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23話 国王との再会



 翌朝。


 王都は朝から多くの人で賑わっていた。


 しかし、キラのいる宿の一室だけは、妙に静かだった。


「……今日なんだよね」


 キラはテーブルの上に置かれた一通の手紙を見つめていた。


 昨夜、王城から届けられたもの。


 王家の紋章が刻まれた封蝋。


 そして、そこに書かれていた言葉。


> 『赤髪の少年キラよ。

本日、王城へ来い。

そなたに話さねばならぬことがある。』




 キラは手紙を握りしめる。


 自分を追放した国王。


 その本人からの呼び出し。


「……行こう」


 キラが立ち上がる。


「本当に大丈夫?」


 リナが心配そうに尋ねた。


「分からない」


 キラは正直に答えた。


「でも、行かないと何も分からないから」


 ガルが隣に立つ。


「俺も行く」


「もちろん私も」


 リナが続く。


「私もです」


 ルナも頷いた。


 セレネはキラの足元へ寄り添う。


「セレネも一緒だね」


「キュウ」


 小さく鳴いた。


 キラは笑った。


「よし」


 こうして一行は、王城へ向かった。



---




 王都の中心へ近づくにつれ、建物はどんどん豪華になっていく。


 大通りには貴族の馬車が行き交い、騎士たちも多く見られた。


 キラは周囲を眺めながら歩く。


「すごい……」


「昨日も見てたでしょ」


 リナが笑う。


「でも、王城の近くは全然違う」


 キラの目に映るのは、巨大な噴水。


 美しく整えられた街路樹。


 高級店。


 そして、遠くに見える巨大な王城。


 その姿を見つめながら、キラは小さく呟いた。


「……あそこにいるんだ」


「国王が?」


「うん」


 キラは拳を握った。


「僕を追放することを認めた人が」



---




 やがて王城の門へ到着する。


 門番がキラたちを見る。


「国王陛下から招待を受けた者か?」


「はい」


 キラが手紙を差し出す。


 門番は確認する。


「……キラ」


 名前を見た瞬間。


 ほんの一瞬だけ、門番の表情が変わった。


「?」


 キラは気づいた。


 しかし門番は何も言わない。


「入れ」


 巨大な門が開く。


 ギィィィ……。


 キラは王城へ足を踏み入れた。



---




 王城の内部は、キラが想像していた以上だった。


 白い大理石。


 巨大な柱。


 壁に飾られた歴代国王の肖像画。


 床には赤い絨毯。


 そして、廊下のいたるところに騎士が立っている。


「……」


 キラは無意識にリナの服を掴んだ。


「怖い?」


「ちょっとだけ」


「大丈夫」


 リナが笑う。


「私たちがいるから」


「……うん」


 キラは少しだけ安心した。


 その時。


 キラの肩に乗っていたカグラが、


「ギィ……」


 と小さく鳴いた。


「カグラ?」


 カグラは王城の奥を睨んでいる。


「何かいるの?」


「ギィ……」


 分からない。


 だが、警戒していることだけは分かった。


 ガルも鼻を動かす。


「……妙な匂いがする」


「何の?」


「魔物の匂いに近い」


 キラは足を止めた。


「王城に魔物がいるの?」


「分からん」


 ガルは低い声で答える。


「だが、普通ではない」


 キラは王城の奥を見つめた。



---




「こちらです」


 案内役の騎士が大きな扉の前で止まった。


「この先が謁見の間になります」


 キラは扉を見る。


 心臓が速くなる。


「……」


 手が震える。


 リナが気づいた。


「キラ」


「うん」


「無理なら――」


「大丈夫」


 キラは首を振った。


「行く」


 そして一歩前へ出る。


「僕自身のことだから」


 扉が開いた。


 ギィィィ……。



---




 広大な謁見の間。


 左右には騎士たち。


 その中央に長い赤い絨毯。


 そして最奥。


 豪華な玉座に、一人の男が座っていた。


 国王。


「……」


 キラの足が止まる。


 記憶の中にある姿より、少しだけ歳を取っている。


 だが、間違いない。


 キラは幼い頃に一度だけ、この男を見たことがあった。


 その時は、父親の後ろに隠れていた。


 まだ小さな子供だった。


 何を話していたのかまでは覚えていない。


 ただ――。


 国王が自分を見た時の、あの妙な表情だけは覚えている。


 恐怖。


 驚き。


 そして困惑。


「……」


 国王もキラを見つめていた。


「本当に……キラなのか」


「はい」


 キラは答えた。


「キラ・グランディスです」


 その名前を聞いた瞬間。


 謁見の間の空気が変わった。


「グランディス……」


 騎士たちが小声でざわつく。


 キラはそれを聞きながら、前へ進んだ。



---




 キラは国王の前で立ち止まった。


「国王陛下」


「……」


「僕を呼んだ理由を教えてください」


 国王はすぐには答えなかった。


「……お前は」


「はい」


「変わったな」


 キラは少しだけ首を傾げた。


「そうですか?」


「ああ」


 国王はキラの赤い髪を見る。


「十歳とは思えぬ目をしている」


 キラは黙った。


 十歳。


 まだ子供だ。


 それでも。


 追放されてから経験したことは多かった。


 森での生活。


 魔物との出会い。


 初めてできた仲間。


 そして――。


 何度も命の危険に遭った。


 キラは国王を見返す。


「僕は、昔より強くなりました」


「……そうだな」



---




「聞きたいことがあります」


「何だ」


「僕が追放された理由です」


 国王の表情が曇った。


「……」


「僕が魔法を使えなかったからですか?」


「違う」


「じゃあ、何ですか?」


 国王は答えない。


「僕はずっと『無能』だと言われました」


 キラの声は静かだった。


「魔法も使えない。


 剣も弱い。


 何もできない。


 だから必要ないって」


