第11話「交差する舞台と一皿の哲学」
お時間ありましたら、キャラクターや展開について感じたことがあれば教えてもらえるとうれしいです。今後の参考にしたいです
「すごいですね。今日の盛り上がり……今後の反響も楽しみですね」
カメラを提げた立花が、ブースの隙間から感嘆の声を漏らした。
その視線の先では、総一郎、ジェイド、そして慣れない手つきながら必死に動く梢の三人が、押し寄せる注文を鮮やかに捌いている。
「ああ、立花さん。今日も取材ですか。お疲れ様です」
総一郎が、額の汗を拭うこともせず、涼やかな声で応えた。その傍らで、山積みの皿を片付けていたジェイドが、立花の姿を認めるなり眉をひそめる。
「おまえ、何しに来たんだよ。今は見ての通り、猫の手も借りたいくらいなんだ」
「やぁ、ジェイドくん。相変わらず元気だね。いやぁ、大盛況じゃないか。おめでとう!」
「うっせーわ。……ほら、そこに突っ立ってると邪魔だぞ」
ジェイドが毒づくのと同時に、注文の合間を縫って総一郎の鋭い、けれど温かみのある声が飛んだ。
「ジェイド! お喋りはそこまでだ。次のお客様の注文を聞いて。……立花さん、すみません。今は手が離せなくて」
「いえいえ、総一郎さん! 今日は取材も兼ねているんですけど、今は本当にお忙しそうなので、出直しますね。……あ、でもその前に!あのステージでやってた『大輪のフロマージュ』、一つください。あまりにも美味しそうで!」
「承知しました。立花さんの分は、とっておきの熟成具合でお出ししましょう」
総一郎が不敵に微笑み、再び黄金のチーズへとナイフを向ける。
その背後では、厨房の端でチーズを頬張っていたオタク君が、立花のカメラに映り込まないよう慌てて身を隠していた。
プロのライター、街の権力者、そして居場所を求める若者たち。 立花が注文した一皿は、この場所がもはや単なる「バルの一店舗」ではなく、多様な人生が交差する「舞台」になったことを象徴していた。
「やっと、終わった……」
祭りの喧騒が遠ざかり、商店街の明かりが一つ、また一つと落とされていく。
ブースの片付けを終えたジェイドは、泥のように椅子に座り込み、天才の面影もないほどヘトヘトになっていた。
「あの〜……」 静まり返ったブースの前に、一人の女性が佇んでいた。
ステージの美しさに魅入られていた香織だ。
「もうあまり残っていませんが……」 総一郎が申し訳なさそうに声をかけようとして、その顔を見てふと表情を和らげた。
「あー、あなたは先日の」
「……あ、あの、先日のスープ。ありがとうございました」
香織が深々と頭を下げる。総一郎は、柔らかな街灯の光の下で彼女をじっと見つめ、優しく微笑んだ。
「顔色、随分良くなったようで安心しました。……無理をなさっていたのでしょう?」
その言葉に、香織の目元がわずかに熱くなる。誰も気づかなかった自分の「無理」を、この人はスープ一杯で見抜いてしまった。
「今日は、お礼が言いたくて。ステージ、本当に素敵でした。食べられなくても、あの光景を見られただけで、お腹がいっぱいになった気がします」
「それは困りましたね。料理人としては、やはり味わっていただかないと。……ジェイド、少しだけ残っているタルティーヌと、コンテを」
総一郎の指示に、ジェイドが
「へいへい、オーナー」と苦笑しながら立ち上がる。
「また、お店の方にもお立ち寄りください。いつでもお待ちしています」
「あ、ありがとうございます。では、また」
「総一郎さん、そろそろ取材の本格的な打ち合わせを……」
バルの撤収作業が一段落した頃、立花が声をかけてきた。
「立花さん。どうでした? 他の店も回っておられたのでしょう」
「ええ、どこも活気がありましたが、ここは別格でした。……あ、それでですね。今日は紹介したい人がいるんです。雑誌の編集長で」
立花が振り返ると、
そこには凛とした女性が立っていた。
「初めまして、総一郎さん。美咲あかりです。あなたの技術、そして孤独を肯定する哲学……確信しました。この店には単なる美食以上の何かがあるわ」
美咲の鋭い眼差しが、総一郎の奥底を見透かすように向けられる。
総一郎は不敵に微笑み、「お褒めに預かり光栄です」と応えた。
「じゃあ、立花 私はこの辺で失礼するよ。後は頼む」美咲が去ると、
「ええ。じゃあそこまで送っていきますよ。総一郎さんすみません。すぐ戻ります」
立花と美咲が去り、ようやく完全な身内だけになったブース。張り詰めていた空気が緩んだ瞬間、ジェイドが椅子から滑り落ちるように姿勢を崩した。
「総一郎、あの女何言ってんだ。どうでもいいことを、もっともらしく言ってたぜ。……まったく、インテリの相手は疲れる」
ジェイドは頭を掻きむしりながら、美咲の去っていった方角を胡散臭そうに見やる。
「ジェイド。呼び方」
総一郎が低く、しかし絶対的な重みを持ってたしなめた。
「……っ、お、オーナー」
ジェイドは気まずそうに背筋を伸ばし、慌てて敬称を付け加えた。
「……ま、いいや。オーナー、今日の売上は上々。天才の僕がサポートしたんだから、当然の結果だけどね」
そのやり取りを、皿洗いを終えたオタク君と梢が、驚いたように、けれどどこか楽しそうに見つめている。
総一郎は小さく笑った。
「そうだね。だが今日ここにいた全員のおかげだ。」
【Le Fondue Kitchen】
「本編に登場しなかったバルメニューをご紹介します。」
■ プレッツェルと二種のディップ
ドイツで古くから親しまれている焼き菓子パン、プレッツェル。
ほどよい塩気と香ばしさが特徴で、お子様から大人まで幅広くお楽しみいただけます。
今回は二種類のディップをご用意いたしました。
【ハニークリームチーズ】
クリームチーズ 100g
はちみつ 大さじ1
レモン汁 小さじ1
すべてを混ぜ合わせるだけのシンプルなディップです。
まろやかな甘さは、お子様にも人気の組み合わせです。
【オバツダ風チーズディップ】
クリームチーズ 70g
カマンベール 30g
パプリカパウダー 小さじ1/2
玉ねぎみじん切り 大さじ1
黒胡椒 少々
材料をよく混ぜ合わせて完成です。
バイエルン地方で愛されるチーズディップをアレンジした、大人向けの味わいとなっております。
「同じプレッツェルでも、添えるものによって表情は大きく変わります。どうぞお好みの組み合わせをお楽しみください」
■ マルゲリータ風ピンサ
イタリアで親しまれる軽やかな生地料理、ピンサ。
一般的なピザよりも軽く、食べ歩きにも適した一品です。
【材料(2~3人分)】
ピンサ生地(市販でも可)
モッツァレラチーズ 100g
トマトソース 大さじ3
バジル 適量
オリーブオイル 少々
【作り方】
① 生地にトマトソースを薄く塗る。
② モッツァレラチーズを散らす。
③ 220℃のオーブンで10~12分焼く。
④ 仕上げにバジルとオリーブオイルを添えて完成。
シンプルだからこそ、生地とチーズの味わいをお楽しみいただけます。
「街を歩きながら食べるために生まれた料理には、その土地の暮らしが宿っています。どうぞイタリアの街角へ思いを馳せながらお召し上がりください」
――ジェイド




