21話 怪しい少女と盗賊?
王都へ向かう朝。
街の東門には、何台もの馬車が並んでいた。
商人。
旅人。
冒険者。
王都で働く者。
様々な人間が、王都を目指している。
その中に――。
「……これが王都行きの馬車?」
キラが目を輝かせていた。
「そうだよ」
リナが笑う。
「王都までは二日くらいかかるって」
「二日か……」
キラは少し緊張していた。
王都。
そこには、かつて自分を追放した国王がいる。
そして、自分をいじめていた貴族たちもいるかもしれない。
できれば関わりたくない。
けれど――。
今のキラには、王都へ行かなければならない理由がある。
聖なる涙の次に必要なもの。
《竜王の血》。
そして――。
《魔王の魂》。
さらに、セレネが過去に何をされたのか。
自分自身の正体。
知らなければならないことが多すぎる。
「キラ」
ガルが声をかける。
「行くぞ」
「うん!」
---
馬車には十人ほどが乗っていた。
キラたちは後ろの席。
キラの隣にリナ。
向かいにルナ。
その隣にはガル。
魔物たちは――。
《異次元収納》の中に入っている。
もちろん、カグラも。
セレネだけは小さな姿になり、キラの足元に座っている。
「……」
キラが周囲を見る。
初めて見る人たちばかり。
少し緊張する。
すると。
「こんにちは」
向かい側から声がした。
「……え?」
キラが顔を上げる。
一人の少女が座っていた。
年齢はキラより少し上。
十三歳くらい。
長い茶色の髪。
大きな青い瞳。
質素な旅装束を着ている。
「私、ミア」
少女は微笑んだ。
「よろしくね」
「あ……うん」
キラも笑う。
「僕はキラ」
「キラ君か」
ミアはセレネを見る。
「その子……」
「僕の仲間」
「聖獣……だよね?」
「うん」
ミアの目が大きくなる。
「すごい……」
だが。
その時。
馬車の後方にいた商人が、キラをじっと見ていた。
そして。
小さく呟く。
「……赤髪」
---
馬車は街を出た。
街道を進んでいく。
最初は穏やかだった。
青い空。
広い草原。
遠くには山。
「気持ちいいね」
リナが窓から外を見る。
「うん」
キラも笑う。
しかし。
ガルだけは外を睨んでいた。
「……」
「どうしたの?」
「静かすぎる」
「え?」
「街道にしては、魔物の気配が少ない」
ガルが耳を動かす。
「それに……」
馬車の御者を見る。
「御者が緊張している」
キラも前を見る。
御者の手が震えている。
「……」
キラは《神獣の眼》を発動する。
すると。
遠くの森に――。
大量の魔力反応。
「……いる」
「何が?」
リナが尋ねる。
「人がいっぱい」
キラの表情が変わる。
「こっちを待ってる」
---
その瞬間。
「止まれぇぇぇ!!」
前方から怒鳴り声が響いた。
馬車が急停止する。
「きゃっ!」
乗客が一斉に倒れる。
「何だ!?」
御者が叫ぶ。
森から――。
十人。
二十人。
次々と男たちが出てきた。
全員武装している。
「盗賊だ!」
誰かが叫んだ。
男たちは道を塞ぐ。
「金を置いていけ!」
「逆らったら馬車ごと燃やすぞ!」
乗客が怯える。
しかし。
キラは違和感を覚えていた。
「……」
盗賊なら。
なぜ――。
自分を見ている?
男たちの視線が、明らかにキラへ集中している。
「おかしい」
キラが呟く。
ガルも同じことを考えていた。
「俺もそう思う」
---
一人の男が前へ出る。
「金なんかどうでもいい」
キラが顔を上げる。
「……え?」
「俺たちが欲しいのは――」
男がキラを指差した。
「赤髪のガキだ」
馬車内が静まり返った。
「……!」
リナがキラを見る。
ルナの顔も強張る。
ガルが立ち上がる。
「誰に頼まれた」
「教えると思うか?」
男が笑う。
「捕まえれば大金が入るんだよ」
「僕を?」
「そうだ」
キラは拳を握る。
「どうして僕を知ってるの?」
「さあな」
男が剣を抜く。
「知りたいなら――」
仲間たちも一斉に武器を構える。
「生きて捕まってから聞け!」
---
「ガル!」
「ああ!」
ガルが馬車から飛び出す。
大型犬ほどの姿だった身体が、一瞬で元の大きさに戻る。
「なっ……!」
盗賊たちが驚く。
ガルの爪が一閃。
――ドンッ!
「ぐあっ!」
男が吹き飛ぶ。
「魔物だ!」
「いや、ただの魔物じゃない!」
キラも飛び出す。
「《異次元収納》!」
空間が開く。
「クロ!」
「ワン!」
「シロ!」
「ガルル!」
「ソラ!」
「ぷるっ!」
仲間たちが次々と飛び出した。
盗賊たちが騒然となる。
「何だこいつら!」
「魔物を大量に連れてやがる!」
「数が多すぎる!」
キラは走る。
剣を抜く。
相手の動きを読む。
避ける。
受け流す。
反撃。
以前よりも動きが洗練されている。
セレネとの契約。
カグラとの共鳴。
そして――。
《万象共鳴》の成長。
「そこ!」
キラの剣が盗賊の武器を弾き飛ばす。
「ぐっ!」
「もうやめて!」
キラは叫ぶ。
「僕はあなたたちと戦いたいわけじゃない!」
「うるせえ!」
男が魔法を放つ。
――ゴォッ!
火球がキラへ飛ぶ。
「キラ!」
セレネが前へ出る。
白い光が広がる。
――シュンッ!
