36話 白銀竜王
魔獣楽園。
朝の光が森を照らしている。
湖の水面が輝き、木々の間を風が通り抜ける。
その中央にある広場。
そこには――。
黒い炎に包まれた巨大な卵があった。
「……」
キラは卵の前にしゃがみ込んでいた。
表面には、昨日までなかった亀裂が一本。
小さな亀裂だ。
だが、確かに変化している。
「少しずつだけど、動いてるね」
――ドクン。
卵が震えた。
「……!」
キラが笑う。
「聞こえてるのかな?」
「ギィ」
肩に乗ったカグラが卵を見つめる。
その隣ではソラが、
「ぷる……」
と心配そうに鳴いている。
「大丈夫だよ」
キラは卵に手を当てる。
「ちゃんと生まれるまで、みんなで守るから」
必要なものは三つ。
> 《聖なる涙》
《竜王の血》
《魔王の魂》
聖なる涙は、すでに手に入れている。
残る二つ。
「まずは竜王の血だ」
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朝食を終えたキラたちは、魔獣楽園を出発した。
今回の目的は明確だった。
竜王の血を手に入れること。
メンバーはキラ、リナ、ガル、クゥ、グラディウス、ルナ。
そしてソラ、クロ、シロ、リーフィ、カグラ。
「本当に竜王を探すの?」
リナが尋ねる。
「うん」
キラは頷く。
「卵を孵すために必要だから」
「竜王って、そんな簡単に会えるものなの?」
「分からない」
「……だよね」
ガルが苦笑する。
「だが、手掛かりはある」
クゥが言った。
「先日手に入れた竜族の情報によれば、この北の山脈には古代から生き続けている竜の一族がおる」
「そこに竜王が?」
「可能性は高い」
キラは頷いた。
「じゃあ、行こう」
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北へ進むにつれ、景色が変わっていく。
森が消え。
草原が消え。
やがて白銀の雪山が姿を現した。
「寒い……」
リナが身体を震わせる。
キラもマントを強く巻く。
「ルナ、大丈夫?」
「問題ない」
ルナは平然としている。
その横でグラディウスもいつも通り落ち着いている。
「グラディウスは寒くないの?」
「問題ありません」
「さすが……」
キラが笑う。
その時だった。
カグラが突然、翼を広げた。
「ギィ!」
「どうした?」
カグラが空を指す。
――ゴォォォ……。
雪山の上から強烈な風が吹き下ろしてきた。
「来るぞ!」
ガルが叫ぶ。
次の瞬間。
巨大な氷の塊が山の上から落下してきた。
「散れ!」
全員が飛び退く。
――ドォォン!
氷塊が地面を砕く。
「敵だ!」
ガルが構える。
雪の向こうから、巨大な影が現れた。
---
現れたのは――白い狼だった。
普通の狼の何倍も大きい。
身体には銀色の紋様。
口元から白い息が漏れている。
「……竜族ではない?」
キラが魔力感知を使う。
だが、ただの狼ではない。
「来る!」
白狼が突進する。
ガルが迎え撃つ。
「《剛力》!」
――ガキィン!
爪と拳がぶつかる。
「ぐっ!」
ガルの身体が後ろへ飛ばされる。
「ガル!」
「大丈夫だ!」
ガルが着地する。
「かなり強いぞ!」
白狼が再び飛びかかる。
キラが前へ出た。
「《身体強化》!」
――ドン!
白狼の爪を腕で受け止める。
「くっ……!」
重い。
その瞬間。
「ぷるっ!」
ソラがキラの身体へ力を送る。
キラの傷が瞬時に癒えていく。
「ありがとう、ソラ!」
カグラが空へ飛び上がる。
「ギィ!」
風が渦巻く。
白狼の動きが一瞬止まった。
「今!」
キラが踏み込む。
「《神獣共鳴》!」
身体能力が一気に跳ね上がる。
――ドォン!
