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第7話 仲間のためにスキルを


 翌朝。


「……なんだろう」


 キラは宿の部屋で、床に並んだ仲間たちを見ていた。


 ソラ。


 クロ。


 シロ。


 そして――リナ。


「……増えたなぁ」


「何が?」


 リナがパンを食べながら尋ねる。


「仲間」


「ああ……」


 リナも周囲を見る。


 ベッドの横ではクロが丸くなり、窓際ではシロが跳ねている。


 ソラは机の上でぷるぷるしていた。


「確かに」


「これからもっと増えるんだよね」


「キラなら増やしそう」


「……」


 キラは想像してみた。


 クロ。


 シロ。


 ソラ。


 さらに十匹。


 二十匹。


 百匹。


「……」


 町の中を魔物百匹と歩く自分。


 町の人たちが悲鳴を上げる。


 冒険者が武器を構える。


 宿屋の主人が追い出そうとする。


「……無理だ」


「でしょ?」


 リナが笑う。


「だから、魔物を収納できる何かが必要だと思う」


「収納?」


「うん」


 キラは少し考える。


「アイテムボックスみたいなもの」


「でも魔物って生き物だよ?」


「そうなんだよね……」


 キラは《万象共鳴》を確認する。


 すると――


> 現在の共鳴対象:3




> 能力融合候補:なし




「……」


 今の自分には、空間系の能力がない。


「空間を操れる魔物がいればいいんだけど」


 キラが呟いた瞬間。


 クロの耳が動いた。


「ワフ」


「どうしたの?」


 クロは窓の外を見る。


 そして――


 森の方向へ向かって低く唸った。


「何かいる?」


「ワフ」


 リナが立ち上がる。


「昨日の森?」


「うん」


 キラは窓の外を見る。


 あの巨大な魔力。


 昨日見えた、森の奥にある巨大な存在。


 その正体も気になる。


 しかし――


「まずは依頼を受けよう」


 キラは立ち上がった。


「今日も冒険者として頑張ろう」


「うん」


 リナも頷いた。


-----


 冒険者ギルド。


 昨日と同じ受付嬢が、キラたちを見るなり苦笑した。


「おはようございます」


「おはようございます!」


「……今日は増えてませんね」


「増えてません!」


 キラは胸を張った。


「よかったです」


 受付嬢は本当に安心したようだった。


「それで、本日の依頼ですが――」


 依頼書を並べる。


 薬草採取。


 街道の見回り。


 ゴブリン退治。


 そして――


「こちらは少し変わった依頼です」


 受付嬢が一枚の依頼書を取り出す。


《森の異常調査》


 北の森で、最近奇妙な現象が起きている。


木々の位置が変わっている


一本道だった場所が行き止まりになる


何もない場所に突然洞窟が現れる


魔物の巣が一晩で消える


冒険者が森の中で迷う



「……」


 キラは依頼書を見つめる。


「空間系の魔物がいるかもしれません」


 受付嬢が言った。


「え?」


「確証はありません。でも、普通の魔物では説明できない現象です」


 キラの目が輝いた。


「この依頼、受けます!」


「分かりました」


 受付嬢が頷く。


「ただし、森の奥には入らないこと」


「はい」


「危険を感じたらすぐ戻ること」


「分かりました」


 リナが隣で腕を組む。


「絶対、奥まで行くつもりでしょ?」


「……」


「顔に出てるよ」


「……気をつけます」


「もう」


-----


 北の森。


 昨日まで何度も歩いた場所なのに――


 今日は、何かがおかしい。


「……ここ、昨日通った?」


 リナが周囲を見る。


「うん」


 キラも頷く。


「でも……」


 目の前には、大きな岩がある。


 昨日はなかった。


「クロ」


「ワフ」


 クロが岩の匂いを嗅ぐ。


 そして首を傾げる。


「どう?」


「グル……」


 クロにも分からないらしい。


 キラは岩に触れる。


「普通の岩だ」


 その瞬間。


 岩の表面が揺れた。


「……え?」


 ――グニャ。


 景色が歪む。


「キラ!」


 リナがキラの腕を掴む。


 次の瞬間。


