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35話 連戦 雪山の主



 北方の雪山。


 吹雪が止まない。


 キラたちは、黒銀竜が倒れた場所に立っていた。


 足元には、黒銀竜から現れた銀色の雫。


 《竜王血脈の残滓》。


「……これが、卵に必要な《竜王の血》への手掛かり」


 キラが小さく呟く。


 クゥは頷いた。


「うむ。じゃが、まだ完成した素材ではない」


「やっぱり……」


「竜王そのものの血、あるいはそれに匹敵するものが必要じゃろう」


 キラは銀色の雫を見つめた。


「じゃあ、もっと探さないと」


 その時――。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


 地面が震えた。


「また……?」


 リナが身構える。


 ガルが前へ出た。


「来るぞ」


 ノアも武器を構える。


 カグラが羽を広げる。


「ギィ……!」


 ソラもキラの横へ移動した。


「ぷる……」


 クゥが険しい顔をする。


「この魔力……先ほどの黒銀竜とは比べ物にならぬ」


「どれくらい?」


「……今のわしらでは、正面から戦うのは危険じゃ」


 キラは山の奥を見る。


「でも……」


 ――ドン。


 巨大な足音。


 雪山の向こうから、何かが近づいてくる。



---




 雪煙の向こうから現れたのは――。


 巨大な獣だった。


 四本の足。


 身体を覆う黒銀色の毛。


 頭には一本の巨大な角。


 その角には、銀色の竜の魔力が流れている。


「……竜じゃない」


 リナが呟く。


 クゥが答える。


「竜ではない」


 そして、魔力を探る。


「じゃが――竜王の力を取り込んでおる」


 キラの《魔力感知》が反応した。


> 種族:???




> 個体名:???




> 危険度:測定不能




> 特殊状態:竜王因子・侵食




「測定不能……」


 キラの顔が引き締まる。


「今までで一番強い?」


「おそらくな」


 ガルが拳を握る。


「なら、俺が時間を稼ぐ」


「ガル!」


「お前たちは、その間に弱点を探せ」


 ガルが前へ出る。


 巨大な獣が唸る。


「グルルル……」


 そして――。


 消えた。


「!」


 次の瞬間。


 ガルの目の前にいた。


「速――」


 ――ドゴォン!!


 ガルの身体が吹き飛ばされる。


「ガル!」


 雪の中を何十メートルも転がる。


「ぐっ……!」


 キラが走ろうとする。


「来るな!」


 ガルが立ち上がる。


 口元から血が流れている。


「俺はまだやれる!」


 獣が再び突進する。


 ガルが拳を構えた。


「――おおおおっ!」


 拳と角が激突する。


 ――ドォォン!!


 衝撃で雪が吹き飛ぶ。


 ガルの足が地面にめり込む。


「ぐ……!」


 力では勝てない。


 それでも――。


「止める!」


 ガルが吠える。


 キラはその姿を見つめた。


「……ガル」



---




「キラ!」


 クゥが叫ぶ。


「正面から戦ってはいかん!」


「分かってる!」


 キラは周囲を見る。


 雪山。


 氷壁。


 巨大な岩。


 そして――。


 獣の角から漏れる竜王の魔力。


「……あれだ」


「何じゃ?」


「竜王の魔力が角に集中してる」


 ノアが頷く。


「俺も見える」


「なら、角を狙う」


 リナが驚く。


「でも、あの角に近づくのは危険だよ!」


「だから、みんなで隙を作る」


 キラがソラを見る。


「ソラ」


「ぷる!」


「カグラ」


「ギィ!」


「ノア」


「ああ」


「リナ」


「任せて」


「クゥは、魔力の流れを見て!」


「心得た!」


 キラが拳を握る。


「みんなで戦おう!」



---




 獣がガルを押し飛ばす。


「ぐあっ!」


 ガルが雪の中へ倒れる。


「今!」


 リナが魔法を放つ。


「《風刃》!」


 ――ザシュッ!


 獣の横腹を切り裂く。


「グルッ!?」


 一瞬、動きが止まる。


「ソラ!」


「ぷるるっ!」


 ソラが地面を跳ねる。


 巨大化。


 そのまま獣の顔へ体当たりする。


 ――ドォン!


「グオッ!」


 獣が後退する。


「カグラ!」


「ギィィィッ!」


 上空から魔力弾。


 ――ドドドドッ!!


 獣の足元が爆発する。


「今だ!」


 ノアが走る。


 獣の懐へ入り――。


「そこだ!」


 角へ向けて斬撃。


 ――ガキィン!!


「硬い!」


 ノアの刃が弾かれる。


「ノア、離れて!」


 キラが叫ぶ。


 獣の角が銀色に輝いた。


「まずい!」


 クゥが杖を振る。


「《魔力障壁》!」


 ――ドォォン!!


