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イヤです  作者: 倉名依都
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冒険者かも

マップ機能に助けられながら、獣道を辿り街道に出ると、東へ向かって歩いた。

商品を積んでいる荷馬車、集落から果物や野鳥を村まで売りに行く荷車、馬を駆けさせる伝令、冒険者のパーティーらしき5,6人の集団、街道が整備されているせいだろう、想像していたより移動する人は多かった。

真由は肩の下丈に切った髪の毛を帽子に押し込んで隠していたが、旅する人々を見ている限り男性の髪が短いようでもなかった。長い人は髪を括って邪魔にならないようにしている。


他の旅人と食事時間が重ならないよう、10時ごろに河原に下りて無限収納からカップ麺とキャンプ道具を取り出して湯を沸かした。

デザートはリンゴとオレンジ。缶コーヒーを飲んで先へと進む。


マップによると、この先昼頃に大きめの村に着く。

その先には中規模の町、水堀と塀がめぐらされている。小高いところに小さな城塞もある。

真由は1枚のコインも持っていない。ウッドハウスであのまま生活していれば、お金なんて全く必要なかった。落ち着いたら薬草類を集めてポーションやハーブ石鹸を作って村に売りに行くことも考えていたのだが、そんな暇もなく引っ越しになってしまった。

くそ~王弟殿下め~と、とりあえず責任を擦り付けておいた。


あのまま雪の中に放置して、結界に認識阻害を付与しておけば「無関係」を貫けたのだが。さすがに目の前で死にかけている人を無視できない。

そもそも真由自身が死亡数秒前でこの世界を護る神さまに拾われた身だ。

恩知らずになりたくはなかった。



お金を稼ぐには、と真由は考えながら歩く。

え~っと、確か冒険者が手っ取り早かったよね、旅をするのにいちいちウッドハウスを展開できないから、ひとり用テントとキャンピングセットは取り出せるようにしてある。でも、この国の事情を知って安全に旅をしようと思えば、酒場や宿屋、ギルドで情報収集というのがパターンだったはずだ。

酒場でも宿でもお金はいる。

薬草類を集めて売るにも、冒険者章があったほうがいいのではなかったか。そして、冒険者章を作ってもらうにもお金が。

なんて世知辛い~、マネーか~、単位さえ知らないのに。

あ、そうそう、こういう時はまず市場巡りかお店巡りをして、貨幣価値をサーベイするのだった。ありがたやライトノベル、感謝。


まず物の値段からコイン価値を推定、売っているものと売ろうとして持っているものを見比べ、もっとも安全な品物として木綿の無地布を取り出し1m2000円ほど、こちらの通貨で銀貨1枚少々で売った。きれいな赤を5m、クリーム色を5m。どちらも花びらやハーブで染めたと言えば通る色だ。金貨1枚と、銀貨1枚をゲット。

機械織なのだから当然だが、あまりにも美しく揃った織目とムラのない染めに買い取った仕立屋はホクホクの大喜びだった。かなり買い叩かれたのだろうが、真由は村娘のお祭り衣装になってくれるといいなと思いながら、人のよさそうな微笑みを浮かべた。

その売上金で冒険者章を作ってもらい、昼過ぎに村を出た。


冒険者章の名前はクロウ、性別男、年齢は18にしておいた。どうせ存在自体が大嘘なのだ、やるだけやってやる、と開き直っている真由なのだった。


城塞町までテント1泊、結界 (相変わらず1,2の3でホイホイだ)に認識阻害を付与し無事にやり過ごす。絡まれないって大切だ。

テント場から少し森に入って、深入りしないよう慎重にマップを見ながら市場で確認してきた薬草類を採取する。とりあえずこれをギルドに納めて城塞町でしばらく過ごすつもりでいだ。


城塞町には冒険者章で入り、中程度の宿を確保した。

薬草類だけでは毎日の宿代が出なかったので、河原に結界と認識阻害を展開して、キャンプ道具を使ってキャンディを作ることにした。甘いキャンディは売れるだろうと思ったから。


