第20話 魔王軍の朝はゲキマズ飯から始まる。――ところで、同僚のガチムチ槍ニキが怖すぎるのですが。
「ヴェイグ様、起床のお時間です」
気が付いたら朝だった。
やはり、疲れが溜まっているのだろうか。
アランに起こされるまで、つい惰眠を貪ってしまっていた。
ベッドに座りながら応える。
「すまない、寝過ぎたか?」
「少し、いつもより遅かっただけですよ。スケジュールに問題はありませんが、今日はこちらにお食事を用意いたしますね」
やがて、お馴染みの重々しい音を立てて金属製のワゴンが運び込まれてくる。
給仕のイシューが和やかにこちらに一礼し、テキパキと皿を並べていく。
ベッドルームの小さなサイドテーブルが、あっという間に朝食会場へと様変わりした。
そして──残念ながら、本日の朝食もゲキマズ地獄飯である。
なぜだ。なぜなんだ魔族諸君……!
こんなものが嗜好品として許される暴挙に、どうして甘んじているのだ。
ただのゲル化した何かだったものと、変な色の生温かい汁。
これが魔王軍最高幹部・闇騎士ヴェイグの朝食であって良いはずがない。
『僕は魔王軍のゲキマズ飯を改革することを、ここに誓います!!!』
内心でそんな大真面目な宣誓をしている間にも、容赦なく眼前で地獄は繰り広げられている。
ヴェイグの体は大人しく、だが、ゆっくりとフォークを進めていった。
「ヴェイグ様。やはり、お嫌いですか?」
「いや。たぶん……、魔力摂取は問題なく行われているのだが……、申し訳ないが、ここまでで良いだろうか?」
どうにか皿に出された分を飲み込み、イシューの紅茶で気分を落ち着かせる。
「アラン。本日の予定は?」
アランはスッと姿勢を正し、懐から革の手帳を取り出して話し始めた。
「本日も特に予定はございません。ですがロスタから、軍部で西方担当の者達が軍議をしているとの報告が入っております。まぁ、我々には関係ありませんが……御心に留めていただければと」
意外かもしれないが、『ムンクロ』の魔王軍は結構しっかり組織化されている。
あの研究者気質の変人魔王様は効率厨でもあるらしく、細かく分野を分けているのだ。
闇騎士ヴェイグは近衛担当で、そこまで大きな規模ではない。
ヴェイグを中心に三従者、あとは警備部門の者が数百人程度。
配下の皆は優秀で、特に僕がやるべき仕事はないのだ。
強いて言うなら、決裁関連の書類作業が主な仕事である。
警備の細かい指示は、アランがいい感じに出してくれている。まさに至れり尽くせりの環境だった。
──まあ、闇騎士ヴェイグの一番の仕事は救世主が攻め込んできた時の「魔王様の前座」なので、通常時に割り振られている仕事は皆無だ。
たまに魔王様に呼び出されて先陣を切り、主人公のイヴェットを苛めるためだけの任務をこの後、何回か振られるのが、ゲームでの設定だった。
そして、近衛というのはなかなか複雑な立場だ。
軍部には所属しているものの、そこからは独立して動く。
そのため、僕はまだ他の幹部と実際に顔を合わせたことがない。
『ムンクロ』でプレイヤーが実際に戦うネームドの幹部は、僕こと闇騎士ヴェイグ、軍部最高幹部・凍槍のセドューレ、および残る二名だ。
この凍槍セドューレが本日軍議をしているということで、今日はアランが魔王軍の幹部用の軍服を用意している。
彼は途轍もなく真面目なのだ。
城に居るだけだからと適当な格好をすれば、間違いなく諍いになる。
セドューレは軍律に厳しく、隙のないキャラなのだ。
戦闘時の彼は、白銀のフルフェイス甲冑に身を包んだ、いかつい大男で、自分の身丈以上の槍を使って素早い連撃を何度も放ってくる。
そして名前の通り、氷魔法中心でプレイヤー達を追い込んでいく中ボスの一人だ。
彼とはヴェイグと同じく何回か戦闘を繰り返すことになり、出会うたびに段々と強くなっていくタイプの敵だ。
そして、一番プレイヤーが苦戦する戦いは、この二人の共闘バトルだ。
どちらとも強力なアタッカーであり、優秀な魔法士でもある。
ヴェイグが前衛をハメ殺し、セドューレが大型氷魔法で後衛を消し飛ばす。あの極悪非道な連携のせいで、僕のコントローラーは何度空中を舞い、全滅画面を見せられた事か!
もちろん、セドューレを攻めていた場合は逆になり、やはり回復役から戦闘不能に追いやられる。
残念ながら僕はゲームを最後までやっていないので彼の素顔を見たことがないが、間違いなくこのゲームの戦闘能力トップ五に入る実力者である。
それに、規律に厳しいタイプなだけに、もし軍議の際に見かけられたら何を言われるか分からない。
事前に対策しておくことが大事だと思う。
第20話をお読みいただきありがとうございました!
朝寝坊した朝はベットでご飯を食べるのが憧れがあった作者です!しかし、実際にやろうと思うと大きなトレーが必要だし食べにくいし食べカスが落ちたらベットが汚れて不衛生ですよね……って思いとどまってます。
次回の第21話は、【8/2(日)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。
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