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29話 魔獣楽園の変化





 魔獣楽園に朝が来た。


 森から鳥の鳴き声が聞こえる。


 湖には朝日が反射している。


 そして――。


「キラ!」


 ガルの声が響いた。


「起きろ!」


「……ん?」


 キラは目を覚ます。


「朝……?」


「そうだ」


 キラが外へ出る。


「……!」


 昨日まで何もなかった場所に――。


 小さな畑ができていた。


「これ……?」


 リナが笑う。


「魔獣たちが作ったみたい」


「え?」


 畑には小さな芽が並んでいる。


 クゥが近づく。


「昨日の《生命領域》の変化じゃな」


「生命領域?」


「この土地は、住む者の行動にも反応するようになっておる」


 キラは驚く。


「じゃあ、魔獣たちが畑を作ろうと思ったから……?」


「それだけではない」


 クゥは土を見る。


「この土地そのものが、生命を育てるのに適した状態へ変化しておる」


「すごい……」



---




 魔獣たちは、それぞれ好きなことを始めていた。


 土を掘る魔獣。


 水を運ぶ魔獣。


 木の実を集める魔獣。


 森から薬草を持ってくる魔獣。


「誰も命令してないのに……」


 キラが呟く。


 ガルが腕を組む。


「自分たちで役割を見つけているんだろう」


「うん」


 キラは嬉しそうに笑った。


「これなら、ちゃんと暮らせそうだね」



---




 昼。


 集められた果実や木の実が並べられた。


「いただきます!」


 キラが食べる。


「……おいしい」


 リナも頷く。


「森の果物だけでも、結構食べられるね」


 ノアは黙って料理を見ていた。


「ノアも食べてみて」


「俺も?」


「仲間なんだから当然でしょ」


 ノアは少し驚いた顔をしてから、料理を口にする。


「……」


「どう?」


「……悪くない」


 キラが笑う。


「よかった」


 ノアはもう一口食べた。



---




 夕方。


 魔獣楽園の一角には、小さな集落ができていた。


 木の家。


 魔獣たちの住処。


 畑。


 水場。


 簡単な道。


 そして村の中央には――。


 大きな広場。


「これでいいかな」


 キラが辺りを見る。


「十分じゃろう」


 クゥが答える。


「まだ小さいけど」


「小さいからこそよい」


 クゥは笑う。


「必要になれば、自然と大きくなっていく」


 キラは頷いた。


「うん」



---




 キラは村の中央に立った。


「みんな!」


 魔獣たちが集まる。


「新しい仲間が増えたから新しくここで暮らすためのルールを決めよう」


 ガルが腕を組む。


「前に決めたものか?」


「それに少し追加する」


 キラは指を立てた。


「一つ!」


「仲間を傷つけない!」


 魔獣たちが鳴く。


「二つ!」


「強い子は、弱い子を守る!」


 ガルが頷く。


「三つ!」


「みんな自由に暮らす!」


 魔獣たちが喜ぶ。


「そして四つ目!」


 キラは笑った。


「困ったことがあったら、一人で悩まない!」


 ノアがキラを見る。


「……」


「誰かに相談する」


 キラは続ける。


「ここは一人で頑張る場所じゃない」


「みんなで暮らす場所だから」


 ガルが頷いた。


「いいルールだ」



---




 その夜。


 クゥは一人で森の奥へ向かっていた。


 白い古木。


 その光は、以前よりも強くなっている。


「……」


 クゥが幹に手を触れる。


 すると――。


 白い光が一瞬だけ強くなる。


「……やはり」


 クゥが呟く。


「この木は、魔獣楽園の変化に反応しておる」


 しかし、それ以上のことは分からない。


「まだ時期ではない、ということか」


 クゥは木から手を離した。


「ならば、今は見守るとしよう」



---




 夜。


 キラは一人、村の外に立っていた。


 小さな家。


 畑。


 魔獣たちの住処。


 湖。


 森。


 全部を見渡す。


「……できた」


 キラは笑った。


「みんなの家」


 ソラが隣に来る。


「ぷる」


「うん」


 キラはソラを抱き上げる。


「これなら、安心して外へ行ける」


 その言葉に、ソラが首を傾げる。


「僕には、やらなきゃいけないことがあるから」


 キラは空を見る。


 王都。


 研究施設。


 アリア。


 そして――。


 自分を知っている謎の人物。


「そろそろ……」


 キラの表情が変わる。


「向き合わないと」



---




「キラ」


 ノアが声をかける。


「ん?」


「俺はここに残ろうか?」


「……」


 キラは首を振る。


「一緒に来て」


「いいのか?」


「もちろん」


 ノアが頷く。


「分かった」


 ガルも近づいてくる。


「俺も行く」


「ガルも?」


「ああ」


 キラは笑う。


「じゃあ、決まりだね」


 クゥも杖を持つ。


「わらわも行こう」


 リナも頷く。


「私も」


 キラは魔獣楽園を振り返った。


「みんな」


 魔獣たちが集まってくる。


「しばらく留守にするけど――」


 キラは笑った。


「ここで待ってて」


「帰ってきたら――」


 キラが少し照れながら言う。


「おかえりって言ってね」


 魔獣たちが一斉に鳴いた。


「ぷる!」


「ガウ!」


「キュウ!」


 その声を聞きながら、キラは笑った。


「じゃあ、行こう」



---




 魔獣楽園の門が開く。


 キラ。


 ソラ。


 ガル。


 グラディウス。


 クゥ。


 ノア。


 カグラ。


 リナ。


 仲間たちが順番に門を抜けていく。


 最後にキラが振り返る。


 そこには――。


 自分たちが作った小さな村があった。


「……また帰ってくるから」


 キラはそう言って、門をくぐった。


 ――シュン。


 門が閉じる。


 魔獣楽園に静けさが戻る。


 だが、そこにはもう以前のような「ただの異空間」は存在しない。


 森は育つ。


 川は流れる。


 魔獣たちは暮らす。


 そして、小さな村がある。


 ここはもう――。


キラたちが帰る場所だった。



---


 同じ頃。


 王都。


 古びた建物の一室。


 一人の男が窓の外を見ていた。


「……動いたか」


 机の上には、一枚の資料。


 そこには――。


キラ


という名前が記されていた。


 男は資料を閉じる。


「そろそろ、会う時期かもしれんな」


 その顔は、まだ見えない。


 だが――。


 キラたちが王都へ戻ったことを、すでに知っていた。


第29話 終

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