ただ、単なるキャンディでは砂糖の入手先を怪しまれるだろう。そこで、採った薬草をすり潰して、煮て、漉し、砂糖に練り込んで回復キャンディを作ってみた。

アイディア商品として、売り上げを折半すると交渉し、雑貨屋さんに置かせてもらった。舐めている間ずっとHPが回復し続けるというところがウリで、色付きの飴を思い出して透明な砂糖味、抹茶色の薬草味、薄い緑色の甘草味の3色ねじり飴にしておいた。


緊急時はHPポーション、移動時には回復キャンディと使い分けをおススメしてもらい、冒険者に売れているようだ。


城塞町は子爵が統治していて妻と娘もいるようだったので、オーダーメイドも受け付けている衣裳店に行って服飾用ケミカルレースを売り、イケそうだったのでシルクで作った花のブローチと、花を描いたシルクスカーフを買ってもらったりもした。

ケミカルレースとシルクスカーフは驚くほどの高値で売れ、当分宿代に困ることはなさそうだった。

念のために女性の姿に戻り、探しても見つからないように十分注意しておいた。


順調に薬草と回復キャンディを売り、こまごまとしたギルドの依頼を丁寧にこなして稼いだ。

中程度の宿のベッドは収納して、ソファベッドをはじめ寝具を全部収納から取り出して寝た。

認識阻害を掛けて川辺にシャワーをセット、もしものために収納に準備していたベビーバスでお湯に浸かることにも成功。

冒険者ライフも悪くないかと思い始めた頃、またもやチェーン・イベントの影がちらついた。


東隣りの村までギルド依頼の届け物をしていた。安い依頼で誰も受けようとしなかったが、真由は東の村も見ておきたかったので受けることにした。

ちょっと嵩張るアイテムを運ばなくてはいけなかったが、最初は袋に入れて背負い、人が見ていないところで収納に入れてしまった。


早朝に出れば夕方に着く距離だったが、どこか目立たないところでウッドハウスを出して久しぶりに浴槽でバブルバスを楽しみ、広いベッドでのびのびと眠りたかった。

昼過ぎに出て明るいうちに適当な場所を探す予定でいた。


2時間ほど歩いたところで戦闘音が聞こえてきた。あちゃ~、トラブル?と低い丘の上からそっとのぞき込む。

紋章入りの箱馬車を、20人ほどの男たちが襲撃しているようだった。馬車を護る兵は5人ほど、御者が馬車を逃がそうと体を丸めるようにして周囲を窺っているが、襲撃側の人数が多くて隙が見つからないようだ。


え~っと、こういうケースの時の教訓はどうだっけ?

兵が護っている場合は、乗っているのは王女さまとか貴族の姫君で、助けたらお礼1回じゃ済まなかったはず。褒賞を授けるとか呼び出されて、姫に気にいられてお茶に誘われ、ちょうどそこに王宮から貴族が来たり。

運が悪いと王都への護衛を頼まれたりするのでは?う~ん、ありそうだよねぇ~、どうしよう。


助けたいのは山々だけど、自分を犠牲にする気はない。というわけで、姿を見せないで援護できるようにスリープを使うことにした。

隠蔽で身を隠して接近、スリープを掛けて回った。次々と倒れていく襲撃者に、どこからの援護だろうかと見回す護衛兵士たちを微妙に避け、だいたい眠らせたところでさっさと逃げ出した。人数が均衡していれば貴族を護衛する兵士が負けることはないだろう。