 岩が消えた。


 そこには何もなかった。


「……」


 二人とも黙る。


「今の、見た?」


「見た」


「岩が……消えた?」


「うん」


 ソラが、


「ぷる……」


 と震える。


 シロも耳を伏せる。


 クロは牙をむき出しにした。


「グルルル……」


 明らかに何かがいる。


 キラは周囲を見回す。


「どこ?」


 すると――


「……そこじゃ」


 声がした。


「え?」


 キラが振り返る。


 誰もいない。


「上じゃ」


「上?」


 見上げる。


 木の枝。


 葉。


 そして――


 枝の上に、小さな魔物がいた。


 体長は三十センチほど。


 丸い身体。


 紫色の毛。


 大きな耳。


 額には、小さな水晶のような角。


「……何?」


 キラは目を凝らす。


> 《万象共鳴》




> 対象を解析します。




> 種族:スペースモンキー




> 危険度:低




> 固有能力:《空間収納》




「……!」


 キラの目が輝いた。


「空間収納……!」


 リナが呆れる。


「キラ?」


「いた……!」


「何が?」


「空間を操れる魔物!」


 キラは思わず前へ出る。


「君!」


「なんじゃ?」


「その能力、どうやって使うの?」


「ほう?」


 紫色の魔物は目を細めた。


「人間の子供が、わらわの能力を欲しがるとは珍しいのう」


「わらわ?」


「そうじゃ」


 魔物は胸を張る。


「わらわは空間を操る魔物じゃ」


「名前は?」


「名前?」


「うん」


「そんなものはない」


「じゃあ、名前をつけてもいい?」


 魔物は少し驚いた。


「……ほほう」


 ニヤリと笑う。


「面白い子じゃのう」


 だが――


「しかし、わらわは簡単には従わぬぞ?」


「分かった」


「戦うか?」


「え?」


「わらわに勝てば、考えてやってもよい」


 キラは少し考える。


「……分かった」


 リナが驚く。


「キラ、本当に?」


「うん」


 紫色の魔物が指を鳴らす。


「では――」


 パチン。


 景色が歪んだ。


-----


「……え?」


 キラの目の前から、リナが消えた。


「リナ!?」


「キラ!」


 声は聞こえる。


 でも姿が見えない。


「どこ!?」


「ここ!」


 キラが振り向く。


 いない。


「キラ!」


 今度は後ろ。


 振り返る。


 いない。


「……」


 空間そのものが変わっている。


 道が繋がっていない。


 右を向けば森。


 左を向けば崖。


 振り返れば川。


 さっきまでなかった場所が現れている。


「これが……空間操作」


 キラは息を呑む。


 紫色の魔物が笑う。


「どうじゃ?」


「すごい……」


「降参するかの?」


「しない」


「ほほう」


「僕は、君の能力が必要なんだ」


「なぜじゃ?」


「仲間が増えるから」


「……」


 魔物の表情が少し変わる。


「今でも、すでに三匹おるではないか」


「うん」


 キラはクロを見る。


「もっと増えると思う」


 ソラを見る。


「もっとたくさん」


 シロを見る。


「だから……みんなが安心して暮らせる場所が欲しい」


「……」


「戦うときだけ出てきてもらって、普段は安全な場所で休んでもらう」


 紫色の魔物は黙っている。


 キラは続けた。


「君の能力があれば、それができるかもしれない」


「……」


「だから、君の力を借りたい」


 魔物が目を細める。


「おぬし……」


「うん?」


「魔物を道具として見ておらぬのか?」


「……」


 キラは首を振った。


「仲間だよ」


 その答えを聞いて。


 紫色の魔物が笑った。


「ほほほ」


 楽しそうに。


「これは面白い」


 空間が元に戻っていく。


 消えていたリナが、キラの隣に現れた。


「キラ!」


「リナ!」


「急に消えたからびっくりした!」


「ごめん」


 紫色の魔物が地面に降りる。


「よかろう」


「え?」


「おぬしの仲間になってやる」


「本当!?」


「うむ」


 魔物は胸を張った。


「ただし――」


「ただし?」