 国王は目を伏せる。


「でも……」


 キラは自分の胸に手を当てる。


「僕には《神獣共鳴》っていうスキルがありました」


「……」


「それを知っていたんですよね?」


 国王の顔が変わった。


「誰から聞いた?」


「僕自身が知ったんです」


 キラは答える。


「スライムをテイムした時に」


 国王が息を呑む。


「……スライムを?」


「はい」


 キラが頷く。


「そして、僕はテイムした魔物の力を自分の力として使える」


 国王の側近がざわついた。


「そんなスキルが……?」


「世界に一人だけ……」


「ありえない……」


 キラは周囲を見る。


 そして国王へ視線を戻す。


「だから僕を追放したんですか?」


「……違う」


「じゃあ何で?」


 国王はしばらく沈黙した。


 やがて。


「お前の力は……」


 重い声で言った。


「危険すぎる」



---




「……危険?」


「そうだ」


「僕が何をしたんですか?」


「まだ何もしていない」


「じゃあ、どうして?」


 キラの声が大きくなる。


「僕は何もしてないのに!」


 謁見の間が静まり返る。


「僕はただ……」


 キラの目に涙が浮かぶ。


「普通に生きたかっただけなのに」


 リナが唇を噛む。


 ガルは黙ってキラを見ている。


「家族と暮らしたかった」


 キラの声が震える。


「友達が欲しかった」


 涙が一粒落ちる。


「なのに、何で僕だけ……」


 国王は何も言えない。


「……」


 キラは涙を拭う。


「答えてください」



---




 長い沈黙の後。


 国王が口を開いた。


「お前が生まれた時――」


 キラが顔を上げる。


「王城には、ある予言が残されていた」


「予言?」


「ああ」


 国王は続ける。


「赤い髪を持つ子供が生まれた時、その者は世界の魔物を従え――」


 そこで一度言葉を止める。


「やがて、世界の勢力図を変える」


「……」


「それが、お前だった」


 キラは呆然とする。


「僕が……?」


「だが、予言には続きがあった」


「続き?」


 国王の顔が険しくなる。


「その力を持つ者が、もし悪意を持てば――」


 国王はキラを見る。


「世界そのものを滅ぼしかねない」



---




 キラは理解した。


「……それで?」


「……」


「だから僕を捨てたんですか?」


 国王は答えない。


「まだ何もしてない僕を?」


「……」


「十歳にもなってない子供を?」


 キラの声に怒りが混じる。


「危険かもしれないから?」


 国王は目を閉じた。


「……そうだ」


 キラの拳が震える。


「最低だ」


 小さな声。


 しかし。


 謁見の間全体に響いた。


「僕は……そんな理由で捨てられたの?」



---




 リナがキラの横へ立つ。


「キラ」


「……」


「もういいよ」


「でも……」


「キラは悪くない」


 リナははっきりと言った。


「何もしていないのに、未来が怖いからって捨てる方がおかしい」


 キラは黙ってリナを見る。


「……ありがとう」



---




 その時だった。


「キュ……」


 セレネが小さく鳴いた。


「セレネ?」


 キラが振り返る。


 セレネは王国の奥を見ていた。


 そして――。


 身体が震えている。


「どうしたの?」


 キラが抱き上げる。


「キュ……キュウ……」


 セレネの額の紋章が淡く光る。


 それを見た国王の顔色が変わった。


「……その紋章」


「?」


「まさか……」


 国王が立ち上がる。


「その聖獣を、どこで手に入れた?」


「森です」


「森……?」


 国王が呟く。


「ありえない」



---




 その時。


 謁見の間の扉が開いた。


「陛下」


 一人の男が入ってくる。


 白衣を着た研究者だった。


 その後ろには、数人の研究員。


 そして――。


「……お父さん」


 ミアが呟いた。


 男がミアを見る。


「……なぜ、お前がここにいる?」


「私もキラ君の仲間だから」


「……」


 男はキラを見る。


 そしてセレネを見る。


 次の瞬間。


 男の顔から血の気が引いた。


「その聖獣……」


「知っているんですか?」


 キラが尋ねる。


「……」


「答えてください」


 男は口を閉ざす。


 国王が言った。


「もう隠せまい」


「陛下!」


「この少年には知る権利がある」


 男はしばらく黙っていた。


 やがて。


「……地下研究施設へ来なさい」


「研究施設?」


「そこに、十年前の記録がある」


 キラの心臓が跳ねる。


「十年前……?」


「君が生まれた頃の記録だ」



---




 キラは息を呑む。


「僕が生まれた時に……何があったんですか?」


 男は答えなかった。


 ただ一言。


「君の母親についても、そこに記録が残っている」


「……!」


 キラの目が大きくなる。


「母さん……?」


 その言葉を口にした瞬間。


 胸の奥が熱くなった。


 キラは母親の顔を知らない。


 幼い頃に聞いた話では、母は病気で亡くなったとだけ教えられていた。


 しかし――。


 今になって。


 王城の地下に記録があるという。


「行きます」


 キラは即答した。


「僕の母さんのことを知りたい」



---




 王城のさらに深い場所。


 誰も使っていない古い研究区画。


 一人の人物が、古びた石碑の前に立っていた。


 石碑には文字が刻まれている。


> 《テイマー》




 そして、その下。


> 《唯一無二》




 人物は石碑に手を触れる。


「……ようやく動き始めたか」


 しかし、その人物の姿は暗闇に隠れている。


「まだ早い」


 小さく笑う。


「キラがここまで来るには……もう少し時間が必要じゃ」


 その声は――。


まだキラたちの誰も知らないものだった。



---


第23話 終



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