その後、橋の掛った小川に沿って登っていき、1時間ほど歩いたところでウッドハウスが建てられそうな広さの窪地を見つけてハウスを展開した。

その夜は、長い時間お風呂を楽しみ、湯上りに冷えたビール、晩ご飯は煮魚、肉じゃが、冷奴、炊き込みご飯にわかめの味噌汁、しば漬け付きという渋いメニューを堪能した。

うまくやったかも、と自画自賛のビールはサイコーだった。


久しぶりの低反発マットレスにのびのびと手足を伸ばして横になる。

このままこの世界の誰とも縁を結ばないまま生きていくのかな、とちょっとした寂寥感が胸をかすめはしたが、10年一緒に生きてきたと思っていたのはこちらだけだった、という激しい男性嫌悪、自信喪失はひどく後を引いていた。

誰かを信じること自体ができない、そんな気がする。

真由は静かに目を閉じて、明日の道取りを考えていたが、やがて穏やかな眠りについた。


翌朝はゆっくり起きだし、トーストとコーヒー、ヨーグルト、ブルーベリージャムの朝食にした。

昨夜の炊き込みご飯をおにぎりにして収納、ゆっくりと準備を終えてハウスを収納、薬草類を採取しながら川沿いを街道まで下って行った。

昼過ぎに東の村に着き、無事にお届け物を渡した。採取してきた薬草類を売って、そそくさと村を出る。

昨夜を過ごした同じ窪地にふたたびウッドハウスを展開、翌朝のんびりと城塞町まで帰った。


城塞では、子爵令嬢の馬車が襲撃を受け、誰かが遠距離攻撃で援護してくれたおかげで無事に済んだ話で持ちきりのようだった。

真由も冒険者ギルドで誰か凄腕の魔法使いを見かけなかったかと尋ねられた。もちろんオトボケで乗り切り、ちょうどその時間は川岸で休憩していたから大分後ろの方みたいですとか何とか、無関係を貫いた。



聖女の線だけはどうしても避けたかった。だから、たぶんできるとは思ったが、癒し系の魔法は試みていなかった。

鑑定を使ってHPポーションの成分を分析し、調合した薬草をすり潰して漉したものをキャンディに練り込んでいたが、正しいポーションの作り方を習っておきたかった。

薬師ギルドに登録し、何度か大量の薬草を持ち込んだ。信用ができたところで自分でもポーションを作れるようになりたいと哀訴して、まずは短期間女性錬金術師に師事することができた。


マリエットという名のその錬金術師は真由よりもかなり若く、高名な師匠について修業中だ。

教えることで技術が安定するからと師匠に言われて、真由の指導を引き受けてくれた。


マリエットはかわいいドジっ子で、生活力にはかなり問題があったが製薬技術は確かだった。

真由はまずマリエットが師匠から与えられている離れの大掃除と料理をして、プリンで胃袋ごとゲットした。う~ん、プリンは効くな~、と、生フルーツを細かく刻みミントの葉を飾っておやつに出した。

1週間ほどで最初のHPポーションづくりを習得した。


マリエットとはすっかり仲良くなって、依頼したHPポーションの製薬を会得した後も、「師匠~」と食事を持って掃除に行き、毒消しやMPポーションを作る手元を見せてもらった。

もちろん指導料は払ったし、マリエットの師匠であるキルエットにも挨拶して認めてもらっている。


キルエットは「技は習うな、盗め」という錬金術師だ。教えてもらったことを継ぐだけでは技術は発展しないそうだ。がんこ職人みたいだなと思ったが、非常に高名なS級冒険者で、高名な錬金術師だそうだ。挨拶に行くと、年齢不詳の美人にS級のほほえみを戴いた、尊い……

大師匠おおししょうと崇めて、プリンやチョコレートを貢いだ。


ポーションを薬師ギルドに売るようになって、次第に城塞町になじんでいった。

そろそろ宿屋を引き払って間借りするかどこかの離れを借りて落ち着こうかなと思い始めた頃、次のイベントがきた。


「なあ、おまえ、ポーション作れるんだって、なあ」

冒険者ギルドで絡んできたのは、野性的な感じの若い男だった。

真由は思わず2,3歩後ろへ逃げた。目立たないようにひっそり生活しているのに、一体何がこの男の目を引いてしまったのだろうか。


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