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20話 いざ王都へ



 翌朝。


 森の中に、朝日が差し込んでいた。


「……ん」


 キラは目を覚ました。


 焚き火はすっかり消えている。


 隣ではセレネが丸くなって眠っていた。


 その少し離れた場所では、クロとシロが寄り添っている。


 ソラは大きなゼリーの塊になって木の根元に転がり、リーフィは木に絡みついたまま眠っていた。


 そして――。


「……」


 キラの肩には、小さな鳥の姿になったカグラ。


「おはよう、カグラ」


「ギィ」


 カグラが目を開ける。


 キラは立ち上がった。


「今日はいよいよ街だね」


 昨日、聖獣セレネを仲間にした。


 そして手に入れた《聖なる涙》。


 しかし、まだ目的地には辿り着いていない。


 まずは人間の街へ行き、王都へ向かうための情報を集める。


 それが今日の目的だった。



---




「ほら、キラ」


 リナがパンを差し出した。


「ありがとう」


「ちゃんと食べてね。昨日かなり動いたんだから」


「うん」


 キラがパンを食べる。


 その隣では、ガルが黙々と食事をしている。


「……」


 キラはガルを見る。


「ねえ、ガル」


「何だ」


「街では、その姿のままで大丈夫かな?」


 ガルは自分の姿を見る。


 大きな狼の身体。


 鋭い牙。


 巨大な爪。


「……」


「やっぱり目立つよね」


「俺は別に気にしない」


「僕が気にするよ」


 キラが苦笑する。


 すると、ガルが少し考えた。


「なら、どうする?」


「街の中では小さくなれない?」


「……できなくはない」


 ガルの身体が黒い魔力に包まれる。


 ――ボンッ。


 次の瞬間。


 そこにいたのは、普通の大型犬ほどの大きさになったガルだった。


「わっ」


 キラが目を丸くする。


「小さくなれるんだ」


「普段はやらない」


 低い声はそのままだった。


「……こっちの方がいいね」


 キラが頭を撫でる。


「やめろ」


「嫌?」


「……嫌ではない」


 リナが笑う。


「ガル、ちょっと嬉しそう」


「そんなことはない」


 ガルが顔を背ける。


 キラは笑った。


 こういう時間が、キラには好きだった。


 以前は――。


 誰かと笑いながら朝食を食べることなど、想像もできなかった。



---


 昼前。


 森を抜ける。


 そして――。


「……!」


 キラの目の前に、大きな街が現れた。


 石造りの城壁。


 大きな門。


 その向こうには、たくさんの建物が並んでいる。


 人。


 馬車。


 商人。


 冒険者。


 子供。


 色々な人が行き交っている。


「ここが……人間の街」


 キラは思わず立ち止まった。


「初めて?」


 リナが尋ねる。


「うん」


 キラは頷く。


 貴族の屋敷にいた頃。


 外へ出ることなどほとんど許されなかった。


 まして、こんな大きな街を自由に歩くことなんてなかった。


「すごい……」


 目を輝かせる。


 焼きたてのパン。


 果物。


 武器。


 服。


 魔道具。


 様々な店が並んでいる。


「キラ、あれ!」


 リナが指を指す。


「魔法具のお店だよ」


「本当だ!」


 キラが駆け出しそうになる。


 だが、ガルが首元をくわえた。


「待て」


「わっ!」


「勝手に走るな」


「……ごめん」


 リナが笑う。


「キラ、子供みたい」


「僕、子供だよ?」


「あ……そうだった」


 二人で笑う。



---



 街の門まで来た。


 門番がキラたちを見る。


 特に――。


 セレネ。


 カグラ。


 そしてガル。


 視線が止まる。


「……その聖獣は?」


 キラが答える。


「僕の仲間です」


「聖獣が……仲間?」


 門番の表情が変わった。


 キラは少し緊張する。


「はい」


「どこで手に入れた?」


「手に入れたんじゃありません」


 キラはセレネを見る。


「この子が自分で僕についてきたいって言ってくれたんです」


 門番は困った顔をする。


「……」


 そしてカグラを見る。


「そちらは?」


「カグラです」


「……鳥?」


「はい」


 カグラが小さく鳴く。


「ギィ」


 門番は首を傾げる。


「珍しい鳥だな」


 キラは少しホッとする。


 どうやら正体には気づかれていない。


「最後に」


 門番がガルを見る。


「そこの狼は?」


「ガル」


 キラが答える。


「僕の仲間です」


 ガルが門番を見る。


「……」


 門番が少し怯える。


「……大人しいならいい」


 キラたちは無事、街へ入ることができた。



---




「キラ!」


 街へ入ってすぐ。


 リナが一軒の店を指差した。


「ちょっと寄ろう」


「何のお店?」


「服屋さん」


「服?」


