34話 黒銀竜
北方の山。
吹雪が吹き荒れていた。
キラたちの前に立つのは――巨大な魔物。
竜に似た身体。
黒い鱗。
その隙間から、銀色の光が漏れている。
「……竜王の力を喰らった魔物」
クゥが杖を握る。
「間違いない。あの身体に残っている魔力は、白銀竜王のものじゃ」
キラは目の前の魔物を見つめた。
「じゃあ、こいつを倒せば……」
「竜王の血が手に入るとは限らぬ」
「分かってる」
キラは頷く。
「でも、こいつが竜王について何か知ってるなら――」
魔物が咆哮する。
「グオオオオオッ!!」
――ズドォォン!!
巨大な翼が振られた。
吹雪が一気に押し寄せる。
「来るぞ!」
ガルが前へ出る。
「キラ、下がってろ!」
「ううん!」
キラも構える。
「一緒に戦う!」
---
黒銀竜が地面を蹴った。
巨大な身体が一瞬で迫る。
「速い!」
リナが叫ぶ。
鋭い爪が振り下ろされる。
――ガキィン!!
ガルが受け止めた。
「ぐっ……!」
地面が砕ける。
「ガル!」
「まだだ!」
ガルが爪を押し返す。
しかし――。
黒銀竜の尾が横から迫った。
「危ない!」
キラが叫ぶ。
ガルが飛び退く。
――ドゴン!!
尾が雪面を薙ぎ払った。
「一撃でもまともに受けたら危ないな」
ガルが構える。
「キラ!」
「うん!」
キラは手を前へ出した。
「ソラ!」
「ぷるっ!」
ソラが飛び出す。
身体を大きく膨らませ――。
「《神獣共鳴》!」
キラとソラの魔力が繋がる。
さらに――。
「カグラ!」
「ギィ!」
カグラの魔力も加わる。
キラの身体に力が流れ込む。
「行くよ!」
---
ソラが正面から突っ込む。
「ぷるるるっ!」
――ドォン!
黒銀竜の胸へ直撃。
だが。
「グルル……」
黒銀竜はほとんど動かない。
「硬い……!」
その瞬間。
上空からカグラが急降下する。
「ギィィッ!」
魔力をまとった爪が、黒銀竜の背中を切り裂く。
――ザシュッ!
「グオオッ!」
初めて黒銀竜が怯んだ。
「効いた!」
キラが走る。
しかし――。
黒銀竜の口が大きく開く。
「……!」
「キラ、避けろ!」
ノアが叫ぶ。
次の瞬間。
――ゴォォォォッ!!
黒い炎が吐き出された。
「うわっ!」
キラが横へ飛ぶ。
炎が地面を焼く。
雪が一瞬で蒸発する。
「黒炎……」
クゥが呟く。
「これは普通の炎ではない」
「何か分かる?」
「竜王の魔力を取り込んだことで、属性そのものが変質しておる」
クゥが叫ぶ。
「まともに受けるでないぞ!」
---
黒銀竜が再びキラへ向かう。
だが――。
ノアが横から斬り込んだ。
――ザンッ!
「グオッ!」
黒銀竜の首元に傷が入る。
キラが驚く。
「ノア、すごい!」
「まだ浅い」
ノアは武器を構え直す。
「だが、あの魔力には隙がある」
「隙?」
「銀色の部分だ」
ノアが黒銀竜の身体を見る。
「黒い魔力と銀色の魔力が、完全には混ざっていない」
クゥが目を見開く。
「なるほど……!」
「そこを狙えば――」
「倒せるかもしれない」
キラが続ける。
「分かった!」
---
キラは周囲を見る。
雪。
氷。
岩。
そして、黒銀竜から漏れる銀色の魔力。
「……」
キラの中で、何かが繋がる。
「《万象共鳴》」
――ドクン。
周囲の魔力がキラへ集まる。
雪山そのものが反応する。
黒銀竜が一瞬、動きを止めた。
「今じゃ!」
クゥが叫ぶ。
「ガル!」
「任せろ!」
ガルが正面から突っ込む。
「こっちだ、化け物!」
黒銀竜がガルへ向く。
その瞬間。
「ソラ!」
「ぷるっ!」
ソラが背後から攻撃。
「カグラ!」
「ギィ!」
カグラが翼を広げる。
そしてノアも――。
「今だ!」
銀色の魔力が集中している場所へ斬り込む。
――ザンッ!!
