32話 竜王の痕跡
王都の朝。
キラたちは、昨日見つけた古い研究記録を持って、王都の資料保管庫へ向かっていた。
目的は一つ。
竜王の記録を探すこと。
卵を孵化させるために必要なもの。
《聖なる涙》は、すでに手に入れている。
残るのは――。
《竜王の血》。
そして《魔王の魂》。
「竜王の血……」
キラは呟く。
「本当に見つかるかな」
クゥが答える。
「分からぬ」
「……」
「じゃが、探す価値はある」
キラは頷いた。
「うん」
---
資料保管庫は、王都の中心から少し離れた古い建物だった。
何百年も前の記録まで保管されているらしい。
「すごい……」
キラは棚を見上げる。
大量の本。
古い巻物。
魔道具。
石板。
「これ全部調べるの?」
リナが呆れたように言う。
「……全部は無理だね」
ガルが笑う。
「なら、竜王に関係するものだけ探せ」
「そうしよう」
クゥが古い資料を調べ始める。
ノアも別の棚へ向かった。
キラは魔力を感じながら、資料の中を探す。
「……」
すると――。
「これ」
一冊の古い本が、かすかに光った。
「何だ?」
ガルが近づく。
表紙には古代文字。
その中央に――。
竜の紋章
が刻まれていた。
---
竜王の記録
「クゥ、読める?」
「古代文字じゃな」
クゥは本を開く。
「……ふむ」
ページをめくる。
「これは竜王に関する記録じゃ」
「本当?」
「ああ」
キラが身を乗り出す。
「何て書いてある?」
クゥが読み上げる。
「今より数百年前――」
そこには、一体の竜王について記されていた。
《白銀竜王》
極めて強大な力を持つ竜。
人間との争いを好まず。
長い間、北方の山脈に生息していたという。
「白銀竜王……」
キラが呟く。
「その竜王が王都に来た記録がある」
「どうして?」
「それが――」
クゥがページをめくる。
「理由までは書かれておらぬ」
「……」
キラは少し残念そうな顔をする。
しかし――。
「待て」
ノアが声を上げた。
---
ノアは別の資料を持っていた。
「これを見てくれ」
そこには、古い王都の記録が書かれている。
「同じ年代だ」
クゥが確認する。
ノアが一つの文章を指す。
「ここ」
キラが読む。
> 『白銀竜王、王都へ来訪。目的――不明。』
その下には、さらに続きがあった。
> 『竜王は一人の少年と接触した。』
「少年……?」
キラの表情が変わる。
「誰?」
クゥがさらに読む。
> 『少年の名は記録されず。』
「名前がない?」
「そうじゃ」
だが、その次の文章に――。
> 『竜王は少年を守るように王都を去った。』
キラは黙った。
「……守った?」
ガルも資料を見る。
「何か事件があったのか?」
その先のページは――。
破り取られていた。
「……」
キラが眉をひそめる。
「誰かが破った?」
「可能性は高い」
クゥが答える。
---
その時。
キラの懐にある黒い石が――。
熱を持った。
「!」
キラが取り出す。
石が淡く輝く。
そして、竜の紋章に反応するように光が広がった。
「まただ」
リナが驚く。
キラが石を本の上に近づける。
――パァッ。
古代文字が一瞬だけ浮かび上がった。
「何か出た!」
クゥが目を見開く。
浮かび上がった文字。
> 《白銀竜王》
> 血脈情報――封印
> 接触者――記録抹消
「記録抹消……?」
キラが呟く。
「誰かが意図的に消したのか」
ガルが言う。
クゥは険しい顔をした。
「その可能性が高い」
ノアは何も言わない。
ただ、資料を見つめている。
---
突然。
ノアが一枚の紙を取り出した。
「……これ」
「何?」
キラが近づく。
そこには、古い研究者名簿があった。
何人もの名前が並んでいる。
