第19話 消えた捕虜と裏ダンジョンの謎(後編)〜最高幹部の僕は祖国(敵国)の正義に苦悩する〜
ふと、窓辺で揺れるカーテンが目に入った。
外は今日もどんよりと暗い。
僕は椅子の背に体重を預け、天井を仰いだ。
とりあえず紅茶のおかわりをもらおう。
深刻な空気を打破するためにも、もう一杯必要だ。
イシューの方を見る。
「イシュー」
「はいっ!」
嬉しそうに返事が返ってくる。
「おかわりでしょうか?」
本当に察しの良いことだ。
流石は優しさ担当。
「ああ」
頷いてティーカップを差し出す。
「熱くて濃い目で頼む」
彼がポットを傾ける動作は、まるで舞台役者のように洗練されていた。
アランもイシューもロスタも、見た目は魔族には見えない。
髪色は突飛だが、それ以外は人間と変わらない。
だが彼らは、魔界に適応するため進化の過程で瘴気用のフィルターを獲得したのだという。
僕は一体、何になってしまったのだろうか。
ティーカップが満たされ、湯気が立ち昇る。
僕はそれを受け取りながら、窓の外の陰鬱な景色を眺めた。
話題を変えねばならない。
「アラン」
「はい」
「敵国──王国をどう思う?」
予想外の質問だったのか、アランの灰色にも見える目が僅かに見開かれる。
彼は即答せず、一度天井を見上げた。
「……豊かな大地を持つ、恵まれた国ですね」
言葉遣いこそ、いつも通りだが、声色に棘がある。
『明らかに嫌ってるじゃん! 顔に出るタイプだよな、君!』
イシューが横から口を挟む。
「確かに神の加護があると言われていますが……」
彼は苦笑混じりに肩を竦めた。
「私たちから見れば、傲慢で排他的な価値観を持っていますよ」
「具体的には?」
尋ねた瞬間、アランが重々しく咳払いをする。
「失礼ながら……」
彼は言いにくそうに前置きした。
「我々魔族の多くは、光の支配圏において不当な扱いを受けてきました。"穢れ"や"魔の使い"と呼ばれ、迫害されることも」
え、マジで? そうなの?
『ムンクロ』ってそういう差別テーマもあったのかな……。
前世の記憶に無いんだよなぁ。
「それに」
イシューが畳み掛ける。
「救世主信仰を利用し、民を戦争へ駆り立てる行為も見逃せません。本当に救いたいなら、武器よりもパンを供給すべきでしょう?」
『いやいやド正論なんだけどさ! イシューさんキツすぎん!? 救世主ってイヴェットのことだから、すごく複雑な気持ちだよ!』
『いや、違う……。僕が本当に焦るべきは、救世主信仰がどうとかいう話じゃないはずだ。なのに……どうして僕は、こんなに他人事みたいに呑気なんだ……?』
心の中で盛大にツッコむ。
だが、彼らの憤りは理解できる。
この城で働く魔族たちも、多かれ少なかれ故郷を追われたり家族を失ったりした過去があるのかもしれない。
アラン達が直接の被害者の可能性もある。
迂闊な発言は控えなければ。
ふと、アランが僕の顔色を伺うように問うてきた。
「それで……ヴェイグ様はいかがお考えなのでしょう?」
ええと……ヴェイグならなんて言うかな?
正直な気持ち? それとも立場上、建前を言うべきか。
一瞬の逡巡の末──僕は紅茶に映る自分の黒い影を凝視した。
そして、できる限り"ヴェイグらしく"冷たく告げる。
「全ては勝者が定義するものだ。光も闇も関係ない。敗北すれば我らは侵略者、勝てば正義を掲げよう。それだけのことだ」
よし言えた! これっぽっちも本音じゃないけどね!
本当は皆仲良くしてほしいもん。
内心で自分を慰める。
だが──アランとイシューは明らかに安堵した表情を見せた。
特にアランは小さく首肯する。
「そのお考えをお聞きでき安心しました。私達も精一杯お世話させていただきます」
正しい? 本当にこれが正しいんだろうか?
虚ろな声が頭蓋骨に反響する。
ふと、視線を感じた。
窓ガラスに映る自分の姿──漆黒の鎧に覆われた"ヴェイグ"がこちらを睨んでいた。
まるで鏡像の中の自分が嘲笑っているかのように。
やばい……またあの感覚だ。
視界の端が滲む。
洗脳が再び脳を蝕んでいく。
早くこの城を抜け出さなければ。
人間の生存域を見つけ出し……そして必ず、イヴェットと再会するんだ。
第19話をお読みいただきありがとうございました!
暗い話題を変える為に捻り出した話が、もっとやばい地雷原をタップダンスしていたエルニアですが……実は今の彼の歪んだ状態がはっきりと示されていたり!?
暫く説明回が続いたので、次回はあっさりテイストの予定です。
今回は前編・後編の特別連続更新でお届けいたしました!お付き合いいただきありがとうございます!
次回の更新は、通常の定期更新スケジュール通り
第20話は、【7/31(金)の夜(18:00頃)】に投稿予定です。
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