火球が消滅した。
「……!」
キラが驚く。
「セレネ……」
セレネがキラを見る。
「ありがとう」
---
その頃。
馬車の中。
ミアは一人、震えていた。
ただ怯えているだけではない。
彼女は――。
何かを隠していた。
「……」
外から戦闘音が響く。
ミアは目を閉じる。
「やっぱり……」
小さく呟く。
「キラ君……」
彼女は懐から一枚の紙を取り出した。
そこには――。
赤い髪の少年について書かれていた。
> 対象:キラ
年齢:十歳前後
特徴:赤髪
確認された能力――不明
危険度――測定不能
ミアは紙を握りしめる。
「この子が……」
しかし。
その紙の裏には、別の文字があった。
> 接触後、必ず王都へ報告せよ。
ミアの表情が曇る。
「……ごめんなさい」
---
戦いはキラたちの優勢になっていた。
ガルが最後の一人を地面へ押さえつける。
「終わりだ」
「くそっ……!」
キラが隊長格の男へ近づく。
「あなたに聞きたいことがある」
「……」
「誰に頼まれたの?」
男は黙る。
「僕を捕まえろって言った人」
「……」
キラは男の目を見る。
「王都の人?」
男の表情が一瞬変わった。
それを見逃さなかった。
「……やっぱり」
キラの胸がざわつく。
王都。
自分の知らないところで、誰かが自分を探している。
「名前は?」
「知らねえ」
「本当に?」
「本当だ!」
男は叫ぶ。
「俺たちが受け取ったのは、この袋だけだ!」
男が小さな袋を投げる。
中には金貨。
そして――。
王家の紋章が刻まれた小さな金属片。
「……!」
リナが息を呑む。
「王家の紋章……」
キラは金属片を拾った。
「どうして盗賊がこれを……」
ガルが呟く。
「誰かが王家の権威を使って依頼した可能性がある」
「……」
キラは金属片を握りしめる。
王都へ行けば。
きっと何かが分かる。
---
戦いが終わり、馬車は再び進み始めた。
キラたちは馬車に戻る。
「大丈夫?」
キラがミアへ声をかけた。
「う、うん」
「怖かったよね」
「……」
ミアはキラを見る。
「キラ君」
「なに?」
「私……」
ミアはしばらく黙っていた。
そして。
「あなたを知ってる」
「……え?」
キラが固まる。
「会ったことはない。でも……」
ミアは懐から紙を出す。
「これを持ってる」
キラが受け取る。
そこには自分のことが書かれていた。
「……僕?」
「うん」
「誰から?」
「……」
ミアが俯く。
「王都にいる人から」
キラの表情が変わる。
「王都?」
「私は王都に行かなきゃいけない」
「僕を捕まえるため?」
「違う!」
ミアが慌てて首を振る。
「私は……」
その時。
馬車が大きく揺れた。
「きゃっ!」
ミアの懐から何かが落ちる。
――カラン。
小さなペンダント。
キラが拾う。
「これ……」
王家の紋章。
「……」
ミアの顔が青ざめた。
「それは……」
「ミア、君は何者?」
ミアは答えない。
しばらくして。
小さな声で言った。
「……私の名前はミア・アルセリア」
「アルセリア?」
ルナが反応した。
「王都の名門貴族……」
ミアが頷く。
「そして……」
少女は震える声で続けた。
「私は、王城で働く人間の娘」
キラが驚く。
「王城……」
「でも、私があなたに近づいたのは命令されたからじゃない」
「じゃあ、どうして?」
ミアはキラを見る。
「あなたを……」
涙を浮かべる。
「助けたいと思ったから」
---
車内が静かになる。
ミアは俯いている。
「私の父は、王城で聖獣の研究に関わってる」
「……!」
セレネが震えた。
「だから、セレネのことも知ってるの?」
「たぶん……」
ミアが頷く。
「王都には、聖獣を研究する施設がある」
キラは拳を握る。
「そこにセレネが……?」
「昔、いたかもしれない」
キラの胸が痛む。
セレネが自分の足へ身体を寄せる。
キラはそっと撫でる。
「……もう大丈夫」
そしてミアを見る。
「ミア」
「……うん」
「僕は君を信用する」
リナが驚く。
「キラ?」
「でも」
キラは続ける。
「全部はまだ信じない」
ミアが目を見開く。
「……うん」
「僕たちはまだ会ったばかりだから」
「……」
「でも、僕を助けたいっていう気持ちは信じたい」
ミアの目から涙がこぼれた。
「ありがとう……」
キラは笑った。
「王都に着いたら、セレネのことを教えて」
「分かった」
---
夕方。
遠くの山の向こうに――。
巨大な城壁が見え始めた。
「……あれが」
キラが窓から身を乗り出す。
「王都だ」
巨大な城壁。
その中央には、天を突くような王城。
十歳のキラが初めて見る、本物の王都。
だが。
キラは知らない。
あの城の中には――。
かつて自分を「役立たず」と呼び、家から追放するよう命じた国王がいる。
そして。
王城の最上階。
一人の老人が窓から街を見下ろしていた。
「……赤髪の少年が、王都へ向かっている?」
「はい」
兵士が答える。
「聖獣を連れているとのことです」
「……」
老人はゆっくり振り返る。
「間違いない」
「何がでしょう?」
「十年前に消えた子供だ」
兵士が驚く。
「まさか……」
老人は低く笑った。
「生きていたか」
そして。
その老人の胸には――。
キラの母親がかつて持っていたものと同じ紋章が刻まれていた。
「王都へ来い」
老人は呟く。
「すべてを知ることになる」
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第21話 終




