形するためだけに、極めて精密にコントロールされていた。
他にも「ぷっくりとした可愛い猫の肉球」や「もこもこれらの雲の形」を作るために、黒い魔力の触手が、ピンクや白の生地をちょん、ちょん、と愛らしく整えていく。
「あ、暗黒魔法を……あんな、得体の知れない愛くるしい形状にするためだけに……!」
「なんという魔力制御の精密さだ……。あの御方、底が知れん……!」
料理人たちがヴェイグの「無駄に高すぎる魔力操作技術」にガタガタと震える中、僕はその手応えに大満足でそれをオーブン(魔導窯)へと放り込んだ。
その間も手は緩めず、使った道具を洗って片付けを進めていく。
マカロンの生地を乾燥させている間も、僕の手は止まらない。
次はメインディッシュ、みんな大好きハンバーグの仕込みだ。
取り出したのは、凶暴そうな瘴気鹿の塊肉。
昨日、市場で聞いた話だが、本来なら硬くて調理が難しい部位らしい。
しかし、今の僕には最高幹部の腕力がある。
トン、トン、トン、と今度は包丁を両手に持って丁寧に、しかし力強く叩いていく。
その音は厨房に鳴り響き、皆、こちらを振り返り冷や汗をかきながらその工程を凝視している。
周りのコックたちが「凄まじい連撃だ……!」「肉を刻むだけであの風圧!?」「オラはまだ死にたくねぇ〜だ」とガタガタ震えているが、気にしない。
気にしないったら気にしない。
瞬く間に極上のひき肉へと生まれ変わった鹿肉をボウルに移し、塩コショウを投入。
ここが味を左右する大事なポイントなのでご注目ください。
さらに右手を「闇の魔力」のオーラで包み込む。
あっ! これ、手袋代わりになって完全に衛生的で最高だな!
この発想は天才なのでは!?
『オラァッ!』
魔力を込めて一気に肉をこねる。
摩擦熱で肉の脂が溶けないよう、ここでも超高速攪拌だ。
「もしや、ヴェイグ様は肉の温度を上げない為に無意識に氷魔法まで併用されているのか!?」
「料理長!!まさか料理を作る為だけにそんな繊細な魔力操作を行う人物がいると言うんですか??」
水に晒しておいた玉葱と、牛乳を吸ってふかふかになった黒パンのパン粉、さらに卵を滑り込ませて、一気にまとめ上げる。
「よし、あとは焼くだけだ」
隣で興味深そうにこちらを凝視していたが、実際には恐怖で完全に硬直していたコックを呼び寄せ、焼き方のコツを伝授する。
フライパンから立ち上る、肉汁の焦げる香ばしい匂い。
この香りだけでも赤ワインが美味しく呑めそうだ!
片面が焼けたらひっくり返して鉄板に移して、マカロンとは別のオーブンへと放り込む。
肉がぷっくりと膨らみ、旨味の詰まった肉汁が表面にじわりと浮き出てきたらハンバーグが焼けた合図だ。
仕上げに、肉を焼いたフライパンへトマトもどきと、残しておいた刻み玉葱を入れて炒める。
綺麗に玉葱が透き通ったら赤ワインを入れて一煮立ち。
濃厚な特製ソースを煮詰めれば、なんちゃってハンバーグソースの完成だ。
これぞ、魔界の食材で作る、前世では嫌いな子供はいない至高のハンバーグ。
これで魔族の人達の胃袋をゲットしてやるぜ!
◇
数十分後──
『できた! パステルカラーの魔界風・肉球&雲形マカロン!』
皿の上に並べられた、前世のド定番・映えスイーツ。
本当はチョコを使ったガナッシュクリームのが好みだがつべこべ言ってられない、あるもので最高のクオリティを出すのが大切だ。
バタークリームはのっぺりしがちなので、酸味のある果実をいい塩梅に配合したさっぱり系に仕上げた。
『さて、味見を──』
ちょうど、アランが「ちょっと次の材料、裏の倉庫から取ってきますね!」と厨房を出た、その直後のことだった。
バガァァァン!!!
凄まじい爆音と共に、厨房の重厚な扉が木屑となって吹き飛んだ。
『えっ、異物混入!?』
咄嗟に作った料理を背に庇い、身の危険を感じて構えた瞬間、厨房のあちこちから悲痛な絶叫が上がる。
「ひええええええっ!?」「出た、出たぁぁぁ!!」
さっきまで忙しなく動いていたモブ料理人たちが、まるで何かの呪文を浴びたかのように、一斉に調理台の陰や食材の入った木箱の裏へとダイブした。
お互いに抱き合い、某竜退治クエストのスライムのように丸まってガタガタと震えている。
周囲の怯えっぷりに冷や汗を流しながら、身長二メートル超の世紀末覇者系アニキの姿を脳内で身構えた。
噂の「生真面目ガチムチ槍ニキ」ことセドューレが来たのだろうか。
残念ながら愛剣は料理の邪魔なので、作業台から遠く離れた場所に置いてある。
まぁ、もしもの時は魔法で……。
だが、晴れゆく砂煙の向こうから現れたのは──。
第23話をお読みいただきありがとうございました!
みなさんマカロンは好きですか?作るのは好きだけど食感が嫌いな作者です。色は地味になりますがココアパウダー入れて挟むのをガナッシュにするとチョコ感が増すのでこの頃ハマっててよく作ります。お菓子作ると必然と卵白が余るんですよね……。
次回の第24話は、【8/9(日)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。
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