「わらわをぞんざいに扱ったら、すぐ逃げるからの」


「分かった!」


 キラは笑う。


「ありがとう!」


 魔物は少し照れたように顔を背けた。


「礼などよい」


 そして。


「名前はどうする?」


 キラは少し考える。


 紫色。


 空間を操る。


 不思議な魔物。


「……クウ」


「クウ?」


「空間の『空』」


「ほほう」


 魔物は嬉しそうに笑った。


「悪くないのう」


 キラの目の前に文字が浮かぶ。


> 対象:スペースモンキー




> 個体名:クウ




> 対象があなたを受け入れました。




> テイム条件達成。




> 《万象共鳴》を発動します。




「……!」


 光がクウを包む。


 そして――


> 能力を解析します。




> 《空間収納》




> 取得可能。




 キラは拳を握る。


「これなら……!」


 だが、次の瞬間。


> 警告。




> 現在の《空間収納》では、生物の収納は不可能です。




「え……」


 キラが固まる。


「なんじゃ?」


「……魔物は入れられない」


「ほほう」


 クウが笑う。


「まだ未完成ということじゃな」


「未完成……」


 キラは能力一覧を見る。


> 《空間収納》




> 物品を収納できる異空間を作り出す。




> 生物収納:不可




 キラは少し落ち込む。


「せっかく仲間を入れられると思ったのに」


 クウが肩を叩く。


「焦るでない」


「え?」


「おぬしの力は、普通のものではないのであろう?」


「……うん」


「ならば、いつか変わる」


 クウはニヤリと笑った。


「わらわの力だけではなく、おぬしの力でな」


 キラはその言葉を聞いて、顔を上げる。


「……そうだね」


 そして。


> 《万象共鳴》が反応しました。




> 《空間収納》を確認。




> 既存能力との融合候補を検索します。




「……!」


 キラの目の前に、能力が並んだ。


> 《空間収納》




> 《自己再生》




> 《吸収》




> 《魔力感知》




> 《高速身体強化》




 そして――


> 生命体を収納するための能力が不足しています。




「……」


 まだ足りない。


 キラは理解した。


 《魔獣異界》を作るには――


空間を広げる力だけでは足りない。


生命を守る力。


環境を維持する力。


そして――


仲間たちが安心して暮らせる場所を作る力。


「……」


 キラは拳を握った。


「なら、探そう」


 リナが笑う。


「何を?」


「必要な能力を持っている仲間を」


 クウが楽しそうに笑った。


「ほほう。ますます面白くなってきたのう」


 クロが、


「ワフ」


 と鳴く。


 ソラが、


「ぷる!」


 と跳ねる。


 シロも、


「ぴょん!」


 と続く。


 キラは仲間たちを見る。


「みんなが安心して暮らせる場所を作ろう」


 それが、キラの新しい目標になった。


-----


 しかし。


 森のさらに奥。


 誰も近づかない場所。


 巨大な洞窟の中。


「……」


 一匹の巨大な魔物が目を開けた。


 黄金色の瞳。


 漆黒の鱗。


 翼を閉じているだけなのに、その身体は洞窟の壁を覆い尽くすほど大きい。


 ドラゴン。


 それも――


 ただのドラゴンではない。


「……《万象共鳴》」


 低い声が響く。


「久しく聞かぬ名だ」


 ドラゴンはゆっくりと立ち上がった。


 洞窟全体が揺れる。


「まさか……」


 その口元がわずかに笑った。


「まだ生きていたとはな」


 ドラゴンは森の出口を見る。


「少年よ」


 黄金色の瞳が輝く。


「おぬしが何者なのか――」


「少し、見届けてやろう」


 そしてドラゴンは再び目を閉じた。


 だが。


 その胸の奥には、千年以上消えることのなかった記憶があった。


 かつて世界に一人だけ存在した――


《万象共鳴》の使い手。


 その男が残した最後の言葉。


> 「いつか、もう一度この力を持つ者が現れる」




 ドラゴンは静かに呟いた。


「……ようやく、現れたか」



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