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37話 すでに滅びている



 北方の雪山。


 白銀竜王の住む洞窟には、静かな緊張が漂っていた。


 キラは竜王の前に立っている。


 その手には――。


 一滴の銀色の血から生まれた、小さな結晶があった。


「これが……竜王の血」


「ああ」


 白銀竜王は静かに頷く。


「お前が探していたものだ」


 キラは結晶を大切に握りしめた。


「これで、卵を孵せる」


 その瞬間だった。


 ――ドクン。


 キラの胸の奥で、何かが響いた。


「……?」


 同時に。


 遠く離れた魔獣楽園でも――。


 黒い炎に包まれた巨大な卵が震えていた。



---




 魔獣楽園の中央。


 卵の周囲には、ソラ、クロ、シロ、リーフィ、カグラたちが集まっていた。


「ぷる……」


 ソラが不安そうに卵を見る。


「ギィ……」


 カグラも警戒している。


 卵を包んでいる黒い炎が、いつもとは違う。


 炎の中心に――。


 銀色の光が混ざり始めていた。


 そして。


 ピシッ。


「!」


 卵の表面に亀裂が走る。


 さらに。


 ピシッ……。


 もう一本。


 魔獣たちが一斉に身構える。


 だが、卵から敵意は感じられない。


 むしろ――。


 キラを探している。


「ぷる?」


 ソラが首を傾げる。


 すると卵が、


 ――ドクン。


 と震えた。



---




「今、卵に何か起きた?」


 キラが尋ねる。


 白銀竜王は目を閉じた。


「竜王の血が、お前の手に渡ったからだ」


「僕の手に?」


「お前と卵は、すでに強く繋がっている」


 クゥが口を開く。


「《万象共鳴》か」


「そうだ」


 白銀竜王が答える。


「お前の力は、仲間たちとの繋がりだけではない」


「じゃあ……卵とも?」


「おそらくな」


 キラは驚いた。


「でも、僕は卵をテイムしたわけじゃないよ?」


「必要なのは契約だけではない」


 竜王はキラを見る。


「お前がその卵を守り、生まれることを望んだ」


「……」


「それだけで、繋がりは生まれる」


 キラは静かに卵のことを思い浮かべる。


 魔獣楽園の中央。


 みんなが暮らす場所。


 その中で眠り続ける、不思議な卵。


「そっか……」


 キラは小さく笑った。


「じゃあ、やっぱり仲間なのかもしれない」



---




「卵を孵すためには三つの力が必要じゃ」


 クゥが整理する。


「《聖なる涙》」


「これはもう持ってる」


 キラが答える。


「そして《竜王の血》」


 キラは銀色の結晶を見る。


「これも今、手に入った」


「残るは――」


「《魔王の魂》」


 キラが言った。


 白銀竜王が頷く。


「そうだ」


「魔王の魂はどこにあるの?」


「正確な場所までは分からぬ」


「え?」


「魔王はすでに滅びている」


 竜王の声が低くなる。


「だが、その魂だけは完全には消えなかった」


「どうして?」


「魔王という存在が強大すぎたからだ」


 キラは黙って聞く。


「魂は世界のどこかに残り、長い年月をかけて封じられた」


「じゃあ、その場所を探せば……」


「見つかる可能性はある」


 クゥが考え込む。


「手掛かりが必要じゃな」


 キラは頷いた。


「探そう」


 だが――。


 白銀竜王が言った。


「急ぐ必要はない」


「え?」


「卵はまだ、完全に目覚めてはいない」


「……」


「むしろ今は、お前自身が成長することの方が重要だ」



---




 その言葉を聞いた瞬間。


 キラの目の前にステータスが浮かんだ。


> 名前:キラ

種族:人族

Lv.45




「……」


 キラはじっと見る。


「やっぱり、レベルって本当にあるんだ」


 リナが苦笑する。


「今さら?」


「今までちゃんと確認してなかったんだよ」


 ガルが呆れる。


「お前らしいな」


 キラは自分のステータスを確認する。


 すると、別の表示が現れた。


> 《万象共鳴》

仲間との共鳴状態を確認




> 《ステータス反映》

