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イヤです  作者: 倉名依都
8/18

アカザ村

アカザ村まではそう遠くなかった。

村が見えて来た時、旅が終わる安心感より、この村でやっていけるかどうかという不安感の方が強かった。それでも、大師匠たちの好意とアレグリアの守りがある。これまでとは少し違う心強さも同時にあった。


村を囲む塀には出入り口の門が1カ所作ってあって、門番小屋があった。小屋の前に椅子があり、そこに半分白髪の男が座っていた。

「おう、旅人か。ここはアカザ村だ。冒険者章があるなら見せてくれ」

男は右手に持った槍に体重を掛けてゆっくりと立ち上がった。

「はい」

そう言ってマユは冒険者章を差し出した。

「ほう、クロウというのか。もしかしてキルエットのところから来たのか」

「あ、はい」

大師匠からもらった手紙と、薬師ギルドの鑑札を出して男に見せた。

「よく来てくれたな、クロウ」

そうして話しているうちにも、門番に軽く手をあげて村人や旅人が門から出ていく。男は気軽に頷きながらも鋭い目つきで顔を確認している。


マユは邪魔にならないように門番の横に移動し、門番はそれを見てゆっくりと椅子に座りなおした。

「事情は聞いているか」

男は門を通る人々から目を離さないまま、話を続けた。

「キルエット大師匠からは、アカザ村では村長の姉が薬師をやっているけれども、高齢になった上に、村の人口が増えて対応できない。村に住んでいる大師匠の知り合いから若い薬師をよこしてくれと連絡がきたと」

「おお、その知り合いが俺だ。トニオだ。よろしく頼む」

男は笑顔を作って手を出した。マユも緊張していた頬を緩めてその手を握った。大きな暖かい手で、武器を握り慣れたごつごつした手でもあった。

男が笑顔になると、髪に白髪がたくさん混じっているが案外若いのではないかと思われた。


「案内してやりたいが、俺は門番だからな、助手を呼ぼう」

そう言ってトニオは高い音色の指笛を吹いた。すぐに小屋の裏手から少年が飛び出してくる。

「トニオさん、用事ですか?」

「クロウ、こいつはマリオだ。マリオ、これはクロウ、薬師だ」

「クロウさん、マリオです。トニオさんの足をやっています。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。クロウです。この村で薬師の仕事をするために来ました」

よしよしとトニオが頷く。


「マリオ、クロウを村長のところへ。この手紙を渡して錬金術師キルエットの弟子だと言え」

「はい。クロウさん、ご案内します」

弟子じゃなくて孫弟子だけど、まあ、一文字足らないだけで嘘じゃないもんねぇ、ま、いいか、なんかありそうだよね、とか思いつつもマユはマリオについて歩いて行った。


村は最近村境を外へ拡張したようだった。

塀から50mほどの間は畑が続いていた。古い柵がところどころ残っていて、その内側に木造平屋建ての家屋が見えている。家は農家にふさわしく、L字型やコの字型に建ててあり、表庭は広い作業場になっている。

農家の周りには農地も残ってはいるが、もとは農地だったと思われる場所の多くは雑草に覆われつつあり、そこには新しく家屋を建設している人々もいた。

アカザ村はおそらく開拓村としてここに拓かれたのだろう。そして、指導者が意欲的で移民を受け入れ開拓地を拡げつつあるのだろう。


柵の内側から中央の広場までの道は石畳になっていた。大変な作業だったろうに、この規模の村にしてはよくやっている。

中央広場に面した場所に村長の家があった。村役場を兼ねているとのことで、真ん中部分だけが2階建てだ。マリオが指さして、「あそこが村役場なんだ」と教える。村長が住んでいる建物は役場の裏手にあるようだ。

仕事がない時は役場といっても空っぽらしかった。年貢の時とか人がいっぱいだよと言いながら、マユを役場の1階、椅子が並んでいるところに残し、マリオは村長を呼びに走って行った。