「グオオオオオッ!!」
黒銀竜が大きくのけ反る。
「キラ!」
リナが叫ぶ。
「今!」
「うん!」
キラは両手を前へ突き出した。
「《万象共鳴》――!」
雪山の魔力が一つに集まる。
そして――。
「《氷牢》!」
――ゴォォォン!!
黒銀竜の身体を巨大な氷が包み込む。
「グオオオオッ!!」
黒銀竜が暴れる。
氷に亀裂が走る。
「長くは持たない!」
クゥが叫ぶ。
「なら――!」
キラはソラを見る。
カグラを見る。
ガルを見る。
ノアを見る。
「みんなで決める!」
---
ガルが拳を握る。
「行くぞ!」
――ドォン!!
氷を砕きながら黒銀竜の懐へ入る。
一撃。
二撃。
三撃。
「グオオッ!」
黒銀竜がよろめく。
ソラが跳ぶ。
「ぷるるっ!」
――ドン!!
カグラが上空から魔力弾を放つ。
――ドォン!!
ノアが銀色の魔力へ最後の一撃を叩き込む。
「――終わりだ!」
――ザシュッ!!
黒銀竜の身体から、銀色の魔力が一気に噴き出した。
「グオオオオオオオオッ!!」
咆哮が山を揺らす。
そして――。
ドサッ。
黒銀竜が倒れた。
---
キラは慎重に近づく。
「……倒した?」
黒銀竜は動かない。
しかし――。
その身体から黒い魔力が抜け始めていた。
黒い霧が消える。
その下から現れたのは――。
傷ついた銀色の鱗。
「……」
クゥが息を呑む。
「これは……」
「白銀竜王の魔力?」
「いや」
クゥが首を振る。
「こやつが奪っていた魔力が、ようやく解放されたのじゃ」
キラは黒銀竜を見る。
「じゃあ、この魔物自身が竜王を襲ったわけじゃない?」
「おそらくな」
黒銀竜は弱々しく息をしている。
敵意はもうない。
キラはしゃがみ込む。
「……苦しかったんだね」
すると――。
「……キラ」
「!」
声。
確かに聞こえた。
黒銀竜の口から。
「今……僕の名前を?」
ノアも驚く。
「聞こえた」
黒銀竜がゆっくり目を開ける。
その瞳には――。
銀色の光。
「……キラ……」
「どうして僕を知ってるの?」
黒銀竜は答えようとする。
しかし。
――ゴゴゴゴゴ……。
山全体が揺れ始めた。
「何!?」
リナが叫ぶ。
黒銀竜が苦しそうに顔を上げる。
「……逃げろ」
「え?」
「ここに……いる」
「何が?」
黒銀竜は山の奥を見る。
「……竜王を……喰らった者が……」
そこで力尽きる。
「待って!」
キラが呼びかける。
返事はない。
---
その時。
キラの持っていた銀色の鱗が――。
突然、強く輝いた。
「!」
光が黒銀竜の身体へ伸びる。
そして。
黒銀竜の胸元から、小さな銀色の雫が浮かび上がった。
クゥが目を見開く。
「まさか……」
雫は空中で静止する。
キラの前へ。
> 《竜王血脈の残滓》
キラは息を呑む。
「これ……」
「竜王の血そのものではない」
クゥが言う。
「じゃが――」
クゥの表情が変わる。
「卵を孵化させるための、重要な手掛かりになる可能性がある」
キラは雫を見つめる。
そして。
魔獣楽園にある巨大な卵を思い出す。
「持って帰ろう」
雫を慎重に収納する。
その瞬間――。
《万象神域》が反応した。
――ドクン。
遠く離れた魔獣楽園から。
卵の気配が伝わってくる。
まるで――。
「早く」
と呼んでいるように。
キラは空を見上げた。
「待ってて」
そして山の奥を見る。
黒銀竜が最後に言った言葉。
竜王を喰らった者。
「……まだ終わってない」
キラは拳を握った。
「むしろ、ここからだ」
雪山の奥。
誰も知らない場所で――。
一対の巨大な瞳が、ゆっくりと開いた。
その瞳には。
白銀竜王とは異なる――。
漆黒の光が宿っていた。
第34話 終




