33話 黒い竜
王都を出て、三日。
キラたちは北へ向かっていた。
目的は一つ。
白銀竜王の痕跡を探すこと。
そして――。
卵を孵化させるために必要な《竜王の血》を手に入れるためだった。
キラの腰には、王都で見つけた銀色の鱗。
その鱗は、北へ進むほど淡く輝いていた。
「やっぱり、こっちで合ってるみたい」
キラが鱗を見る。
「うむ」
クゥが頷く。
「竜王の魔力が、まだどこかに残っておる」
隣ではリナが寒そうに身体を抱えている。
「北って、こんなに寒いんだ……」
ガルが笑う。
「まだ山に入ってすらいないぞ」
「嘘でしょ……」
ノアは周囲を警戒していた。
「……静かすぎる」
「?」
キラが顔を上げる。
森の中。
雪が積もっている。
しかし――。
動物の気配がほとんどない。
「確かに妙じゃな」
クゥも周囲を見る。
「何かがおる」
その瞬間。
――バキッ!
「!」
頭上の木が折れた。
「伏せろ!」
ガルが叫ぶ。
キラたちが飛び退く。
巨大な何かが雪の中へ落下した。
――ドォン!!
雪煙が舞う。
「な、何!?」
リナが叫ぶ。
雪煙の中から――。
二本の巨大な角。
赤く光る眼。
そして、巨大な牙。
「グオオオオオッ!!」
咆哮が森を揺らした。
「魔物!」
キラが《魔力感知》を発動する。
> 種族:フロストオーガ
危険度:高
属性:氷
状態:興奮
「危険度……高!」
ガルが前に出る。
「キラ、下がれ!」
「でも――」
「ここは俺がやる!」
ガルの身体から魔力が膨れ上がった。
フロストオーガが腕を振り下ろす。
――ドン!!
ガルが受け止める。
「ぐっ……!」
地面が大きく陥没する。
「ガル!」
「問題ない!」
ガルが腕を押し返す。
「今だ!」
キラが叫ぶ。
「ソラ!」
「ぷるっ!」
ソラが巨大化する。
その身体が跳ね上がり、フロストオーガの顔面へ突っ込む。
――ドゴン!
「グオッ!?」
魔物がよろめく。
「カグラ!」
「ギィ!」
カグラが翼を広げる。
空中から魔力弾を放つ。
――ドン! ドン!
フロストオーガの肩に命中する。
「効いてる!」
リナが叫ぶ。
だが――。
「グオオオッ!」
フロストオーガが怒り狂う。
周囲の雪が一気に舞い上がった。
「まずい!」
クゥが叫ぶ。
「氷魔法じゃ!」
――ズガガガガッ!!
地面から巨大な氷柱が次々に突き出す。
「うわっ!」
キラが飛び退く。
リナも避ける。
しかし――。
「キラ!」
ノアがキラの前に飛び出した。
――ガキィン!
氷柱を武器で弾き飛ばす。
「大丈夫か?」
「うん!」
キラが頷く。
「ありがとう!」
「礼は後だ!」
ノアが敵を見る。
「こいつ、まだ本気じゃない」
「分かるの?」
「……なんとなくだ」
ノアの目が鋭くなる。
「身体の奥に、もっと強い魔力がある」
---
フロストオーガが再び突進する。
「来る!」
キラは手を前へ出した。
「ソラ!」
「ぷる!」
「カグラ!」
「ギィ!」
仲間たちの魔力がキラへ集まる。
――ドクン。
キラの身体から光が溢れた。
> 《神獣共鳴》
発動。
ソラとカグラの力が、キラの魔力と繋がる。
「……いける!」
キラが走る。
フロストオーガの拳が迫る。
――ドン!!
キラは横へ飛ぶ。
拳が地面を砕く。
その瞬間。
「ソラ!」
ソラが敵の足元へ潜り込む。
「カグラ!」
カグラが上空から攻撃。
フロストオーガの動きが止まる。
「今!」
キラが手を伸ばす。
「《万象共鳴》――!」
周囲の雪。
氷。
大地。
すべての魔力が一つに繋がる。
――ゴォォォッ!!
雪原そのものが動いた。
フロストオーガの足元が凍りつく。
「グオッ!?」
「動けない!」
キラが叫ぶ。
「ガル!」
「任せろ!」
ガルが一気に距離を詰める。
拳に魔力を集中。
「――砕けろ!」
――ドゴォォン!!
