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イヤです  作者: 倉名依都
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インターミッション:王弟殿下の苦悩とか

ざまぁテイストです。

「キルエット、来てくれたか」

「お召しにより参上いたしました、殿下」

「ああ、もういいから、責めないでくれ」

「一応、ご自分に非があったことはあったことはおわかりのようですね」

「ああ」

「いいですか、女性一人の家に大きな男が入り込んで、死にかけていたところを助けてもらって礼のひとつも言わず」

「うー」

「狭い家の中で素っ裸で着替えて、風呂にまでいれてもらい」

「いやー」

「ベッドを譲られた挙句に、カウチで寝ている女性をのぞき込もうとして防御結界にはじかれたとか」

「すまん」

「わたしに謝っても無駄です」


「そのあと、またも大の男を送り込んで、あろうことか王家の名を大声で呼ばわり、一人住まいの家に上がりこませ」

「あーあれは、褒賞を」

「バカですか」

「はい」

「なぜせめて女性騎士を送らなかったのです」


「騎士団長殿ならまだしも、3回目はあのナント子爵ですよ。貴族意識満々の、庶民の女性など人とも思わないような、あのような」

「いや、もう、なんというか」

「キンキンキラキラの貴族服で、護衛だの侍従だの引き連れて家の前で大声で叫んだんですよね。どこで村人が見ているかもわからないというのに。

女性の安全をどう思っておいでで」

「いや、メリアクセルと一緒に王宮に来てもらえさえすれば問題なく…」

「はあ?殿下、喧嘩売ってます?もう帰ります」

「すまん。すまんキルエット、帰らないでくれ」


「俺はあの不思議な家も、数々の見たことのない道具にも、ちょっと頭が追いつかなかったのだ。

だからといって許されはしないが、どうしてもコウサカを手に入れたくなってしまった」

「それは、コウサカ殿ですか、それともその不思議な品々ですか」

「両方だ!あたりまえだろう」

「強欲なことで。やっぱりもう帰ります」

「いや、頼む。どうしてももう一度会いたい。

キルエット、そうは言うが、コウサカとコウサカの持ち物、コウサカが俺を助けたこと、それを別々に切り離すことなんかできると思うか。

俺を助けたのが誰でも、もう一度会いたいと思うのは当然じゃないのか」

「知りませんよ。そう思うなら呼びつけないでご自分でお行きになればよかったのです。最初から」


「行きたかった、当然だ。だが抜け出すこともできないくらい周りを固められたんだ。

キルエット、手を貸してくれ。手を尽くしたがどうしても見つからない」

「殿下、あの時の殿下が正常でなかったことは私にもわかります。殿下が深い森を単独で逃げてきた間の勇気と苦しみ、降って来た雪の中での必死の一歩一歩。

まちがいなく敬意に値します。他の誰にできたかといわれて、そう多くの名をあげることもできません。

でも、それとこれとは別問題です。

身近に頼る人もないような若い女性を王宮の名前で追い詰めたのです。

コウサカ殿は追い詰められた挙句に家ごと逃げたのですよ。どのくらい怖かったか、おわかりにならないですか。

たとえ再びお会いになられても、虫けら扱いされるだけですよ、殿下」


「キルエット。頼む。どうしても会いたい。振られても殴られてもいい。

メリアクセルが一目惚れの恋煩いだというのだ。俺にはよくわからん。

宮廷医のメリーアンは、危機的な状況で助けられたための一時的な思い違いだという。

どっちでもいい、会えばわかる気がする」

「殿下、それは殿下おひとりのご都合。コウサカ殿のお気持ちに何の配慮もありません」

「ではどうすればいいのだ」

「ご自分で考えてください。答えをお聞きしてからこちらも考えます」


ふにゃ○○ヤロー、と毒づきながら、キルエットは転移陣に乗って帰って行った。

一体王宮はどういう教育をしたのだ。

いや、魔道具の講義を授けていたころの王弟は極めて優秀で冷静な青年だった。

国境紛争で敵国の人質になりかけ、絶望的な状況下でありながら魔の森をただひとりで切り抜け、さらに雪の中をさまよって倒れていたところを助けられたと聞いた。


キルエットは、弟子マリエットが最初の弟子に取った、クロウという名の薬師を思い浮かべていた。初心者ではないと言い切れるほど腕がいいし、弟子マリエットに対しても、大師匠に当たる自分に対しても配慮が行き届いている。