拳が白狼を吹き飛ばした。
白狼は雪の上を転がる。
しかし、すぐに立ち上がった。
「……強い」
キラが息を整える。
白狼が口を開いた。
「その力……」
「え?」
「竜王様と同じ気配がする」
一同が静まった。
「竜王?」
キラが聞き返す。
白狼はゆっくり頭を下げた。
「我は白銀竜王に仕える者」
「……!」
クゥが目を見開く。
「やはりか」
---
「白銀竜王に会わせてください」
キラが言う。
「何のためだ?」
「お願いしたいことがあるんです」
「内容は?」
キラは少し迷った。
そして正直に話す。
「魔獣楽園にある卵を孵したい」
「卵?」
「はい」
「何の卵だ?」
「分かりません」
白狼が目を細める。
「それでも孵すというのか」
「うん」
キラは頷いた。
「生まれたいと思ってるなら、生まれる場所を作ってあげたい」
白狼は黙ってキラを見た。
「……変わった人間だ」
「よく言われる」
リナが笑う。
「キラだからね」
白狼はしばらく考えた。
「ならば、試す」
「試す?」
「竜王様に会う資格があるかどうかを」
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白狼の身体から、強烈な魔力が噴き出した。
「来るぞ!」
ガルが構える。
「俺も――」
「待って」
キラが前へ出る。
「僕が戦う」
「一人でか?」
「みんなの力を借りる」
キラは笑った。
「それが僕の戦い方だから」
白狼が駆ける。
速い。
キラが《魔力感知》で動きを読む。
右。
左。
上。
「そこ!」
キラがかわす。
カグラが風を操る。
白狼の動きがわずかに鈍る。
「今だ!」
ソラから生命力が流れ込む。
傷が癒える。
そして――。
「《万象共鳴》!」
仲間との繋がりが強まる。
身体能力が上がる。
「《神獣共鳴》!」
キラが一気に踏み込む。
白狼が爪を振る。
――ガキィン!
拳と爪が激突。
キラの足元の雪が吹き飛ぶ。
「まだ!」
キラがさらに力を込める。
「うおおおっ!」
――ドォン!
白狼が後方へ吹き飛ぶ。
だが、白狼は空中で身体を捻り、着地した。
「……見事だ」
白狼が構えを解く。
「合格だ」
「え?」
「竜王様に会うことを許そう」
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白狼に案内され、一行は雪山の奥へ進んだ。
そこには巨大な洞窟があった。
入口だけで、キラの何倍もの高さがある。
「この奥に?」
「ああ」
キラたちが進む。
洞窟の奥。
巨大な氷の祭壇があった。
その上に――。
一匹の巨大な竜が眠っている。
白銀の鱗。
巨大な翼。
そして、額に一本の角。
「……これが」
キラが息を呑む。
「白銀竜王」
クゥが小さく呟く。
竜王の目がゆっくり開く。
――ゴォォォ……。
洞窟全体を揺らすほどの魔力。
リナが思わず後退する。
ガルも構える。
だが、キラは動かなかった。
白銀竜王はキラを見つめる。
そして――。
「……キラ」
名前を呼んだ。
「!」
キラの目が見開かれる。
「どうして……僕の名前を?」
白銀竜王は静かに答えた。
「お前の母、アリアから聞いている」
「母さんを……知ってるの?」
「ああ」
キラの胸が大きく高鳴る。
「母さんは今どこにいる?」
白銀竜王は答えない。
ただ、キラを見つめる。
「その前に、お前に伝えねばならぬことがある」
「何?」
「お前が探している《竜王の血》についてだ」
キラが息を呑む。
白銀竜王は自らの胸元を見る。
「必要ならば、我が血を与えよう」
「本当!?」
「ああ」
だが――。
「ただし、その卵について知っておかねばならぬ」
「卵?」
「お前が魔獣楽園で守っている卵だ」
キラの表情が変わった。
「……どうして、それを?」
白銀竜王の瞳が鋭く光る。
「その卵は――」
竜王が言葉を続けようとした、その瞬間。
魔獣楽園の方向から――。
遠く離れた場所にいるはずのキラにも分かるほどの強烈な魔力が走った。
「……!」
キラが振り返る。
「卵に何かあった!」
白銀竜王が目を細める。
「始まったか……」
「何が!?」
「孵化ではない」
竜王が立ち上がる。
「目覚めだ」
キラの表情が凍る。
魔獣楽園。
中央の卵に――。
新たな亀裂が走った。
そして黒い炎の奥から。
巨大な魔力が、ゆっくりと溢れ始めていた。
第36話 終




