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イヤです  作者: 倉名依都
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アカザ村での薬師ライフ(1)

アカザ村部分は、マユの不信感と警戒から始まり、アレグリア親子の癒しサポートを受けながら人への信頼を取り戻す方向へと動いて行きます。

アカザ村村長一家については、公金横領事件とか、食糧援助をしたら国のお偉いさんが全部自分の一族に配っちゃった、とか、そういうニュースを参考にしてみました。


マユは3日ほどでジャンニの調合を引き継いだ。マユの持っている製薬技術を教えることは求められなかったから、その無駄の多い調薬をただ引き継いで、アニタに教えることにした。

薬師としての給与がひどいものであることには気が付いていた。日本円にざっくり換算しても、半日、5時間近くの報酬が4000円少々、時給にしたら1000円にもならない。

マユ自身について言うなら、ウッドハウスでノーコスト・ライフ、いや、魔力は巨木に注いでいるが、とにかくお金不要の生活を送っているので金銭的な問題はないのだが。


引継ぎが終わった次の日、アカザ村での5日目、まだ昼には時間があるころマユは門番小屋の前に座っているトニオを訪ねた。


「こんにちは、トニオさん」

「おお、クロウ、どうだ様子は」

「はい、引き継ぎは終わりました。今日からアニタに教えながら調合です」

「よろしく頼むよ、大変だろうがな」

「いえ、まあ。

あの、トニオさん、お昼がまだだったらこれ一緒にどうです?」

そう言って、マジックバックから出したふりをして異空間収納からサンドイッチと紅茶を取り出した。

「マリオ君のぶんもあります」

「そりゃありがたい」

トニオは指笛を吹いてマリオを呼んだ。

3人は番小屋の前で椅子を並べ、サンドイッチをむしゃむしゃと食べた。


マリオはお礼を言って仕事の続きをしに走って行ってしまったが、トニオとクロウは甘くした紅茶をもう一杯楽しんでいた。


「あの、トニオさん」

「おお、なんか聞きたいことがあるんだよな」

「はい。

あの、トニオさんは公証人の資格を持ってますよね」


公証人とは、契約書が関係者の間で正しく合意されてサインされたことを証明する資格を持つ人のことだ。引退した王宮事務官や貴族家の事務方がなることが多いが、冒険者が遠隔地で契約を結ぶときの証人として、S級冒険者には公証人の資格が与えられる。

S級冒険者が引退してもS級資格が残るように、公証人の資格も剥奪されるまではその人のものだ。


「おお、よく知っていたな。公証人のことも、俺がS級だってことも」

「公証人は、城塞町でそういう看板があって調べました。

トニオさんのS級についてはキルエット師匠のもとのパーティーメンバーかもしれないと思いました。大師匠は有名なS級パーティーのメンバーだったって」

「ああ、そうだ。クロウ、おまえなかなか頭が働くな」


「それで公証人に何の用だ」

トニオの目つきがわずかにきつくなった。

「昨日でジャンニさまの調合の継承が終わりました。それで、きちんと契約を結んで仕事をはじめたいと思って、契約書を作ってきました」

マユは同文の契約書を3通作っていた。薬師ギルド所属のクロウ、アカザ村村長、公証人のトニオ、3者のサインする場所がある。

さらに、キルエットから渡されたもう一通の紹介状、辺境伯領の薬師ギルドに対する手紙をトニオに見せた。


「僕は、薬師ギルドに所属していて、大師匠は僕を薬師ギルドの要請に応じて、ギルドメンバーとしてアカザ村に派遣しました。ですから本来契約は薬師ギルドとアカザ村の間で結ばれるべきなんですけど」

「おお、そうだな。俺はキルエットに言われて、領都の薬師ギルドからキリエル要塞町のギルドを通して、キルエットに薬師の派遣を依頼した。

村長への紹介状にもそう書いてあった」

「だけど、どうも…」

「うむ」


「村長と村長の息子は、領都の薬師ギルドに連絡する気はないようでした。

村長がトニオさんに紹介された薬師を雇うという形にしたいようで」

「なるほどなぁ」

「大師匠は、紹介状を書いてくれる前に、マリエット師匠に習ったポーションを村の役に立ててほしいと言いました。だけど、ジェンニさんは自分が受け継いだ調合を僕に受け継がせて、それをアニタに教えろ、とのことで」

