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第22話 【悲報】魔王軍最高幹部(僕)、無駄に高すぎる身体能力でピンクのマヨネーズを爆誕させてしまう①


「ヴェ、ヴェイグ様……ッ!?」


厨房の重い扉を開けた瞬間、そこにいた料理人たちが一斉に息を呑んだ。


料理長らしき大柄な魔族にいたっては、持っていた包丁を床に落とし、ガタガタと震えながらその場に平伏している。


一体なぜこれほど怯えられているのだろうか。

僕には全くもって心当たりがない。


「アラン。皆が緊張しているようだ。私はただ、この食材たちを試したいだけだと伝えてくれ」


「かしこまりました、ヴェイグ様」


後ろに控えるアランが、すっと一歩前に出て極上の笑みを浮かべる。


「皆様、ヴェイグ様がお料理をされます。……分かっていますね?」


「ひ、ひぃぃ! は、はいっ、喜んで場所をお空けいたしますぅ!」


アランの通訳のおかげで伝わったみたいだ。


よしよし、と頷きかけたが、料理長がなぜか顔を真っ青にして泣いている。

アラン、裏でどんなスパルタ指導をしたんだよ!


料理長は床を凝視したまま、胃液を吐きそうなほどに震え続けていた。


僕と同い年くらいの魔族の男性がプルプルと震えながらも、快くサロンエプロンを貸してくれた。

その親切に感謝し、内心で腕をまくる。

まあ、ノースリーブだから、実際にはまくる袖なんてないのだけれどね。


その横でアランは、譲り受けた作業台を確認すると、他の従者たちに声を掛けて材料を並べてくれた。

『さて、地獄の魔界飯はもう御免だ。今日こそ現代の知恵で、美味いもん作ってやるぞ!』





まずは自家製マヨネーズだ。


だが、周りを見回しても、やっぱり泡立て器なんて気の利いたものはない。

調理台にあるのは、無骨な包丁と大きなスプーンくらいのものだ。

『まぁいい。無ければパワーで解決するまでよ!』


相変わらず、目に痛い蛍光ピンクの卵黄(らんおう)に塩を入れ、スプーンをしっかりと握りしめる。

片手には適量を計った油の入った器を持ち、準備万端だ。


……と、意気込んだところで、僕は『あれ??』とフリーズした。


気合いを入れてボウルへと前かがみになった瞬間、肩から背中に流れていたはずの深紺(しんこん)の髪が、ファサッと前に垂れてきて手元と視界を遮ったのだ。


『……ぅえ、ちょっと待って!? 結んだのにめっちゃ髪落ちてくるんだけど!? なんで!?』



部屋で鏡を見た時はトラウマメーカー仕様の完璧なハーフアップに満足していた。


だが、長髪になじみのない元一般人の僕は、ハーフアップという髪型が「下半分の長い髪は普通に残る」という初歩的な構造を完全に失念していたのだ。


これでは前かがみになるたびに髪が邪魔になるし、何より激しく動いたら料理に髪が入ってしまうかもしれない。不衛生極まりない!


『ポニテに結び直してもらうか? いや、アランに言ったらまた変に気合いを入れられて時間がかかりそうだ……。それに調理場で結び直すのは……。

はっ! そうだ、魔法で固定すればいいんじゃないか!?』



名案を思いついた僕は、自身の頭部から背中に流れる髪全体へ、極小かつ強力な【絶対防御結界】を無言で展開した。


油の跳ねや煙の匂いも防げて、抜け毛も一切落ちない。これぞ完璧な衛生管理!


微かな紫の魔光が髪を包み込み、ピタリと動きを固定したのを見て、僕は自分の結界の出来に大きく心の中で頷いたのであった。


後ろで見守っていたアランとコック達が「髪一筋の乱れすら許さぬ極限の集中……!」

「まさか料理ごときに絶対防御結界を……!?」とガタガタ震え上がっていることには一切気づかず進めていく。



よし、気を取り直して。


これまでのエルニアの筋力なら絶望的な「スプーンでのマヨネーズ作り」だが、今の僕は魔王軍最高幹部・闇騎士ヴェイグだ。


『ふんっ……!!』


全神経を右腕に集中し、スプーンを猛烈に動かす。


シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカと派手な音が鳴り響く。


超音速で虚空を切り裂くスプーン。

もはや手の残像すら見えない。

闇騎士の圧倒的な身体能力による、物理的な超高速攪拌(かくはん)だ。


混ぜては少しずつ油を加える工程を繰り返し、粘り気が出てきたところでビネガーを投入し、さらにまた油を入れていく。


「な、なんだあの腕の動きは……!? 速すぎて残像しか見えん!」


「まさか、新たなる暗黒剣技(あんこくけんぎ)の特訓……ッ!?」


料理人たちが恐怖に顔を歪める中、ものの数分で、極上のとろ~りとしたピンク色のマヨネーズが完成した。


仕上げにライムっぽい香りがするオレンジ色の皮の果実を絞って完成。


ふぅ、今回は大量に作ったから心配だったが、完全に杞憂だったな。

さすが、作中トップクラスの戦闘力を持つ男だ。


第22話をお読みいただきありがとうございました!

いよいよ、魔王軍の中枢……ではなく厨房に突撃したエルニア。気合いを入れて世紀の大発明マヨネーズを作ろうと思ったら長髪が邪魔をしてくるという奇襲?闇騎士ヴェイグのスペックを無駄遣いしてエルニアシェフのクッキングタイムは続く!!


次回の第23話は、【8/7(金)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。


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