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星読みの遺言  作者: あおい
05
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05-2


「どう言う事だリカード。なぜあんな餓鬼を助ける!」


 ハドリーの声は怒りに震え、その身体も小刻みに震えている。


「あなたの負けです」


 リカードは静かに呟いた。


「何がだ!」


「この国はどんな神も受け入れるし、人はどんな国にも溶け込んでしまう。そんな国まで乗り込んで来て、悪意と強欲の塊であるあなたが勝てるわけがない……いや、本当は全て最初から完全に、勝てるはずはなかったのです」


「何が神だ強欲だ! 私は負け犬共の感傷など聞く耳持たんぞ! この国は負けたんだ! 戦争に、私との経済戦争にっ!」


「日本と言う国に手を出したのが間違い、僕はそう思っていました。けれど本当はきっと、どんな国も踏みにじってはいけなかったんです。手を出してはいけないたった一枚の、逆鱗のような国。それがこの日本だったのですよ」


「ふざけるなリカード! ここまで来て、何をわけの分からん事をっ!」


 ハドリーはリカードを殴った。

 避けられたはずのリカードはそうせず、甘んじてその頬をハドリーに差し出したのである。


 口の中に血の臭いを感じた。


「では説明しましょう。パトリス。ラッキーチャイルドの星を持つ彼女の〈ボス〉は、誰ですか」


「私に決まっているだろうがっ! 今更お前に横取りはさせんぞ」


「いいえ……彼ですよ」


 す、とその腕が伸びて貴堂を指した。


「彼が〈ボス〉の星を持っている。いや、それどころか〈マスター〉と呼ぶ方が相応しいのかも知れない」


「な……んだとっ?」


「〈パートナーを助ける星〉を持つ者が〈ラッキーチャイルド〉なのですから、当然〈ボスの星〉をホロスコープに持つ人が居るのです。調べてみなければ分かりませんが、彼は〈ボス〉どころか、それより強力な支配者・〈マスター〉の星を持っていると思いますよ。あなたがさっき、パトリスからの電話に出た時、彼らふたりの空間は繋がってしまった……ふたつの星のエネルギーが巡り会った以上、余所者のあなたの願いなどもう二度と、パトリスを所有しているだけで叶う事はありません。僕も最初から、あなたの手伝いなどするべきではなかったんです」


「今まで世話になった人に対し、そんな事を言うのかお前はっ! アンソニーもそうだった、薄情な男だったよ! サッサと就職して地元を離れ、私をひとりにしたんだっ」


「可哀想な人だ。祖父への友情や信頼は、あなたが鬼になるための踏み台と化してしまったのですね」


「鬼だと……ああ、そう呼びたければ呼ぶがいい。私はモンスターにでも何にでもなってやる!」


「あんなに悪いモノを砕いてもらったのに、まだそのような気持ちでしか居られないなんて……あなたと言う人は」


「その鬼に生かされて来たお前ごときが、偉そうにモノを抜かすなっ」


 ハドリーは目を充血させ、金切り声で叫び続ける。

 リカードにとってはもう、気の毒な老人としか見えなくなってしまっていた。


 幼い頃から面倒を見てもらって来た。

 生活費をもらって来た。

 祖母も安心して逝く事が出来た。


 何より大好きな祖父の、親友だった人なのだ。


 けれど、もうこれ以上、見ていられない。

 陸に上げられた魚が断末魔で暴れているような悲惨さしか感じられなくなってしまった。



『リカード。お前は将来、どんな職に就きたい?』


『スポーツ大会のレギュラーに選ばれたのか! よくやったな! ……アンソニーはスポーツ、苦手だったけどな?』


『お前が夏休みに入ったらパトリスと三人で、海辺の町へ旅行に行こうか。あそこには学生時代、アンソニーと一緒にアルバイトをしたホテルがあるんだ。懐かしいなぁ。マリンスポーツも楽しいぞぉ』


『よし、三人でクリスマスツリーの飾り付けをしよう。当日までにはカードの準備もしておけよ』


『リカード。誕生日おめでとう。きっとアンソニーも天国で祝福してくれているな』



 ハドリーは結婚もせず、家族も作らず、仕事ばかりして来た。

 幼い自分とパトリスを可愛がってくれたのは真実だったと、今でも思っている。


「なぜあの頃のままのあなたで居られなかったのですか」


 リカードは涙が零れる事など、もう恥ずかしくなかった。

 涙など、今のハドリーに通じない事は分かっているから。


 ハドリーは半狂乱になり叫んでいた。

 もう、会話も出来ないし意味も分からない。


 我を忘れたように毒の言葉を吐き続けるハドリー。

 あまりにも速い精神の崩壊に見えるがそれは、ラッキーチャイルドとの縁が切れた反動、なのかも知れない。

 無理をし続けてまで世界を踏み荒らして来た。その罰なのかも知れない。


「なぜ僕に、ここまでさせるのです……それが何より悲しい」


 リカードは再びカードを手にする。

 そして、それを口元に近づけた。


「こんな……こんな時が来る、なんて」


 だけど心のどこかでは、こんな結末を予測していたような気もする。

 あのように極悪な事をやり遂げた人間が、どうなるのか。


 法律の世界ではともかく、オカルト的な世界観で少し考えれば、分かる事――。

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