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第12話 魔界の市場が急に戦場になったので、三人まとめて無詠唱魔法で救い出します


市場を巡るうちに、イシューがふと足を止めた。



「ヴェイグ様。あちらをご覧ください」



彼が指さす方向にあったのは、小さな花屋だった。

壁一面に埋め尽くされた観葉植物の群れ。

その中央に並んでいるのは、見覚えのある赤黒い花。


あれは、僕の私室に置かれていた花だ。



「綺麗ですね……」



イシューがそっと(つぶや)く。

その声には、どこか懐かしさが(にじ)んでいた。



「興味があるなら買っていくといい」



「いいのですか?」



「ああ……」



イシューが好きな花ならプレゼントしても良いんじゃないか、と思う。

けれど、そんな軟弱なセリフを口にして、洗脳のせいで変な言葉に変換されたら嫌なので、無難な言葉を選んでおく。



「ありがとうございます!」



イシューが嬉しそうに花を抱え、店主と交渉を始める。

アランがその傍らに立ち、守るように周囲を警戒していた。


なんだか微笑ましい光景だな……って、



『癒やされてどうするんだ、自分……!』



その時──市場の入口が急に騒がしくなった。

悲鳴と共に、人々が次々とこちらへ逃げてくる。



「なんだ?」



「侵入者だ! 衛兵隊が迎え撃っている!」



誰かの叫び声が響き渡る。

侵入者だって? こんなところにまで襲撃が来るのか。

魔界、治安悪過ぎじゃないか!?


『おい魔王あのマッドサイエンティスト、よその国に構う前に自分の領土の治安維持をしろ!!』



「お逃げください!」



イシューが花を抱えたまま駆け寄ってきた。



「私は残ります!」



「何!?」



『いやいや、残る理由がないだろ!? 何で花のために命懸けようとしてるんだ!?』



「ヴェイグ様が購入を許可してくださったこの花……大事に育てれば、強力な薬の素材になる品種なんです! これからの激戦を生き抜くためにも、ここで見捨てるわけにはいきません!」



「……ッ!」



なるほど……!

色が違うから気付かなかったけど、アレの原料になる花だったのか!

確かにゲームの隠し設定通りだ。まさかイシュー、そこまで見抜いて……?


アランが僕の腕を掴む。



「撤退しましょう、ヴェイグ様。ここは安全とは言い難い」



「わかっている」



一刻も早く撤退したいのは山々なのだけれど。

だが、目の前で行き交う人々の混乱ぶりに胸が痛んだ。


泣き叫ぶ子ども。家族を抱えて逃げる母親。

その中に、倒れた老人を見つけてしまい──。



「くそっ……!」



ヴェイグの身体が無意識に動いていた。



『洗脳の抵抗か!? いや、違う。これは僕自身の本能だ!』



老人の元に駆け寄り、その肩を貸す。



「しっかりしろ! 立てるか!」



「すまぬ……わしは足が……」



「背負う! 掴まれ!」



ヴェイグの膂力(りょくりょく)なら、老人一人を(かつ)ぎ上げるなど容易(たやす)い。

さらに恐怖で動けなくなっていた親子もまとめて両脇に抱え込んだ。


その背後で、アランが鋭い視線で周囲を警戒する。



「ヴェイグ様! 今すぐ!」



「先導してくれ、アラン! イシューは後方支援を!」



「御意!」



「急いで!」



イシューが素早く手をかざすと、僕たちの身体を淡い緑色の光が包み込んだ。

体組織を常に活性化させ、疲労を強制回復し続ける継続回復魔法──いわゆるリジェネだ。


彼の手慣れたサポートのおかげで、足の重みが一気に消え去る。

頼りになるなぁ、イシュー! これならいける!


背中には老人、両脇には怯える親子。

普通ならまともに動けない大荷物だが、今の僕は魔王軍最高幹部・闇騎士ヴェイグだ。

ゲームの設定を強く、思い出す。


ヴェイグは魔法と剣を両立する「魔法騎士」だ。

これまでに登場した魔法使いのように、長い詠唱や杖は必要ない。剣との併用に支障が出るからだ。

ただ、体内の魔力を練り上げるだけでいい。



「ふん……!」



短く息を吐き、足元に魔力を集中させる。

無詠唱。ただイメージするだけで、漆黒の魔力が火花のように両足から噴出した。

肉体を爆発的に強化する、ヴェイグの固有スキルだ。


うお、身体が羽のように軽い! これなら三人抱えてても余裕で走れる!


ドンッ!!!


背後で、鼓膜を裂くような大爆音。

衛兵隊が放ったであろう、巨大な炎の魔術が爆発したのだ。


市場のあちこちから、肉が焦げる臭いや、石畳が砕け散る激しい金属音が押し寄せる。

完全に戦場だ。瘴気が爆風に(あお)られて、視界を紫一色に染め上げていく。



「ヴェイグ様、左から瓦礫(がれき)が!」



アランの鋭い警告。

見れば、その爆発の余波で吹き飛んだ露店の巨大な看板が、僕たち目掛けて降ってきていた。


剣を抜く余裕はない。

僕は背中の老人たちを落とさないよう身をよじり、噴出させた魔力をそのまま右足の蹴りに乗せた。



「邪魔だ!」



ヴェイグの低い怒声と共に放たれた蹴りが、巨大な木製の看板を木っ端微塵(こっぱみじん)に粉砕する。

飛び散る破片の向こう、城への帰路となる橋がようやく見えた。



「走れ!」



全力疾走で橋を渡りきる。

城門が目前に迫ったところで、背後の市場が再び、先ほど以上の規模で大爆発した。


衝撃波がマントを激しく揺らすが、僕たちは一歩早く滑り込む。

間に合った……!


★1週間連続毎日投稿・実施中!


第12話をお読みいただきありがとうございました!

ゆっくり買い出しのつもりがまさかの治安の悪さで闇騎士ヴェイグが活躍してしまう。魔王は一体何がしたいのか……待て次回。


次回の第13話は、【明日のお昼(12:00頃)】に投稿予定です。


現在、スタートダッシュを懸けて毎日更新中です。

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明日もどうぞよろしくお願いいたします!


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