「うーむ、どうしてそうなった」

「かなり話が違うんです。

だから、アニタが調合を覚えたら、契約終了にしたいんです。

薬師ギルドを通さない個人対個人の契約なら、きちんと公証人を立てて仕事の範囲を限定したいと。

この契約書を確認してもらえますか」


真由がトニオに渡した契約書には、およそ次のような項目について書いてあった。

1.薬師クロウは、薬師ジャンニから、アカザ村で長年ジャンニが作っている

  3種の薬、HPポーション、解毒ポーション、傷を癒す貼薬の調合を

  ジャンニおよびアカザ村村長の依頼によって継承した。

2.上述3種の薬を調合して、ジャンニに納める。

3.調合を行う際、ジャンニと同居するアニタに対し、調合の手ほどきをする。

4.調合は、昼の鐘が鳴ってから、夕の鐘が鳴るまで、ジャンニの住む村長別邸で行う。

5.調合に必要な薬草は、すべてジャンニとアニタが準備する。

  準備できないときは、調合は行わない。

6.報酬は、1日当たり銀貨2枚。

7.アニタが調合をひとりでできるようになった時、

  あるいは契約開始から半年が経過した時点で、この契約は終了する。



「ほう、考えたな」

「そうでしょうか」

「つまり、ジャンニが教えた調合以外はしないということだな」

「そうです。

もっと大切なのは、僕がジャンニの調合を盗んだと言われないようにすること、また、アニタの覚えが悪い場合でも、いつまでもこの調合に縛られないようにするためです」

「なるほどな。

メシもヤサも準備しないで半日調合させて、弟子でもない奴に手ほどきか。それで日当銀貨2枚。

いいだろう。サインしてやる。この書類は領都の公証役場に登録するし、内容を書き写して薬師ギルドに届けてやる。任せろ」

「ありがとう、トニオさん。公証人費用はこれでいいですか」

「おお、それでいい。おまえよく調べているな」


「ちょっと村長や息子さんの考え方になじめなくて。なんだか村に来たら俺の部下、みたいな感じで。でも、薬師が所属するのは村や町の長じゃないんです。

人の命に係わる仕事だから、処方した薬で事故が起こった時には薬師は薬師ギルドに対して説明します。専門知識がないと、薬師の処方が正しかったかどうか判断できないから」

「ああ、その通りだ。だからお前、村の外に住んで通うことにしたんだな」

「はい、まあ。いろいろ」

「は、は、は。よーく考えたなぁ。ここまで来る間に十分準備してたってわけだ」


「なあ、一応念のために聞いておくが、おまえマリエットに弟子入りして、1日いくら払った」

「金貨1枚です」

「そうだよな。キルエットの保証シールの資格をもらったときも権利金払ったろうな。

来るときにシールは何枚買ってきた」

「はあ、1000枚ほど。紹介状のお礼替わりでもありますから」

「よし、クロウ。おまえはきちんとわかっている。いい錬金術師になるだろうよ」

トニオがマユに微笑みかけた。苦みが混じっているが、いい笑顔だった。


トニオは指笛を吹き、走って来たマリオに治癒のポーションを持ってこさせて飲み干した。

しばらく待つと、トニオは軽々と立ち上がった。

「え?トニオさん」

「おお、これな。治癒ポーションで半日くらいは歩けるんだ」

「あの」

「俺は右足が腫れる病でなぁ、呪いかもしれんが。

腫れるともう足を付くのも痛くてたまらん。効くのは治癒ポーションだけだが、半日じゃな。大切な用事があるときだけしか使わねぇ」

「僕のために」

「気にすんな、キルエットの弟子だろうがおまえ。俺のダチみたいなもんさ」

「ありがとう、トニオさん。ほんとうにすいません」


トニオが普通に歩いてきたのに驚いて、村長はすぐに書類にサインした。

村長は、トニオが公証人資格を持っていることを知らなかった。公証人書類というものについても十分にわかっていないようで、トニオの説明にも曖昧に頷くだけだった。

目の前でクロウ、トニオのサインが入り、3人で1枚ずつ書類を受け取り、契約は成立した。


次の日、キルエットのシール付き治癒ポーションをお返しして、その日からマユはトニオとマリオの3人で番小屋の前でランチにしてから別邸へと向かうようになった。雨の日には番小屋に入れてもらい、少しずつ親しくなっていった。

ちょっとしつこく書いてある公証人契約は、この事件をうまく納めるために活躍することになります。

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