03-4
そしてリカードはある日、ラッキーチャイルドと呼ばれる者についての答えを得る。
それは、〈パートナーを助ける星〉を持っている者の事を指すようであった。
星の配置自体はそんなに珍しいものではない。
だが、そのエネルギーを現実の世界へ具現化させられるレベルの者となると、話は違って来る。
他の星との兼ね合いもあり、リカードは慎重にその答えを探る。
パートナーを助ける星を、他の惑星が邪魔しない配置を探すのだ。
なるべく歪まずストレートに、星のエネルギーを地上まで導ける配置を。
今の時代で起こりうる、一番最適で最高な星の配置を。
そして、自分なりの答えを導き出した。
リカードに出来る精一杯の答えである。
さてその配置を持つ人は、いつ、どこで生まれただろう?
惑星の運行ソフトを組み込んだパソコンを叩くと、答えはアッサリと出現した。
あとは、その条件に当てはまる者を探すだけだ。
ソフトはその〈瞬間〉を理想的に描き出しているが、土地が違えば時間も変わる。
いつ、どこの国にそのような因子を持つ人間が生まれただろうか。
丁寧に確認作業をくり返して探し出したのが、パトリスである。
だがパトリスにその星は在るものの、ハドリーにはそれを享受出来るような星は見当たらなかった。
ラッキーチャイルドとは〈傍に居るだけで〉誰をも幸せに出来るような存在ではなかったのだ。
そのエネルギーは、あくまでパートナーのためだけに発揮されるもの。
だが、ハドリーはそうは思っていない。
説明したところで今更、諦めるとも思えない。
エネルギーを意図的に作用させる為リカードは、パトリスにハドリーを〈ボス〉と呼ばせる事にした。
もしパトリス経由で何らかのエネルギーが流れているのなら、その方向をハドリーに向けられるだろう。
小手先の策ではあるが、そうするしかなかった。
効果は――あったらしい。
その頃からハドリーの計画が、派閥的政治的難問を次々とクリアしながら動き始めたのである。
悪魔の〈種子〉を世界中にバラ撒いて、あらゆる場所から金を吸い上げるプロジェクトだ。
全世界の人間を対象にした集金システムのプログラムは秀逸過ぎて、会社どころか政府にまで〈金〉と言う恩恵を与えた。
マネーロンダリングの必要も無い、とても綺麗な〈金〉である。
人と精霊の生命が金になる、恐ろしい錬金術だ。
自分達は決して、その野菜を食べないのに……。
自分を、パトリスを。
ハドリー・ワインバーグと言う男は絶対に手放さないだろう。
これからもボスを助ける惑星のエネルギーが、M310社の事業拡大を、無制限に応援し続けるのだ。
会長であるハドリーがその野望を胸に抱き、パトリスが彼を「ボス」と呼んでいる限り。
今の自分ではどう抗う事も出来はしない。
人間など、惑星の前ではゴミのような存在だ。
リカードは夜景を眺めながら「自分のせいだ」と心で呟いた。
これまで……何度後悔したか分からない。
――おじい様が心配するはずだ。子供と言うのは本当に、思慮が甘い。あんなに注意されていたのに、こんな事になるなんて。
これから戻るアパートメントも、ハドリーからの給与みたいなものだ。
自分は頭の先までどっぷりと、あの人に浸かってしまっているのだな……。
翌日、会社の会長室でリカードはハドリーに「日本へ行きませんか」と提案した。
「何だ突然。昨日はお前、そんな事一言も言ってなかったのに」
ハドリーはデスクに貼り付いて、リアルタイム市況を見ている。
各国通貨や株価の上下で、自分や会社の資産が大幅増減するのだ。
老眼のグラスの下で、その目は毎日一喜一憂しているのだろう。
「パトリスが興味を示しています。どうですか、一緒に」
「お前も知っているだろうリカード。私はあまり飛行機が好きではないのだ」
「ですがこれまで、彼女が何かに強く興味を示した事などありませんでしたよ?〈何か〉の合図だったりしたら、面白いものが見れるかも知れません」
「ほう? あの子が興味? 日本にか」
ハドリーの指先が動いた。
もしかしたらドル円やユーロ円のチェック画面でも開いたか?
「可愛い女の子がいっぱい居て、服も可愛いそうです」
「ノンキな娘だ。毎日ネットばかりやってるからだね、きっと」
「どうしますか」
「お前はどう思う?」
「ラッキーチャイルド連れの会長を、あの国が受け止めきれますかね? 僕はそこに興味があります」
ハドリーはその言葉でやっとパソコンから顔を離し、こちらを見た。
「リカードは誘うのが上手いね。お前がくり広げる残酷なショーを、たまに見学するのもいいか」
――残酷……?
リカードは表情を変える事なく微笑んだまま、その言葉をスルーした。
だが心の中では、怒りにも似た感情が激しく渦巻く。
自分に残酷な事をさせているのは誰なのだ、と。
命令を下す者から、そのような事を言われる覚えは無い。
だがここまで来て恨み言を呟いてみても、仕方ないのだ。
こんな生活を何年続けて来た? 出会ってから、ずうっとだ。
ハドリーは内線を使い、パトリスに日本行きが決定した事を告げる。
彼女の歓喜の悲鳴が、電話越しに漏れ聞こえて来た。
「宿泊したいホテルや行きたいレストランがあれば、リストアップしておきなさい。ただし、セキュリティが行き届く所だよ。最近は日本も物騒だからね。希望の場所へ行けるかどうかは、チェックしてみてからだ。分かっているね?」
『は~いっ。じゃあ準備のために、外商さんに来てもらっていいですかぁ?』
「おお。来て頂いて、色々と相談しなさい。きみのパスボートはこちらで準備しておくから」
『了解です、ボス!』
元気な声が聞こえた後、ふたりの内線は切れた。
『私にとってはリカードが兄みたいなものなのかな? と思って』
昨夜の、パトリスの言葉が蘇る。
――実の兄を忘れたわけではないだろうに……。
『絶対にあいつを幸せにしてやってくれよ、なぁ』
年下の自分の前で号泣したあの兄に、パトリスの今の生活を紹介出来るだろうか。
ちゃんと胸を張り「彼女は幸せですよ」と言えるだろうか。
リカードには……分からなかった。ただ自信は、無い。