テイムモンスターの能力・生命力・身体能力の一部を主人へ反映。




「……!」


 キラが目を見開く。


「これ……」


 クゥが横から覗き込む。


「やはりそうじゃったか」


「僕の強さって、みんなの力も入ってるの?」


「そういうことじゃ」


 クゥが頷く。


「ただし、すべてがそのまま加算されるわけではない」


「共鳴した分だけ?」


「ああ」


 キラは仲間たちを見る。


 ソラ。


 ガル。


 カグラ。


 クロ。


 シロ。


 そして、これまで仲間になった魔獣たち。


「……みんながいるから、僕も強くなれるんだ」


 ソラが、


「ぷる!」


 と嬉しそうに鳴いた。



---




「そろそろ戻るぞ」


 ガルが言う。


「魔獣楽園のみんなも待ってる」


「うん!」


 キラは頷いた。


 白銀竜王を見る。


「竜王さん、ありがとう」


「礼は不要だ」


「また来てもいい?」


「構わぬ」


 竜王は静かに答えた。


「その時には、お前がどれほど成長したか見せてもらおう」


「うん!」


 キラたちは雪山を下り始めた。



---




 魔獣楽園。


 キラたちが帰ってくると、ソラたちが一斉に駆け寄ってきた。


「ただいま!」


「ぷる!」


「ガウ!」


「キュウ!」


 キラは笑う。


「みんな、元気だった?」


 そして――。


 中央を見る。


「……!」


 卵が以前とは違っていた。


 黒い炎の中に、銀色の光が混ざっている。


 そして表面には、はっきりと亀裂が入っていた。


「竜王の血が反応したんだ……」


 キラが近づく。


 そっと手を当てる。


 ――ドクン。


「……!」


 卵が答える。


 もう一度。


 ――ドクン。


 キラの《万象共鳴》が反応する。


「この感じ……」


 キラの頭の中に、一瞬だけ声が響いた。


> ……キラ……




「!」


 キラが顔を上げる。


「今、誰か……」


 周囲を見る。


 誰もいない。


 卵だけが静かに燃えている。


「聞こえた?」


 リナが尋ねる。


「……うん」


 キラは卵を見る。


「僕の名前を呼んだ」


 クゥの表情が変わる。


「……卵が?」


「分からない」


 キラは卵に手を当てる。


「でも、もう少しで何かが分かる気がする」



---




 夜。


 キラたちは魔獣楽園で今後について話していた。


「魔王の魂を探す」


 キラが言う。


「でも、すぐに王都へ戻る必要はない」


 クゥが頷く。


「その通りじゃ」


「竜王も、まずは力をつけろって言ってた」


 ガルが腕を組む。


「なら、次は別の場所へ行くか」


「うん」


 キラは地図を広げる。


「魔王の魂について調べられそうな場所を探そう」


 リナが地図を覗き込む。


「この西側に、古代遺跡があるみたい」


「古代遺跡……」


「昔の魔族や魔獣についての記録が残ってるかもしれない」


 キラの目が輝く。


「そこへ行こう!」


「また急だな」


 ガルが笑う。


「でも――」


 キラは魔獣楽園を見る。


「出発する前に、みんなにちゃんと伝えよう」


「何を?」


「僕たちは旅に出る」


 キラは笑う。


「でも、必ずここへ帰ってくるって」


 ソラが、


「ぷる!」


 と鳴いた。



---




 翌朝。


 キラたちは旅の準備をしていた。


 魔獣たちは見送りに集まっている。


「じゃあ、行ってくるね」


「ぷる!」


「留守番、よろしく」


「ガウ!」


 キラは最後に卵を見る。


 黒い炎。


 銀色の光。


 そして、一本の亀裂。


「すぐに戻ってくるから」


 キラは笑った。


「それまで、待ってて」


 ――ドクン。


 卵が小さく震えた。


「……うん」


 キラは頷く。


 こうして。


 キラたちは魔獣楽園を出発した。


 目的地は――。


 西方の古代遺跡。


 魔王の魂へ繋がる手掛かりを求めて。


 そしてその旅は――。


 キラ自身の力を、さらに大きく成長させることになる。


第37話 終

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