11 選択
麻林丸夫の場合
鬼にも子でもない場合はなるべく働かなくてはならなかった。しかし、11時から12時までは働かなくていい職種もあった。丸夫の仕事もそうだった。
交通整理の仕事を必死に続ける。
工事はまだ終わりそうもない。
暑い中、丸夫は仕事をしながら、時折、氷鬼ごっこのことを考えていた。
国王の甥っ子か。
非人道的なところは流石、血をひいているだけあると言ったところだ。
玲点はまた秘密の手紙を出したらしい。どんな事が書かれているのだろうか。
「それにしても暑い」
ふと前を向くと、予想外の人がいた。
「ペケじゃないか?」
「お父さん、12時になったら一緒にご飯食べよう。ファミレスでいいから」
「わかった。まだ10時だから、もう少し待っててくれるか?」
「デパートで時間つぶしてる。12時に行くからね」
「おう、じゃあなー」
ペケにてっきり嫌われているかと思ったが、嬉しいこともあるものだ。
時間の流れは早かった。
事務室で11時の放送をラジオで聞くことになった。今逃げている子は23、51、62、70歳。そして7日目の最後の抽選だ。
1言も聞き逃すまいと精神を集中させていた。
『氷鬼ごっこは残すところ後1日となってしまいました。子に選ばれる人は何歳の人でしょうか? 選ばれた子、鬼達は頑張ってください。それでは、王子の登場です』
王子が現れたらしく拍手が起こった。
『それでは、さっそくいってみましょう。何卒よろしくお願いいたします、王子』
『うむ』
手を抽選箱の中に入れて引いたボールを編みのかごの中に放ったようだ。
アシスタントの人がボールを受け取って見せている声がする。
『19、42、0、45』
45歳、あたってしまった。
ゴホン、ゴホン!
守は具合の悪そうに咳き込んでいるようだ。
『王子様、ご無事ですか?』
『少し吐き気がするが、平気だ』
『王子は椅子に座ると青白い顔で頭を抱えております。お体になにか異変でも起きたのでしょうか?』
頭を抱えたいのはこっちだ。
『えー、王子の体調が優れないこともあり、この場を取り仕切る司会が特番を早めに終わらせていただきます。0、19、42、45歳の皆さんどうか鬼からお逃げください。子の新しい明日を我々は応援しています。それではありがとうございました』
ラジオから聞こえてくる特別番組は臨時のニュースに切り替わったらしい。
明日捕まってしまえば、100年後に蘇るしか生きる道はない。捕まってしまえば、誰も助けてはくれないんだ。
最悪の状況が待っていることを妄想して心がぼんやりとする。しかし、最後の氷鬼ごっこに負けてられるかと思い直した。
現場長に辞職覚悟で休みを願い出る。
「そういえば、麻林君は45歳だったね。俺が無理に縛る資格はない。明日も休んで性をつけなさい」
「ありがとうございます。精一杯戻ってこれるように頑張ります」
丸夫は90度腰を曲げ、頭を下げる
「君の奥さんも同い年かい?」
「はい、そうです」
「そうか。頑張りたまえ」
現場長の悲哀と慈愛の入り混じった眼差しで丸夫は見送られた。
その後、佳代子の働いているスーパーに向かう。その時だった。曲がり角で出会い頭にぶつかった。
いつもかいでいる大好きな匂いだ。その人は泣きじゃくっている佳代子だった。
「佳代子、大丈夫? ……ペケがさ、ファミレスでご飯食べようってさ」
「……うん」
普段なら外でいちゃつかないで冷静な佳代子だったが勝手が違い、丸夫と抱きしめあった。
「デパートにいるって言ってたよ。迎えに行こうよ」
「うん」
佳代子は不安そうな顔をしている。
「俺、考えたんだけどペケを1人にできないじゃん? でもペケはセンターに入ったから氷鬼に干渉できないじゃん? だったらペケとバツのコンビで誰か捕まえて、俺達は逃げよう」
「無理よ。バツもセンターに入ったじゃん。家族内で引き渡すとなったらバツを引き渡すしかないわ」
「そんな」
「この世は食うか食われるかなのよ」
「仕方ないな。俺達、どこに逃げよう」
「子同士のコミュニティができているって、パートの方が言っていたわ、そこに入れば助かる確率も上がるわ」
話し合いをしているとデパートの入口に着いた。
「今日からその競技場に行くことにしましょう」
「競技場って、お母さん、どうしたの?」
思わず後ろから声がかかった。
「ペケ!」
「あのな、0、19、42、45歳の人が、子になったんだ」
「え? あっ!? そうなの?」
「コミュニティの人のもとに行くから。ペケ、バツに別れを告げとけよ」
「なんで?」
「センターに捕まったペケを助けたのがバツだからだよ。だから、ペケ、バツは家族だけど鬼になることがないんだ。氷鬼ごっこに干渉できないって聞いたろ?」
「バツが、連れてかれるの? 嫌だよ、どうにかしてよ、お父さん!」
「どうもできないわよ。それより、ファミレスまで行こう。目立ってる」
佳代子は先程とは違い冷静になっていた。
確かに、町行く人にジロジロ見られている。これでは鬼に捕まえてくださいと言っているようなものだ。
ペケも意識を研ぎ澄ましたかのように2人について行った。
「犬ならまた飼えばいいじゃないか」
「バツは家族なんだよ」
「じゃあ俺か、佳代子のどっちをとるんだよ?」
「選べるわけ無いでしょう」
「バツには悪いけど、ここで家族離散するわけにはいかない」
「そうだけど。そうだけどさ」
「今この瞬間だけは忘れましょう。ご飯が不味くなる」
「そうだな。ペケも分かったか?」
「分かった」
ペケはか細い声を出した。
丸夫はドリアを佳代子はパスタ、ペケはピザを注文した。
ドリアの味はあまり感じられなかった。なんとなく腹を満たしているようだった。
終始無言で食べ終わった。
丸夫は会計する。
佳代子のケータイがなった。ケータイには斎藤海桜という文字が浮かんでいる。
やはり、我々が45歳ということを知っていたのか?
『もしもし』
佳代子は海桜の話を時折、相槌を打ちつつ静かに聞いていた。そして通話を止めた。
「なんだって?」
「あなたの思っている通りよ。赤ちゃんと一緒に逃げてほしいんだって」
「確か、夢ちゃんといったっけ? お前のやることには口を出さねえ」
「良ければ、斎藤さんの家に来てほしいって」
「じゃあ、今から行こう」
3人は海桜の家まで連れ立っていった。
表札の前まで来ると、丸夫は戸惑いながらインターフォンを鳴らした。
「早かったですね」
海桜は綺麗な長い黒髪を1つに縛っている。目は大きくて肌が白い。美人である。
「今度こそ、明日で終わりなんだ。俺達に任せてください」
「お頼み申し上げます」
帰り、佳代子は夢を背負い歩く。
絶対に捕まってはならない。絶対に。
読んでくださりありがとうございます。
面白い、続き読みたいと感じましたら、下のブクマ、★評価、感想などお待ちしてます。