強烈な一撃がフロストオーガの腹部へ直撃した。
「グオオオオッ!!」
巨体が吹き飛ぶ。
雪の中を何十メートルも転がり――。
巨大な木に激突した。
――ドォン。
静寂。
「……倒した?」
リナが恐る恐る近づく。
フロストオーガは気絶していた。
「ふぅ……」
キラが息を吐く。
ソラがキラの頭に乗る。
「ぷる!」
「ソラも頑張ったね」
「ぷるぷる!」
カグラもキラの肩へ戻る。
「ギィ」
「カグラもありがとう」
---
クゥがフロストオーガの近くへ行く。
「少し待つのじゃ」
「どうしたの?」
「こやつの身体から妙な魔力が出ておる」
クゥが地面を見る。
そこには――。
巨大な爪痕があった。
「これは……」
ガルがしゃがむ。
「フロストオーガのものじゃないな」
「うむ」
クゥが頷く。
爪痕は巨大だった。
フロストオーガよりも、遥かに大きい。
「竜……?」
リナが呟く。
キラの持つ銀色の鱗が――。
強く輝いた。
「!」
キラが鱗を取り出す。
光は爪痕の先へ向かって伸びている。
「こっちだ」
---
キラたちは爪痕を追った。
雪山を登る。
巨大な岩を越える。
そして――。
山の中腹。
そこに巨大な壁があった。
いや。
壁ではない。
「……これ」
キラが見上げる。
山肌に刻まれた――。
巨大な竜の爪痕。
一本だけで、人間の身長ほどある。
そして、その中央に。
銀色の魔力が残っていた。
「間違いない」
クゥが呟く。
「白銀竜王の痕跡じゃ」
「本当に……」
キラは手を伸ばす。
爪痕に触れる。
――ドクン。
視界が白く染まった。
「……!」
キラの脳裏に映像が流れる。
巨大な銀色の竜。
雪山を飛ぶ姿。
その背中には――。
一人の少年。
「……!」
少年の顔は見えない。
しかし。
少年の胸元には――。
見覚えのある紋章。
黒い石と同じ紋章。
「少年……」
キラが呟く。
そして。
銀色の竜が振り返る。
まるでキラを見ているかのように。
その瞬間、映像が途切れた。
---
「今の……何?」
リナが心配そうに聞く。
「竜王を見た」
「本当に?」
キラは頷く。
「それと……」
黒い石を取り出す。
石が強く輝いている。
「少年もいた」
ノアが石を見る。
「俺の記憶にも、同じ紋章がある」
「……」
キラは考える。
竜王。
少年。
アリア。
研究施設。
黒い石。
そして――。
自分。
「全部、繋がってる」
クゥが静かに答えた。
「その可能性は高い」
その時。
山の奥から――。
ズゥゥン……
大地が揺れた。
「……!」
全員が振り返る。
もう一度。
――ズゥゥン。
今度は、はっきり聞こえた。
巨大な何かの足音。
キラの銀色の鱗が激しく輝く。
「……竜王?」
クゥが首を振る。
「分からぬ」
ガルが構える。
「だが――」
山の向こう。
雪煙が舞い上がる。
巨大な影が立ち上がった。
「何か来るぞ」
キラは仲間たちを見る。
ソラが身構える。
「ぷる……」
カグラも翼を広げる。
「ギィ……!」
ノアが武器を構える。
リナが魔力を集中する。
キラは拳を握った。
「みんな、気をつけて」
そして――。
山の奥から響く咆哮。
「グオオオオオオオオッ!!」
雪山全体が震えた。
キラたちの前に現れたのは――。
白銀竜王ではなかった。
その姿は竜に似ている。
しかし。
身体には黒い魔力がまとわりついていた。
クゥが目を見開く。
「……これは」
「何?」
「竜王の力を喰らった魔物じゃ」
キラの表情が変わる。
「竜王を……?」
黒い竜のような魔物が咆哮する。
その瞳には――。
わずかに銀色の光が宿っていた。
キラは剣を構える。
「だったら――」
《神獣共鳴》が発動する。
ソラとカグラの魔力が集まる。
「こいつを倒して、竜王のことを聞こう!」
黒い魔物が翼を広げる。
――ドォォォン!!
吹雪が巻き起こった。
キラたちの前に――。
新たな戦いが始まろうとしていた。
第33話 終