 角から放たれた衝撃波が全員を吹き飛ばす。


「きゃあっ!」


 リナが転がる。


「ぐっ……!」


 ノアも片膝をつく。


 ガルは再び立ち上がる。


「まだだ……!」


 キラは歯を食いしばった。


「……強い」


 しかし。


 キラの目には、恐怖ではなく――。


 何かを掴みかけている光があった。



---




 キラはソラとカグラを見る。


「二人とも……力を貸して」


「ぷる!」


「ギィ!」


 二匹の魔力がキラへ流れ込む。


 ――ドクン。


 キラの身体を光が包む。


> 《神獣共鳴》




> 同調率上昇。




> 生命反応・魔力反応を統合。




 キラは驚いた。


「……同調率?」


 これまでとは違う。


 ソラの感覚。


 カグラの視界。


 それぞれの力が、今まで以上にはっきりと感じられる。


「見える……」


 キラが獣を見る。


 黒い魔力。


 その中心に――。


 銀色の核。


「角じゃない!」


 キラが叫ぶ。


「本当の弱点は、角の中にある!」


 クゥが目を見開く。


「なるほど……!」


 角は、竜王の力を集めるための器。


 その中心に、本体がある。


「ガル!」


「ああ!」


 ガルが獣の正面へ走る。


「こっちだ!」


 獣がガルへ向かう。


 その瞬間。


「ソラ!」


 ソラが足元へ。


「ぷるっ!」


 獣の足が滑る。


「カグラ!」


 カグラが角へ魔力を叩き込む。


 ――ドォン!!


 角に亀裂が入る。


「今だ、ノア!」


「分かった!」


 ノアが走る。


 そして――。


 角の亀裂へ刃を突き立てる。


 ――バキィィン!!


 角が砕けた。


「グオオオオオオッ!!」


 獣が絶叫する。


 銀色の魔力が暴走する。


「キラ!」


 クゥが叫ぶ。


「今しかない!」


 キラは手を伸ばす。


「《万象共鳴》!」


 周囲の雪。


 氷。


 大地。


 そして、暴走する銀色の魔力。


 すべてがキラへ集まる。


「返してもらう!」


 キラが力を解放する。


 ――ドォォォォン!!


 銀色の魔力が獣の身体から抜けていく。


「グオオオオオッ!」


 黒い魔力も一緒に消えていく。


 やがて――。


 獣はその場に倒れた。



---




 静寂。


 吹雪が止まる。


「……終わった?」


 リナが立ち上がる。


 キラは獣へ近づく。


 獣は生きていた。


 しかし、竜王の魔力は完全に消えている。


 その代わり――。


 足元に小さな銀色の結晶が落ちていた。


 クゥが拾い上げる。


「これは……」


 キラが尋ねる。


「竜王の血脈が結晶化したものじゃ」


「じゃあ!」


「うむ」


 クゥは頷く。


「先ほどの《竜王血脈の残滓》より、遥かに純度が高い」


 キラの目が輝く。


「これなら卵に使える?」


「まだ分からぬ」


 クゥは慎重に答える。


「じゃが、《竜王の血》に近い素材であることは間違いない」


 キラは結晶を大切にしまう。


「ありがとう」


 倒れている獣を見る。


「君も、ありがとう」


 獣は目を閉じた。


 そして――。


 その身体から黒い魔力が完全に消えた。



---




 その直後。


 キラの持っていた銀色の鱗が光る。


「また……!」


 ――パァッ。


 今度は映像がはっきりと浮かんだ。


 雪山。


 巨大な白銀竜。


 その前に――。


 一人の少年。


 少年は誰かに追われている。


 白銀竜王が少年を庇う。


 そして――。


 少年が振り返った。


 顔は見えない。


 しかし、その声だけが聞こえた。


「――キラ」


「……!」


 キラが息を呑む。


「僕の名前……」


 映像が消える。


 クゥが呟いた。


「やはり……」


「何?」


「白銀竜王は、おぬしのことを知っておる」


 キラは拳を握る。


「どうして……?」


 答えはない。


 ただ、銀色の鱗が示す方向は――。


 さらに北。


「まだ先にいる」


 キラが呟く。


「白銀竜王は……生きてる」


 ノアが頷く。


「ああ」


 ガルも立ち上がる。


「なら、行くしかないな」



---




 その頃。


 魔獣楽園。


 中央の巨大な卵。


 黒い炎が激しく揺れていた。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 そして。


 卵の表面に入っていた亀裂が――。


 少しだけ広がる。


 その奥から。


 ほんの一瞬。


銀色の光が漏れた。


 カグラが振り返る。


「ギィ……」


 卵は再び静かになる。


 だが。


 確実に何かが変わり始めていた。



---


 北方の雪山。


 キラは仲間たちと共に、さらに北を見つめる。


 《竜王の血》に近い素材。


 白銀竜王の痕跡。


 そして、自分の名前を知る謎の少年。


 全てが少しずつ繋がり始めている。


 しかし――。


 その先に待っているのは、竜王だけではない。


 キラたちの知らない場所で。


 古い研究施設の記録が、一枚めくられた。


> 《竜王計画・最終記録》




> 対象――キラ




 そして、その記録を見つめる人物が呟く。


「……ようやく、ここまで来たか」


第35話 終

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