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28話 魔獣楽園に村を



 翌朝。


 魔獣楽園に朝日が昇る。


 森の木々から差し込む光。


 湖の水面を渡る風。


 草原を走り回る魔獣たち。


 昨日までと変わらない景色。


 けれど――。


 キラには、少し違って見えた。


「……本当に生きてるんだな」


 昨日、《生命領域》に起きた変化。


 魔獣楽園そのものが、少しずつ自ら成長するようになった。


 キラが作り続けなくても、森は育つ。


 生命が循環する。


 魔獣たちが暮らすことで、この場所も豊かになっていく。


「ぷる!」


 ソラがキラの足元で跳ねる。


「おはよう、ソラ」


「ぷるぷる!」


「今日は大事な仕事があるよ」


 キラが森の向こうを見る。


「家を作ろう」



---




 キラたちは、森と草原の境目に集まっていた。


 ここは昨日、村を作る場所として決めた場所だ。


「さて……」


 キラは腕を組む。


「まず何から始めればいいかな?」


「木材じゃろう」


 クゥが即答する。


「それから家を建てるための土地を整える必要がある」


「なるほど」


 キラが頷く。


「じゃあ、木を切ろう!」


 ガルが立ち上がる。


「俺がやる」


「お願い!」


 ガルが森へ向かう。


 しかし、クゥが呼び止めた。


「待つのじゃ」


「何だ?」


「必要以上に木を切ってはいかん」


 クゥは森を指す。


「ここはすでに生命の循環ができ始めておる」


「……そうだったな」


「森を壊して村を作るのではない」


 クゥは静かに言った。


「森と共存するのじゃ」


 キラが頷く。


「うん」


 キラは森を見る。


「必要な分だけ使おう」



---




 ガルは森の中へ入った。


 しばらくすると――。


 ドンッ。


 大きな音が響く。


 だが、木が根元から倒れたわけではない。


 枯れた枝や古くなった部分だけが落ちている。


「……これなら使える」


 ガルが枝を拾う。


 すると、近くにいた魔獣たちが枝を運び始めた。


「お前たちも手伝うのか?」


 魔獣が、


「ガウ!」


 と鳴く。


 ガルは少し笑った。


「そうか」


 次々と木材が集められていく。


 キラはその光景を見ていた。


「みんなでやると早いね」


「そうじゃな」


 クゥが頷く。


「これも魔獣楽園の変化の一つじゃろう」



---




「ぷる!」


 ソラが木材の前に立つ。


「ソラもやるの?」


「ぷる!」


 ソラが身体を大きく膨らませる。


 すると――。


 木材がふわりと浮かんだ。


「えっ?」


 キラが目を丸くする。


 木材がソラの周囲をぐるぐる回る。


「ソラ、すごい!」


「ぷるぷる!」


 得意げに跳ねる。


 だが――。


 ふわっ。


 木材が全部落ちた。


「……」


「……」


 ソラが固まる。


 キラが笑った。


「惜しかったね」


「ぷる……」


 ソラがしょんぼりする。


 ガルが木材を拾い上げる。


「十分役に立ってる」


「ぷる!」


 ソラが元気を取り戻した。



---



 昼を過ぎる頃。


 集めた木材を使って、最初の家を作り始めた。


 大きな家ではない。


 木材を組み、壁を作る。


 屋根を取り付ける。


 床を整える。


 キラも一生懸命作業を手伝う。


「ここを持って!」


「分かった」


 ノアが木材を支える。


「もう少し右だ」


「こう?」


「そうだ」


 ガルが屋根を支える。


「重いな」


「僕も持つ!」


「無理するな」


「大丈夫!」


 キラが力を込める。


 その横でクゥが家の構造を確認していた。


「柱はしっかりしておる」


「ほんと?」


「ああ」


 クゥが頷く。


「最初の家としては十分じゃ」


 夕方。


 ようやく――。


 一軒の小さな木の家が完成した。


「……できた」


 キラが家を見上げる。


「本当にできた……!」


 リナが笑う。


「ちゃんと家になってる」


 キラは嬉しそうに中へ入る。


「うわ……」


 小さな部屋。


 木の床。


 窓。


 簡単な寝床。


 まだ家具はほとんどない。