この国の言葉を自在に操っているのに、子どもが馴染んでいる童謡を全く知らず、世界を広く旅したキルエットも知らないリズムを時々口ずさんでいる。



城塞町の西の村では、仕立屋が布を持ち込んだ人のよさそうな青年を探していた。

「ああ、どうしよう。俺は破滅だ」

布を持って、村長に奥さまの普段着にいかががでしょうか、と勧めに行ったら、村長の妻の顔色が変わった。布を買い取りましょうと言われて仕入れ値の5倍で売った。

村長はそれを領主への貢ぎ物にしたらしかった。

領主の妻は、布を手に取ると手触りを確かめ、湯を持ってこさせて布を浸して色が抜けないことに驚嘆した。揃った布目は地直しをする必要すらなく、そのまま裁断、縫い上げることができた。


直ちに村長が呼ばれて、この布を織った者を城に上げよ、と命令が出た。

村長は顔色を悪くして仕立屋を呼びつけたが、仕立屋は田舎者の青年が持ってきたとしか答えることができなかった。

「これほどの布を安く買い叩いて、どういうつもりだ。

正当に取引して、住まいを聞くなり、織手の名前を聞くなりしておけばさらに手に入ったものを」

買値を言わされ、村長に口から泡を飛ばして怒鳴られた。

「仕立屋のおまえなら手に取れば価値がわかったはず。相手を田舎者と侮って、儲けようとするから逃げられるのです」

村長夫人にはぴしゃりと言われ、おまえしかその青年の顔を知らない、探し出せ、と命令されて仕立屋は頭を抱えて唸るしかなかった。



真由が日本に残してきた体は、解剖の後高坂家に引き渡され葬儀が出た。

会社から真由に連絡が取れないと電話があり、父が駆けつけて管理会社がマスターキイで扉を開けた。

管理会社の職員はマニュアルに従って直ちに救急と警察に連絡。真由の体は司法解剖に付された。

不審死なので、会社の同僚と学生時代の友人に目立たないように問い合わせが行われた。

衰弱による死亡であること、原因はおそらく従兄の結婚であることが、穏やかな口調の年配の捜査員によって真由の父に伝えられていた。


葬儀に現れた従兄は、真由の兄と父に両腕を取られ静かに会場から外に出された。

「二度と家には足を踏み入れないでくれ。真由の墓参りも断る」

顔から血の気が引き唇を噛み締めるようにしながらも、父と兄は親戚であるその青年に対して大声は出さなかった。

従兄の親は頭を下げて立ち去って行った。


真由と従兄は同い年で小学校から高校まで同じ学校に通い、同窓生はふたりが高校生の時から長年付き合っていたことを知っていた。マユが同窓生の結婚式に出るたびに、「次はマユりんかもね」と言われた。何度かブーケトスしてもらったこともあった。

高校の同窓生同士で結婚したカップルは多かった。だから、従兄は地元に帰っても同窓生の輪に入ることは二度とできなかった。



ゴールドソードのクランハウスでは、リーダーのコリンが経理を担当している魔術師のミラに愚痴っていた。

「なあ、ローリーはなんだって故郷に帰るなんて、手紙1枚でいなくなっちまったんだ」

「さあ、なんだか育った村で婚約者が待っているとか言ってたみたいだたけど?」

「え~、あいつ男がいたのか」

「さあ、どうかしらね」

ミラは、まだ若いローリーをコリンの恋人に「加える」気なんかなかった。


「どうする、薬師よ~、なぁ、ミラ」

コリンも自分のローリーへのアプローチでミラが半分追い出したようなものだということは何となく気づいてはいた。

「ポーション類をすべて薬師ギルドで買うのはちょっと」

「だろ、な、やっぱり薬師探さないと」

「そうですね、最近薬師ギルドにHPポーションを納入している若い男がいるらしいです。クロウというとか」

「なんだ、男かよ」

「問題でも?」

「いや、別にねーよ」

「それではいつも通り」

「ああ、基本は月額金貨50枚な、そんで、そこから材料代を差っ引く」

「ええ、駆け出しですから、契約書の細かいところなんて読まないでしょうし。金貨50枚といえば目がくらんですぐにサインするでしょう」

「そうだよな、クランハウスでポーション作ってりゃいいんだから、楽な仕事さ」

「ええ」



真由がギルドに納めているポーションは、蓋を覆って貼る錬金術師キルエットのシールが許されていた。薬師ギルドでHPポーションなら1本銅貨500枚。10本組で銀貨5枚。毒消しポーションは1本銀貨2枚、MPポーションは銀貨5枚で引き取られていた。

雑貨屋に卸している回復キャンディは1袋10個入りで銀貨1枚。人気が出てきて、2日に1度20袋納めている。

この時の真由の1カ月当たりの収入はすでに金貨100枚(およそ200万円相当)に迫っていた。もちろんマリエットに弟子としての礼金を、キルエットにシール代という名の上納金を、毎回プリンやゼリーをつけてきちんと支払っているし、薬草類は自分で採取しているから楽に稼いでいるわけではないが。


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