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31話 竜王の血の手掛かり



 翌朝。


 王都の宿。


 キラは机の上に置かれた黒い石を見つめていた。


 昨夜、謎の人物から渡されたもの。


 そして――。


 《万象神域》が反応した石。


「……」


 キラが指先で触れる。


 何も起こらない。


「やっぱり、普通の石じゃないよね」


 向かいに座っていたクゥが頷く。


「うむ」


「何か分かる?」


「まだ何とも言えぬ」


 クゥは黒い石を観察する。


「魔力を封じているようにも見えるが……それだけではない」


「じゃあ、どうすれば?」


「昨日の老人が言っておったじゃろう」


 クゥがキラを見る。


「『いずれ必要になる』とな」


「……」


 キラは石を握った。


「なら、まずは調べよう」



---




 キラたちは王都の資料館へ向かった。


 目的は一つ。


 王城地下の研究施設に関する古い記録。


 だが――。


「申し訳ありません」


 資料館の職員が首を振る。


「王城関連の研究記録は一般公開されていません」


「やっぱり……」


 キラが肩を落とす。


 するとリナが小声で言った。


「昨日のギルドの資料なら?」


「生命魔力研究計画?」


「そう。それと関係する資料が他にないか探してみよう」


「なるほど」


 キラは頷いた。



---




 しばらく調べていると、クゥが一冊の古い本を見つけた。


「これじゃ」


「何?」


「かなり古い研究記録の写しじゃ」


 表紙には、かすれた文字でこう書かれていた。


『生命魔力研究――第二次記録』


 キラの表情が変わる。


「開いてみよう」


 クゥがページをめくる。


 そこには様々な魔物の研究記録が書かれていた。


 生命力。


 魔力。


 魂。


 種族間の融合。


 そして――。


「……融合?」


 キラがページを見る。


「魔物同士を融合させる研究もしてたの?」


「そのようじゃな」


 ガルが眉をひそめる。


「ろくでもない研究だ」


 ノアは黙ってページを見つめていた。


 何かを思い出そうとしているようだった。



---



「……ここだ」


 ノアが突然、ページを指差した。


「何?」


「この記号」


 そこには、見覚えのある紋章が描かれていた。


 ノアの表情が険しくなる。


「施設の壁にあった」


「覚えてるの?」


「少しだけ」


 ノアは目を閉じる。


 ――白い部屋。


 ――無数の魔法陣。


 ――研究員たち。


 そして。


 一人の女性。


「……アリア」


 ノアが呟く。


 キラが息を呑む。


「また母さん?」


「ああ」


 ノアは額を押さえる。


「彼女は研究員たちと話していた」


「何を?」


「……分からない」


 記憶が途切れる。


 しかし、一つだけ。


 言葉が残っていた。


「『この力は、器を必要とする』……」


「器?」


 キラが聞き返す。


 ノアは首を振った。


「それ以上は思い出せない」



---




 その瞬間。


 キラの懐に入れていた黒い石が――。


 淡く光った。


「!」


 キラが取り出す。


 石の表面に、昨日とは違う紋様が浮かんでいる。


「何だこれ……」


 クゥが石を見る。


「研究記録に反応したのか?」


 石の紋様と、古い資料に描かれた紋章が重なる。


「同じ……」


 リナが呟く。


「この石、研究施設と関係あるんじゃない?」


 キラは頷いた。


「うん」


 その時――。


 黒い石から、一瞬だけ声が聞こえた。


> 「……器を探せ」




「!」


 キラが立ち上がる。


「今、何か聞こえた?」


 ガルが周囲を見る。


「俺には聞こえなかった」


 ノアも首を振る。


 クゥだけが、険しい表情をしていた。


「わらわにも聞こえた」


「何て言ってた?」


「……」


 クゥが答える。


「『器を探せ』と」



---




 その言葉を聞いた瞬間。


 キラの頭に、魔獣楽園の光景が浮かんだ。


 中央にある――。


黒い炎に包まれた巨大な卵。


「……」


 キラの顔から笑みが消える。


「まさか……」


 クゥがキラを見る。


「どうした?」


「卵」


「卵?」


「魔獣楽園にある卵が……」


 キラは黒い石を握る。


「この研究と関係してるのかもしれない」


 ノアが顔を上げる。


「例の卵か」


「うん」


 卵を孵化させるために必要なもの。


《聖なる涙》


《竜王の血》


《魔王の魂》


 聖なる涙は、すでに手に入れている。


 だが――。


「竜王の血と魔王の魂……」


 キラは呟く。


 まだ手に入れていない。


 そして、卵そのものの正体も分からない。



---


 クゥがさらにページをめくった。


「……待つのじゃ」


「何?」


「ここに、竜種についての記録がある」


 キラが覗き込む。


 そこには古代の竜について書かれていた。


竜王種


 極めて強大な生命力。


 通常の魔物とは異なる魂構造。


 そして――。


『竜王の血には、生命を変質させる力がある』


「……」


 キラは黙って読む。


「これなら、卵が竜王の血を必要としている理由も……」


 クゥが首を振る。


「まだ分からぬ」


「そっか」


「じゃが、少なくとも一つ分かった」


「何?」


 クゥは記録を指した。


「竜王は、かつてこの王都周辺で研究対象になっていた可能性がある」


「……!」


 ガルが眉をひそめる。


「つまり――」


「竜王の血を探すなら、まずこの研究施設の過去を調べる必要がある」


 キラは頷いた。


「分かった」



---




 その夜。


 王都の地下深く。


 誰も使っていない古い施設。


 一人の男が、暗闇の中で資料を読んでいた。


「……黒い石が動いたか」


 机の上には、キラたちが見つけたものと同じ紋章。


 男は資料を閉じる。


「予定より早いな」


 そして、別の紙を見る。


 そこには三つの項目が書かれていた。


聖なる涙


竜王の血


魔王の魂


 聖なる涙の項目には――。


 すでに小さく印がついていた。


「一つ目は、もう動いている」


 男が呟く。


「ならば、次は……」


 視線が竜王の項目へ移る。


「竜王か」



---




 同じ頃。


 魔獣楽園。


 中央にある巨大な卵。


 黒い炎が静かに揺れている。


 表面の亀裂が――。


 昨日より、ほんの少しだけ広がった。


 ――ドクン。


 卵が震える。


 そして。


 黒い炎の奥で、一瞬だけ――。


金色の瞳


が開いた。


 すぐに閉じる。


 再び静寂。


 だが、確かに。


 卵の中の何かは――。


目覚め始めていた。



---


翌朝


「行こう」


 キラは王都の門の前に立っていた。


「どこへ?」


 リナが聞く。


 キラは答える。


「まず、竜王について調べる」


「竜王の血?」


「うん」


 キラは黒い石を見る。


「それだけじゃない」


 王城地下の研究。


 アリア。


 ノアの記憶。


 そして、卵。


 すべてが少しずつ繋がり始めている。


「僕たちが知らなかった過去を――」


 キラは王都の奥を見る。


「一つずつ調べよう」


 ガルが頷く。


「分かった」


 クゥも杖を持つ。


「では、次の手掛かりを探すとしよう」


 ノアは無言で王都を見る。


 そして――。


「……俺も思い出したい」


 キラが振り返る。


「うん」


「自分が何者なのか」


 ノアは拳を握った。


「全部、知りたい」


 キラは頷いた。


「一緒に探そう」


 こうしてキラたちは――。


 竜王の血へ繋がる最初の手掛かりを求め、王都のさらに深い場所へ向かうことになった。


第31話 終

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