村長は、杖を突きながらゆっくりとやってきた。

「クロウ君、よく来てくれたね」

そう言って握手を求めると、マユの隣の椅子に腰掛けた。すぐにマリオがお茶を載せたお盆を持って慎重な足取りで帰ってくる。

もう1脚の椅子を村長とマユの前まで引いてきて、お茶をお盆ごと置き、「じゃあな、クロウ」と後ろ手に手を振って帰って行った。


「さて」

といいながら、村長はキルエットの手紙を開き、ゆっくりと読む。

「クロウ君、遠いところからありがとう。

ここまで来る間に気がついたと思うけど、村は今移民を受け入れていて、広くなっているところなんだよ。辺境伯の方針でね。

ワシら年寄りにはちょっと荷が重くてな、村長といっても今の仕事はうちの息子たちがやっていて、ワシはもう形だけだよ」


「ただ、この仕事は長くて、いろいろと伝手もあってね、トニオも若い時ちょっと世話をした縁で門番を引き受けてくれている。ありがたいことだ。

トニオの縁で薬師を紹介してもらえて、本当に助かる。よろしく頼むよ、クロウ君」

「はい、村長。お役に立てるよう勤めます」

「うん、姉のところで仕事の打ち合わせをしてもらえるか」

そう言って、村長はゆっくりと立ち上がり、村長宅のさらに裏手、本邸とは薬草園を抜ける小径でつながれている別邸へと案内した。


「ねえさん、若い薬師が助けに来てくれたよ」

「ああ、ありがたいねぇ、待っていたよ」

そう言って杖にすがるようにして姿を見せたのは、髪が真っ白になっている女性だった。後から12、3歳くらいの少女がついてきている。

「クロウ君、姉のジャンニだ。後ろにいるのが孫のアニタ。

ねえさん、トニオの紹介で来てくれたクロウ君だよ。アニタもご挨拶しなさい」

「薬師のジャンニですよ、クロウさん、もうこんな体になってしまって、ひとりではどうにもなりません。アニタが薬草を摘んだり干したりはやってくれますけどね、調合まではまだねぇ、よろしくお願いしますよ」

ジャンニは物柔らかな老婦人だった。

「アニタです。ジャンニさまに教えていただいていますが、まだお役に立てていません」

「いえいえ、そうでもないのよ。才能あるわよ、アニタ」

「ジャンニさま、アニタさま、駆け出し薬師のクロウと申します。

こちらこそよろしくお願いしいたます」


村長が、後は頼むよと声を掛けて帰って行くと、ジャンニは別邸の居間へと先導した。

薬草干しは屋根裏でやっているとのことだった。別邸にはマリエットの離れでなじみ深くなった薬草の香りが立ち込めていた。

ジャンニの希望は、まず、ジャンニが調合をやって見せ、クロウがその通りに受け継ぐこと。さらに、アニタに継いだ調合を指導することだった。


ジャンニが別邸に住むよう勧めてくれたが、アニタがジャンニの生活の世話をしている関係で近頃はほとんど住み込んでいると聞き、自分が男装していることを都合のいい言い訳に使った。

若い女性と同居はできませんと笑いながら告げて、通いを提案した。

ジャンニの体調が悪く、午前中は寝ているため、調合は午後のみとなった。


村長に挨拶しに行くと、息子のひとりが出てきて報酬について話が出た。


昼前に門を出る。これからウッドハウスを展開してさらに巨木を植えなおす場所を探さなくてはならない。

「トニオさん、明日から午後ジャンニさまのところで調合を見習い、引き継ぎます。

アニタさんに引き継いだ調合を教えろとのことです」

「そうか、報酬で揉めなかったか、大丈夫か」

マユは心配してくれるトニオに少し驚いた。

「午後だけで、1日銀貨2枚、10日で金貨2枚だそうです」


「寝起きはどうする」

「丸太小屋を作ってそこから通います。

午前中は錬金術の訓練とキルエット大師匠に頼まれた薬草の分布調査です」

「いや、ここまで護衛もなく旅して来たんだ、実力はあるだろうが、なぜ村に住まない」

「はあ。

こういう言い方はどうかとは思うけど」

「うん?何かあったか?」

「いえ、ジャンニさんが村長の別邸にジャンニさん、アニタさんと一緒に住むように言ってくれたんだけど」

「え?一緒に住む?錬金術師に同居を?」

「はあ、まだ駆け出しですけど、一応」

「うーん、それはできねぇなぁ」

「はい」


薬師や錬金術師の技術はオリジナリティが高い。師匠から受け継いだものを自分に合うように工夫して使いこなしていく。

だから、師弟関係にない者と同居するということは、家族でもない限りありえないのが普通だ。


「そうか。すまん、俺の説明が足らなかったかも知れん。

やむをえんなぁ、小屋を建てるのは構わんが、油断するなよ。獣より人間の方が危ないこともある、ひとりでいるときは他人に気を許すな。住み家を出るときは認識阻害を掛けておけ。認識阻害はできるか」

「はい、できます。ありがとうございます」


手を振って街道沿いを東に少し戻り、獣道を登っていく青年をトニオは困ったように眺めていた。

1年でおよそ金貨80枚。到底まっとうな薬師への報酬とは言えない。午後だけ調合となれば、昼メシも出ないだろう。おまけに住む処も用意しないとは。

これは辺境伯に手紙を出すべき案件だろうなぁ、とりあえずキルエットに知らせなくては。これはギルドと揉めるだろうな。

トニオはため息をついた。


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