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イヤです  作者: 倉名依都
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行き倒れ王族を一名救助

このページは、2024年1月に追加情報を書き込みました

命をカタに神から好条件を毟り取った真由は、あと数秒で死ぬところだった割には元気に異世界ライフを送っていた。


高MPで好きなだけ高級家具を再現、異空間無限収納を有効活用して運ぶ手間を省き(このあたりはライトノベルを清涼剤として楽しんできた読書経験がものを言っている)、この開口部じゃ絶対にこの家具は入らないだろうという難題も楽々クリアした。

神さま大放出サービスの何でも実る木は、もしかしたら世界樹じゃないのという巨木で、森の入り口辺りで悪目立ちしている。


かなり満足できる生活を送ってはいたのだが、ひとつ腑に落ちないことがあった。それは、容姿が変わっていたことだった。こんな話は聞かされていない、単に時間がなくてここまで知らされなかったのかもしれないけれど。


もともと真由は、セミロングのきれいなストレートヘアで顔立ちは日本人として平凡と言ってよかった。オフィスガールの化粧をすれば、目立たないでいられるごくごく普通の容姿だった。

それがどうだろう。鏡には、”だれ?”と思うほどの別人が映っていた。白人というには少し象牙掛かった肌色をしているが、シミひとつほくろひとつなくすべすべだ。細い眉に鳶色とびいろの瞳をした切れ長の目、鼻筋が通っていながら高くも低くもない愛らしい鼻、まるでシャインリップを塗ったようにぷるんとしたピンクの唇。

そして、何と言っても特徴的なのは、ほとんど太ももにも届こうとする長さの髪だった。

その色が、いわゆるメッシュというのだろうか、薄茶色で光の当たり具合によっては金にも見える地色に、何房か瞳とほぼ同じ鳶色、つまり濃い茶色の房が入っている。

まるで二色の猫のようだわね、と思って笑った。この世界では髪の毛は単色というわけではないのかもね、とあっさりと受け入れていた。

だって、とても美しいのだから。


そういえば、宣言通りログハウス前に置き去りにされた瞬間に、1,2の3でホイホイ、と唱えると、本当に結界ができてびっくりした。

それでとうとう死ぬ理由がなくなって、えい、王子さまでも宰相の息子でも、騎士団の団長でもイケメン神官でもどんと来い、全員追い返してやる、と程よく気合が入っていた。



「ああー、来たきた」

それは積もった雪が美しい日だった。結界ギリギリ外をふらふらと歩いてきて、パタリと倒れた人の姿が見えた。なんつーわざとらしい~。

異世界最初のイベントだ。


え~っと、どういう対応でいこうかな、と、雪の中に行き倒れている気の毒な人を暖かい部屋の窓際に座って眺めていた。

こういう時はどうだっけ?助けたら居つくパターン、すぐに迎えが来て忠実な部下かなんかに敵視されるパターン、何度も会いにこられてついにプロポーズされるパターンもあったかも。

え~っと、助けるのはいいけど、蹴り出して二度と会わないで済むパターンってどういうのだろう。

いや、意外とそれってフツーじゃないのかな。ちょっと行き倒れているところを助けたぐらいなら、一回菓子折り持ってお礼に来る程度がまあいいところ?心配することないか?


面倒なことにならなきゃいいな~、ぜひお礼一回のみでと思う。

何でも実る木に魔力とイメージを送り、救急救命隊が使うキャスター足付き担架と救急救命の心得を解説した本を収穫、行き倒れのところまで押していった。

足を畳んで、都合よく横向きに倒れている男の背中側に担架を沿わせ、よっこいしょと体を転がすようにして乗せる。再びキャスターを展開、ウッドハウスに運び込んだ。


「え~っと、凍え死にそうな人の救命、と。う~ん、急に温めてもな~、寒い時か~~。血流?末梢血管を刺激? う~ん」

唸りながら靴と靴下、濡れた服を脱がせ急いで乾いたパジャマを着せたが、力が抜けている人間の体の重さを支えきれず風魔法で軽く浮かせてしまった。一応温風にしておいたけど、寒かったかもしれない、スマン。


苦労しながら手袋も脱がせ、濡れた髪にタオルを巻くと緊急時用保温シートでくるみこんだ。

男性の裸?今更~。

何だったら下着も替える?替えている間に体温下がるけどね。

シートの上から毛布を折って掛け、手足の指先を軽くこすってやる。白くなるほどでもないから、ま、大丈夫だろう。ソックスを履かせて保温シートでくるみなおす。


目が覚めた時のために温かいスープとスポーツドリンク、ついでに風邪薬を準備した。目が覚めるなら、食って寝てりゃそのうち何とかなるだろう、多分。


スープを作り終え、コーヒータイムを楽しんでいるといきなり声を掛けられた。

「そこのレディ」

「は?レディ?」

「ここはどこだ、私は死ななかったのか?」

「ああ、目が覚めたのね、行き倒れさん」

「行き倒れさん?俺のことか」

「名前知らないから」

「レオン・ド・サイオン、王族だ」

「はあ、そうですか。私は高坂真由。コウサカとお呼びください、王族のサイオン様」


「よかろう、コウサカ。城に連絡してくれ、迎えが来るだろう」

「王族のサイオン閣下、魔法で連絡なさってください」

「俺に命令するつもりか」

「いえ、別にどうでもいいですけど、私は最近転移で連れてこられたばかりで、まだこの敷地から出たことがありませんので。城がどこにあるか知りません。

田舎者でしてお許しください、ってか、誰がお命をお救いしたと?