 それでも――。


「いいな」


 キラが笑う。


「ここなら眠れる」



---




「じゃあ、この家は誰が使う?」


 キラが振り返る。


 ガルが答える。


「お前が使えばいい」


「僕?」


「ああ」


「でも、みんなで作ったのに?」


 ガルは首を振る。


「最初の家だ。お前が使うのがいい」


 ノアも頷く。


「ここを中心に、これから家を増やしていけばいい」


「……」


 キラは少し考えた。


「じゃあ……」


 キラは家の入口を見る。


「僕だけの家じゃなくて、みんなが休める場所にしよう」


 クゥが笑った。


「おぬしらしいのう」


「うん!」


 ソラが家の中へ飛び込む。


「ぷる!」


「ソラ!」


 ソラは床の上を跳ね回る。


「そこ、寝る場所だよ!」


「ぷるぷる!」


 キラは笑った。



---




 最初の家ができると、魔獣たちも動き始めた。


 小さな魔獣たちは木陰に巣を作る。


 大きな魔獣は森の近くに広い場所を選ぶ。


 鳥たちは木の上に集まる。


 水を好む魔獣たちは湖の近くへ。


 誰かが命令したわけではない。


 それぞれが、自分に合った場所を選んでいる。


「……面白い」


 キラが呟く。


「みんな、自分で住む場所を決めてる」


 クゥが頷く。


「それが本来の暮らしというものじゃ」


 キラは周囲を見る。


 一軒。


 二軒。


 小さな住処。


 魔獣たちの巣。


 まだ村と呼ぶには小さい。


 でも――。


 確実に形になり始めていた。



---




 夕方。


 ノアが村の外側を歩いていた。


「どうした?」


 キラが追いつく。


「村の周囲を見ている」


「何かあった?」


「今のところはない」


 ノアは周囲を見渡す。


「だが、ここを守るなら入口は決めた方がいい」


「入口?」


「ああ」


 ノアが村の外を指す。


「魔獣楽園は安全だが、何者かが入ってくる可能性はある」


 キラの表情が少し真剣になる。


 王城。


 研究施設。


 そして、キラを知っている謎の人物。


「……そうだね」


 ノアは続けた。


「柵を作るだけでも違う」


「分かった」


 キラは頷いた。


「みんなを閉じ込めるためじゃなくて、守るための柵にしよう」


「それならいい」



---




 その頃。


 森の奥では――。


 白い古木が静かに光っていた。


 昨日よりも、その光は強い。


 根元から伸びた細い根が、大地の中へ広がっている。


 森へ。


 川へ。


 湖へ。


 そして――。


 村の方向へ。


 白い光が流れていく。


 その光を、クゥだけが遠くから感じ取っていた。


「……」


 クゥは森の奥を見る。


「やはり、村を作ることにも反応しておる」


 生命領域が変化しただけではない。


 魔獣たちが「暮らす」という行為そのものが、この世界に影響を与えている。


「……何が目覚めようとしておるのじゃ」


 クゥは白い古木を見つめた。


 だが、まだ答えは出ない。



---




 夜になった。


 小さな家の前に、キラたちが集まっている。


 魔獣たちも近くで眠っている。


 焚き火が静かに揺れる。


「今日は疲れた……」


 キラが地面に座る。


 ガルが笑う。


「だが、一日でここまでできた」


 リナも周囲を見る。


「明日には、もっと家が増えるかもね」


「うん」


 キラは村を見る。


 まだ小さい。


 道もほとんどない。


 畑もない。


 店もない。


 それでも――。


「ここが、みんなの帰る場所になっていくんだ」


 ノアが静かに答える。


「ああ」


 キラは空を見る。


「魔獣楽園……」


 その名前を、改めて口にする。


「いい名前だね」


 ソラがキラの隣で、


「ぷる」


 と鳴いた。


「うん」


 キラは笑う。


「明日も頑張ろう」


 森の奥。


 白い古木が、静かに輝いていた。


 そして魔獣楽園では――。


 初めての家を中心に、


「暮らし」


が少しずつ始まっていた。


 まだ村と呼ぶには小さい。


 けれど、それは確かな第一歩だった。


第28話 終


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