そして――。
その中に。
アリア・クローディア
キラの母の名前。
「……母さん」
キラの声が震える。
「どうしてここに……?」
クゥが名簿を見る。
「研究者として登録されておる」
「母さんは……研究者だったの?」
キラは知らなかった。
母が何をしていたのか。
どこで働いていたのか。
なぜ自分の前からいなくなったのか。
何も。
「でも……」
ノアが名簿の下を見る。
「アリアの名前の横に、別の記号がある」
「記号?」
そこには小さく――。
《竜王計画》
と書かれていた。
---
「……竜王計画」
キラが繰り返す。
「これは何?」
クゥが資料を探す。
しかし――。
関連資料は見つからない。
「この資料だけじゃ分からぬ」
「じゃあ、他に何かないかな」
キラが棚を見る。
すると――。
一番奥。
誰も触れていない古い箱があった。
「……あれ」
キラが近づく。
箱には竜の紋章。
そして、黒い石と同じ紋様。
「これ……」
キラが手を伸ばす。
――カチッ。
箱が勝手に開いた。
「!」
中には、一枚の古い紙と――。
小さな銀色の鱗が入っていた。
---
キラが鱗に触れる。
――ドクン。
強烈な魔力が流れ込んできた。
「っ!」
キラは思わず手を離す。
「キラ!」
リナが駆け寄る。
「大丈夫?」
「うん……」
キラは鱗を見る。
銀色の鱗。
だが、普通の竜のものとは明らかに違う。
クゥが慎重に近づく。
「これは……」
「竜王の?」
「ああ」
クゥが頷く。
「おそらく、白銀竜王の鱗じゃ」
キラは鱗を見つめる。
「じゃあ、これがあれば……」
クゥは首を振る。
「血そのものではない」
「……そっか」
「じゃが――」
クゥは鱗を調べる。
「この鱗には、竜王の血脈を辿るための魔力が残っておる可能性がある」
キラの目が輝く。
「じゃあ、竜王を探せる?」
「まだ分からぬ」
クゥは慎重に答える。
「じゃが、手掛かりにはなる」
---
その時。
箱の底に、もう一つ紙があることに気づいた。
キラが取り出す。
古い紙。
そこには短い文章だけが書かれていた。
> 『竜王は死んでいない。』
「……!」
キラが息を呑む。
その下には――。
> 『だが、探してはならない。』
「どういうこと?」
リナが眉をひそめる。
さらに最後の一文。
> 『竜王が守ったものを、王都の者たちは今も探している。』
キラは黙った。
「竜王が守ったもの……」
あの少年。
竜王。
アリア。
そして研究施設。
何かが繋がっている。
---
その頃、魔獣楽園では
中央の巨大な卵。
黒い炎が揺れている。
――ドクン。
亀裂が、また少し広がった。
カグラが卵の前に座っている。
「ギィ……」
警戒するように鳴く。
卵の中から――。
微かな気配。
カグラは翼を広げた。
しかし、攻撃するわけではない。
ただ、じっと卵を見張っている。
その時。
卵の表面に、一瞬だけ銀色の光が走った。
そして消える。
---
王都。
キラたちは資料を整理していた。
「白銀竜王」
「竜王計画」
「アリア」
「そして、謎の少年……」
キラは手掛かりを並べる。
「全部調べよう」
ノアが頷く。
「ああ」
ガルも立ち上がる。
「次はどこへ行く?」
キラは銀色の鱗を見る。
その瞬間。
鱗から、ごく微かな魔力が流れた。
向いている方向は――。
北。
キラは目を見開く。
「……北に何かある」
クゥが頷く。
「竜王の痕跡かもしれぬ」
キラは決意する。
「行こう」
こうして――。
キラたちは、白銀竜王の痕跡を追い、北方へ向かうことになった。
しかし、その旅の先に待っているものが――。
竜王の血だけではないことを、まだ誰も知らなかった。
第32話 終




