第3話 気高きぼっちは案外頼られる
「名取~、席確保してくれた?」
そんなことを言われたので、俺は無言のまま隣の空いてるテーブル席を指す。
「さっすが! みんな、こっち~! 空いてる~!」
すると、離れたところに待機していた他の女子たちが次々と座り始める。
「いつもありがと~! 名取」
俺が確保してるわけじゃないんだが、面倒なのでそういうことにしておく。それというのも、俺が座る場所は誰も近寄らない。そのうえどんなに周りが混雑し始めても、何故か近くの席に座ってこないのでぼっちの専有スペース状態と化している。
目に見えぬ近寄りがたい存在と認識されているかは定かじゃないが、多分そんな感じ。
そんなぼっちの特性をポジティブに捉えた隣のクラスの女子たちは、いち早く俺に声をかけるようになり、昼休みになると俺を頼るようになった。
同じクラスメイトの女子には単なるぼっちで近寄りがたい存在と見られているが、他のクラスの女子やクラブ活動で関わっている人たちからは気高きぼっちとして思われていたりする。
俺に最初に近づいてきたこの女子は、ぼっちの先入観なしに声をかけてきた。しかも割と積極的に。
「名取って、未だにぼっちなの?」
「見たら分かると思うが?」
「またまたぁ~誰かいるっしょ、誰か」
「どこをどう見たら誰かがいるように見えるのか未だに謎なんだが? そういうお前は誰かといるのか?」
誰かの意味はもちろん単なるお友達ではなく、彼女彼氏とかそういう意味を指している。
「そりゃあいるよ、ここにいる子たちと」
俺に声をかけてくるこいつは割と真面目にボケを入れてくるが、俺の言ったことの意味を知ってあえてスルーしてくる奴だ。
「……そうじゃない意味な」
「あーね。うん、まぁそれはおいおい分かることになるだろう!」
他の女子と昼飯を食べていれば害はないのだが、こいつは俺にずっと話しかけてくる謎な女子。隣のクラスで普段ほとんど関わらないというのもあるかもだが、それにしたって物好きな奴だ。
「茶化すなよ、N中」
「N中ですが、何か~?」
名字のイニシャルが同じNなうえ、名字だけでNNと呼べることが判明した時から、気安く呼ぶ仲になった。気安さがあるという意味では、ウチのクラスの勝ち確女子とはまた別の人気さがある奴でもある。
明るい性格、笑うと堂々とした白い歯が存在を表し、ちょっとハスキーボイスで黒髪ショートのこいつは、活発系を思わせる女子だ。だが、野中が所属してるクラブ活動は体育系ではなく、俺と同じ料理研究部である。
俺はいつからか幽霊部員で名前だけの所属だが、野中率いる部員は立派に頑張っているようだ。
「で、名取はいつ来る予定?」
「自分のを作りたくなるか、上月先生に食べさせたくなったら」
上月先生は料理研究部の顧問であり、密かにウチのクラスの担任でもある。
「バイトで自分の分を食べれないんだっけ?」
「仕事だからな」
バイトの簡単な調理にも役立つうえ、学校の予算で何か食べられる褒美があるのを知って、料理研究部に即決で入った。
基本的に作る系の活動なので、男子部員は見事に俺だけだ。
「それもそうだ」
「分かったならお友達と雑談に集中してくれ」
自分のペースでメシを食べたいわけだが、野中に見つかった日は強制的にぼっちじゃいられなくなる。
「ぼっちの中でも気高いてのが好ポイントですな!」
よく分からないことを言ってくるが、俺にその気はない。
「しっしっ」
「今日ってバイトの日?」
手で野中を隣のテーブル席に追い払おうとするのだが、精神力が半端ないらしく、あからさまに意地悪い仕草でもまるで気にせずに訊いてくる。
「個人情報だ」
俺がそう言うと、野中は自分を指差しながら――
「――野中美織。岩岡高校二年生、料理研究部所属。上から160……」
「そりゃ身長だ! 上から言うならスリーサイズだろ」
などと本来なら俺の発言はかなりヤバいが、こいつは分かっててそういうことを口にする。
「それは失礼。しかぁし! わたしの個人情報を知った名取にバイト情報を隠す権利は消滅したぜ!」
隠すも何も、俺がバイトをすると決めた日から部室にシフト表を公表しているのだが、それを気にする部員がいない問題。
「バイト」
「じゃ、みんなで一緒にお邪魔……遊びに行く!」
「お好きにどうぞ。俺はただの短時間店員だ。相手する余裕はない」
――とまあ、俺が孤高のぼっち男子と認定されているのは、あくまで俺のクラスメイトだけだということが早くも判明する。
野中が話しかけてこなければ昼休みは完璧なぼっちタイムになるのだが、こいつに見つかると女子に囲まれる男子という構図が出来上がってしまう。
「そういやさ、名取のクラスの……」
「美織~! そろそろヤバいし、教室~」
野中が何か不穏な質問を投げかけたところで、さっきまで一緒にいた女子たちから俺への助け舟が出される。
「確かに! んじゃ、また会おうぜ、名取」
「知らん」
軽い気持ちで入った料理研究部だったが、まさか俺をぼっちにさせない女子が台頭してくるとは予想だにしてなかった。
それはそうと、やっと嵐が去ったので昼休みの残り時間を使って菓子パンを思いきり口に突っ込んだ。
まだ嚙み切れていないが、口をもぐもぐしながら歩き出した。
「何だ~、いるじゃないですか~!」
……口を動かしながら廊下を歩きだす俺の背後からどこかの女子が何か言っていた気がするが、口の中のパンを無くすのに集中していた俺は何も聞こえていなかった。




