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星読みの遺言  作者: あおい
04
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04-2


 人々の背中が見える。

 たくさんの人達が、前方の山を見ていた。


 その人達の背後に近づく貴堂。

 一瞬「祭?」とも思ったが、どうもそんな雰囲気ではない。


 暗い山のシルエットに、オレンジ色の炎が踊っている。

 そして夜空に舞い散るのは、蛍光色に輝く無数の火の粉だ。


 パトカーと救急車と消防車のサイレンが同時に鳴り響き、次から次へ制服姿の人達が各車両から降りて来る。


 小学校低学年くらいの子供が数人、泣きわめいていた。

 山火事を携帯で撮影している何人もの大人達は、泣いてる子さえ被写体にしている。


 背後から人だかりに潜り込み前へ出ると、山の火事が麓の民家にまで移っているのが分かった。

 母屋や小納屋があるような、田舎くさい民家が数軒、燃えている。


 右奥の、大きな施設も燃えているようだ。

 そちらの方から人々が、こちらに逃げて来る。

 それは車椅子に乗っている人達や、それを押している人達。そのすぐ後から小型マイクロバスが追って来た。


 近づいて来るにつれ、車椅子の人達がモメているのが分かった。

 背後を何度も振り返り、何かを叫んでいるのは……お年寄りばかりである。


 ――もしかしてあの施設って、郊外型の老人ホームだったり?


 自分達の前を通り過ぎたマイクロバスの側面には、施設の名前が入っていたようだ。ハッキリと名前までは確認出来なかったけれど、お年寄り達のシルエットが窓に見えたような気がした。


「おじいちゃ……おじいちゃんの写真だけでも……お願いお願いぃ!」


「ごめんなさいハルエさん……」


「何も無いよ……燃えちゃったらあたし達、もう何も残らないよぉ……! 全部無くなるんだよぉ」


「そうだ! 取りに行かせろ……バァさんの遺品、くだらない物だがおれにとっちゃ唯一の想い出の品なんだ……」


 警察が道を規制している。火の粉はこの近くまで飛んで来て、確かに危ない。


「おうち、なくなっちゃうの? もう、おうにちもどれないの?」


 声の方を見ると、まだ幼稚園くらいの男の子が母親らしき女性に抱きつき泣いていた。

 そこから火災を見ている人は、誰もがショックを受けている。


「早く消火して下さいっ。このままじゃ家が全焼してしまうっ」


 消防士に向かって怒鳴っている中年男性を、警察官が制止していた。


「どうしてあの火は消えないんだ! どうなってるんだ! どうしてくれるんだーっ!」


 消えないわけではないのだろう。

 火の勢いが強過ぎて放水が追いついていないのだろう。


「姫君、俺達、どうしてこんな所へ」


 ちらり、と視線を姫君に向けた時、貴堂はギョッとした。

 姫君は両膝から崩れ落ち、前方を見据えている。


「大丈夫ですか!」


 貴堂もしゃがんでその背中に手を添えたのだが。


「貴堂……見て。よく、見て」


 姫君が指を指す。

 それは山が燃えている部分の、中央くらいを指していた。


「見てって……犯人でも居るんですか……」と言い終わった時である。


 精霊の屍が山積みにされているのが、ハッキリと見えたのは。



 遠くからでもハッキリと見える。

 脳裏に浮かぶ。

 半透明の身体が積み上げられていて、そして。


 火が……その亡骸に燃え移り、焼き尽くそうとしている。



 警察の張ったバリケードテープをかいくぐり、貴堂は山に向かって走った。

 背後から警察官の怒声が追いかけて来るけれど、止まれるわけがない。


「戻りなさい! 戻りなさいーっ!」


 背後から足音が追いかけて来る。大人のくせに速くて、追いつかれてしまいそうだ。

 日頃から身体を鍛えているだろうから、大人の中でも身体能力は高いだろう。


 ――でも、止められるわけにはいかないんだよっ!


 貴堂は走った。必死で足を動かした。


 ――もっと速く! 速く! 速くっ!


 筋肉が砕けるくらいに、関節が壊れるくらいに、それくらい頑張って走ろう。

 でも実際は砕けないし、壊れない程度の速度しか出せない。

 貴堂はアスリートでもない、ただの高校生だから。


「きみっ!」と真後ろから声がした時、である。

 貴堂の左腕が前方に向かって引っ張られたのは。


 それはとても冷たい感触だった。


「く……ううっ!」と姫君が必死な表情で引っ張ってくれていた。

 その分、身体が軽くなる。足にかかる体重と重力が軽くなる。


 そして。

 貴堂の足が地面から、離れた……。


「う……うわあっ!」と背後から声が聞こえた。


 貴堂は必死で足を動かすのだが、足にはこれまでと同じ衝撃が感じられなくて、力がムダに流れてゆくのを感じた。


 ――っ?


 すかっ。すかすかっ!


 恐る恐る、背後を振り返る。


 自分の視界よりかなり下に、制服を着た警察官が立っていてこちらを見上げていた。

 見上げて……いた。


「うわっ! うわわわわわ!」


「うくぅっ! あ……暴れないでくだ……さ、いっ。ううっ」


 視線を向けると、顔を真っ赤にして貴堂の腕を掴んでいる姫君が居た。


 貴堂は風を感じている。

 頬に、髪に、服に……自分達の周囲をキラキラと火の粉が舞っている。


 貴堂は姫君に引っ張り上げられ、周囲の民家全てが足より下にあった。

 二階建てと思われる家の屋根が、二メートルだか三メートルだか、下方に見える。


 ――とっ、とととと! 飛んっ、でるっ!


 そして貴堂はもっと後方……さっきの場所に居た人々を振り返った。

 誰もこちらに注目していない。放水されている民家や、山の方を見ている。


 ――確かに……放水されてもあの火は消えないみたいだな。


 水による影響が全く見られない。

 まるで、違う次元の映像の火を消そうとしているかのようであった。


 ――カーテン越しの炎のようだ。


 そこまで考えてようやく、貴堂にはその火が何なのか。

 分かったような気がした。


 あれは、ただの火ではない。

 きっと、違う次元のエネルギーを受けているのだ。


 違う次元のエネルギーを。

 他の人なら「魔力」なんて言葉で表現するかも知れないエネルギーを。

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