いらっしゃい、アレグリア
空気がますます冷たくなり、アレグリアと赤ちゃんたちが気になった。ノラ猫が秋に出産すると、仔が死にやすいと聞いたことがある。春仔は丈夫だというから、秋仔は育ちにくいということだろう。
マユは夕食と風呂を終え、ベッドに寝そべりながらアレグリアを呼んでみた。
「アレグリア、アレグリア、聞こえる?」
返事はすぐに返ってきた。
「おお、マユ。マユだな、元気でいるか」
「うん、アレグリアはどうしてる?」
「大事ない」
「そうなのね、お話できてうれしい」
「村はどうだ」
「うん、ちょっと。今はアレグリアも泊まったあのハウスに住んでるんだ。
毎日村に通ってお薬の仕事をしてる」
「そうか、元気ならよい」
「あのね、あかちゃんたちだけど。
ちょっと気になってるの、どんどん寒くなってるけど大丈夫?」
「ああ、そうだな。
事情があって秋に生まれたから、今年の冬は厳しいだろう。だが、優れた父の子だ、必ず乗り切るだろう」
「え?そうなの?
ね、アレグリア、押し付けるわけじゃないけど。
あのね、今年の冬だけあかちゃん連れてうちに来ない?そこの岩の中、すごく寒いと思うの。
どこか洞窟とか、木の洞とか、そういうのがあればいいけど、あかちゃんが行ける場所にある?」
「マユよ」
「うん」
「それも神への恩返しか」
「ううん、違う。違うよ。
私は友だちのアレグリアと寒い冬を一緒に過ごしたいだけだよ。あかちゃんが大きくなるのを見ていたいし」
少しの沈黙ののち、アレグリアは語りかけた。
「マユよ、子の父は死んだ。
父がおれば子を残して狩りに行かずともよいが、マユも知っているとおりだ」
「うん」
「マユの好意を受けよう」
「アレグリア、本当に? ああ、うれしい」
「私はマユの喜びだからな」
マユはアレグリアの笑い声を聞いたような気がした。虎の照れ笑いとかS級レア度の超絶ご褒美だ。マユもクククと、かすかな笑い声を返しながら喜びを伝えた。
「そうだよ、ありがとう。ね、いつ来る?迎えに行く?」
マユはもう眠気も吹っ飛び、ベッドから飛び降りるようにして部屋を片付けた。
ソファやカウチは全部収納し、食事はアイランドキッチンの隅っこに椅子を1脚置いて済ませることにした。
虎たちにはウッドデッキに面したフランス窓から出入りしてもらおうと思う。
マユの留守中は窓を半面開けたままにできるよう、ウッドデッキに風よけ室を作ってスウィングドアを取り付ける。窓には暖簾のように切れ目をつけた厚手のカーテンを垂らした。
これだけ準備すれば何とかなるかと思った頃には夜明けが近づいていた。
少し眠ってその日も滞りなく調合を終えると、アレグリアたちを迎えに街道を突っ走っていった。
「アレグリア、今どこ?」
「ああ、大分近くまで来たが、そろそろ子どもたちが歩けぬ」
「待ってて、マップで検索してすぐに行くよ」
アレグリアの大きな青ドッドに、子虎二頭の小さな青ドッドが集まっているところを探し、がむしゃらに斜面を登って行った。
「アレグリア!」
「マユ、よく来てくれた」
「うん、あかちゃんひとり抱っこしちゃうよ」
「ああ、たのむ」
大分大きく重くなっていたが、マユが片方を抱えアレグリアがもう一方の首を咥えて運んだ。
おかあさんに首を咥えられて、前足をちょんと胸前に揃えて運ばれている仔はとてつもなくかわいい。抱っこしている仔をしっかり抱えて歩きながら、ストレスってなに?というほど癒されていた。
前と違うのは度々降ろして歩かせたことだ。重くなって運ぶほうも運ばれるほうも少し辛い。
暗くなった山の中をゆっくりと歩いてハウスに着いた。
マユはもうムチャクチャに嬉しくて、その夜は3頭の虎と一緒に眠った。