なんでしたら今からでも外の雪の中に放り出します?

王族かどうか知りませんけど、自称ですよね?」


自称、王族レオン・ド・サイオンは、一応思慮深くなるように教育は受けているらしく、反論されて自分の置かれている状況を観察してみることにしたらしかった。


「あ、起き上がらないで」

王族さまは、デカい体の幅しかない救命ベッドで保温シートにくるみこまれているのに、腹筋だけで起き上がろうとして無理に体をねじった。当然、ドサンと音を立ててベッドごと派手に倒れる。

ベルト掛けておけばよかった。頭打ってないかな?とちょっとだけ反省する真由。


「何だこれは」

シートにくるまれてアワアワしているくせに、寝かせられていたベッドに文句を言う。

「はいはい、救急救命用キャスター付き担架ですよ。人を運びやすいようにできてるんです。

暴れたら倒れるに決まってます」

「ふーむ、このキラキラした布は何だ、回復を付与した魔法の布か?」

「いえいえ、只の保温シートですよ。王族さまは冷え切っておいででしたので、体温が逃げないように保護していたんです。魔法だと急に暖かくなっちゃいますのでね、ご自分の体温で徐々に温まるようにしておいたんですよ。その方が回復後のダメージが少ないですから」


「コウサカが着替えさせたのか」

「はあ、まあ、他に人はいませんのでね」

「そうか」

なに~、「そうか」だと~~。真由の怒りの目盛がひとつ上がった。


「ところで、体を中から温めるようにスープを作ってありますけど、どうなさいます?」

「すまぬ、いただこう」

王族さまは、スープを目の前にしてじっと待っていた。何だろう?

「どうぞ?」

「毒味をせよ」

「はあ?何ですって?毒味?」

沸騰する真由の怒りボルテージ。

「王族さま、何考えてんですか、バカなんですか?

殺す気なら雪の中に放っておくでしょ?なんでわざわざ家に入れて看護して蘇生させます?

いいです。別に食べてもらわなくても。さっさと迎えを呼んで、すぐに帰ってください」


真由はせっかく差し出したスープを下げようと手を出した。

王族さまはあわてて超高価な王妃のバラシリーズのスープ皿に両手を掛けて引き留めた。

「わかった、いただこう」

「いえ、結構です。帰ってください、すぐに」

真由はプンプンして席を外した。

「早く帰ってくださいね。迷惑です」

きっぱり言い渡した。つもりだった。


その後自称王族閣下は、魔力が回復したら連絡するだの、頭がイタイだの胸が苦しいだの、さんざんゴネていた。真由の反応は大概、「お気に召さないようですから今すぐお帰りください、もう歩けますよね」 だったことは言うまでもない。

知らせを飛ばしたのか、位置情報検索魔法か何かを付与されたアイテムを持っていたかしたらしく、次の日には雪の上の足跡をたどって護衛騎士隊が探しに来た。

そして、結界の外から大声で叫びたてた。

「閣下、ご無事ですかー!」

「魔女の家か、すぐに閣下を開放せよ!」

とか、もう、無茶苦茶うるさい。おまけに信じられないほど失礼だ。

声がデカすぎるので、結界に遮音を付与したが、それでも視界がうるさすぎた。


「さ、閣下、お迎えですよ。お帰りください、うるさいです」

「え、もっと居たい。ここ暖かいし、メシうまいし、風呂とかスゴイ」

「ああ、そうですか。お帰りください。部下の方がうるっさい! です」

「じゃあ、黙るように言ってくる」

「はいはい、ではこの服どうぞ。元の服に着替えてくださいね」

「あ、きれいになってる」

「はいはい、魔女だそうですからね、私。魔法かもしれませんよ。

本当はおしゃれ着用洗剤の部分洗いと蒸気アイロンがけですけどね」


リオン・ド・サイオン閣下は、女性の目の前でも平気の平左で下着まで脱ぎ捨て、救助した時に着ていた衣服を身に着けて外に出ていった。

脱ぎ捨てた借り着を片づけることすらしない。今どき幼稚園児でも脱いだ服を洗濯機に放り込むくらいはするというのに、親の顔が見たいわ! 王族らしいけど。


真由は知らないが、彼女が操るのは最上位結界魔法で外に出る分には障害にならない。

玄関のドアのところで王族閣下が結界を出るのを見定め、ぴしゃりと認識阻害の魔法を付与した。


なんとかうまく処理した気分になり、真由は大変満足していた。

まあ、初イベントとしてはうまく対処したほうではないかと自画自賛しつつ、無駄に魔力を使ってデパ地下スイーツを実らせた。そしてゆっくりとエスプレッソを淹れ、コーヒータイムを楽しんだ。


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