「今の服、旅には向いてないよ」


 キラは自分の服を見る。


 貴族家から逃げ出した時に着ていたもの。


 ところどころ破れている。


 リナは店員に声をかけた。


「この子に合う服ありますか?」


「もちろんですよ」


 しばらくして。


「これなんてどうでしょう?」


 店員が持ってきたのは、動きやすい黒い服。


 赤い髪にもよく似合いそうだった。


「……」


 キラは服を見る。


「これ、いくら?」


 値段を聞く。


「……」


 少し高い。


「やめよう」


 キラが戻そうとする。


 すると。


「買えばいい」


 ガルが言った。


「え?」


「必要なんだろ」


「でも……」


「金ならある」


 ガルが袋を取り出す。


「ガル、いつの間に?」


「前の依頼の報酬だ」


「……」


 キラは少し困った顔をする。


「でも僕が払うよ」


「今のお前に金を使わせる必要はない」


「……」


 キラは服を受け取った。


「ありがとう」


「礼はいらない」


 ガルはそっぽを向いた。


 しかし――。


 尻尾が少しだけ揺れていた。



---


 服を買った後。


 キラたちは食堂へ入った。


 そこで昼食を取りながら、王都への道を聞くことにした。


「王都へ行くなら、明日の朝の馬車がいい」


 店主が教えてくれる。


「乗合馬車が出てる」


「ありがとう」


 キラは頷く。


 しかし。


 隣の席から声が聞こえた。


「最近、王都の近くで聖獣が襲われてるらしいぞ」


「またか?」


「ああ」


「聖獣狩りの連中だろ」


 キラの手が止まった。


「……」


 リナも聞いている。


「最近、特に酷いらしい」


「王国は何してるんだ?」


「さあな」


「貴族様が聖獣を欲しがってるって噂もあるぞ」


「魔石より高く売れるからな」


 キラは拳を握った。


「……」


 セレネがキラの足元へ寄ってくる。


 身体が震えている。


「大丈夫」


 キラが優しく撫でる。


「もう誰にも渡さないよ」



---




 その夜。


 宿を取った。


 キラたちは部屋に集まっていた。


「セレネ」


 キラが尋ねる。


「さっき街に入った時から、ずっと怖そうだったよね」


 セレネは俯く。


「この街で何かあった?」


 セレネは少し震えた。


 そして――。


 キラの頭の中に、映像が流れた。


「……!」


 《万象共鳴》。


 セレネの記憶。


 森。


 人間。


 鎖。


 そして――。


 白い建物。


 巨大な魔法陣。


 たくさんの聖獣。


「……」


 キラは息を呑む。


「ここ……?」


 セレネが頷く。


 そして一人の少女の姿が見えた。


 聖獣に手を伸ばしている。


『ごめんね……』


 少女は泣いていた。


『助けてあげられなくて……』


 次の瞬間。


 映像が途切れた。


「セレネ」


 キラが抱きしめる。


「もう大丈夫」


 セレネがキラの胸に顔を押しつける。


「僕がいる」



---




 同じ頃。


 街の外。


 黒い外套の男が一人。


 昨日、森からキラを見ていた男だった。


「ここにいるのか」


 男の隣には、別の兵士がいる。


「はい。目撃情報が一致しています」


「赤髪の少年?」


「はい」


「聖獣を連れている?」


「白い聖獣、それに黒い鳥も」


 男が笑う。


「やはり間違いない」


「捕らえますか?」


「まだだ」


「なぜ?」


「王都へ向かわせろ」


 男は振り返る。


「王都に来れば、逃げ道はない」


「しかし、あの少年は神獣を……」


「分かっている」


 男は静かに言った。


「だからこそ、王都で待つ」



---



 翌朝。


 キラは宿の窓から街を眺めていた。


 人々が行き交っている。


 笑っている人。


 急いでいる人。


 子供たち。


 商人。


 冒険者。


 ここには――。


 キラが知らない世界が広がっている。


「王都へ行こう」


 キラが言った。


 リナが振り返る。


「本当に?」


「うん」


 キラは頷く。


「セレネが何をされたのか知りたい」


「……」


「それに」


 キラは自分の手を見る。


 《万象共鳴》。


 まだ謎だらけのスキル。


「僕自身のことも知りたい」


 ガルが頷く。


「なら行こう」


 キラは仲間を見る。


 クロ。


 シロ。


 ソラ。


 リーフィ。


 カグラ。


 セレネ。


 ルナ。


 リナ。


 そしてガル。


 もう、一人ではない。


「王都へ!」


 キラは笑った。



---



 キラの視界に、新たな表示が浮かんだ。


> 《万象共鳴》が成長しました。




> 現在の契約数:多数




> 一定条件を達成しました。




> 上位スキルへの進化が可能です。




 キラが目を見開く。


「……進化?」


> 候補スキルを表示しますか?




「……」


 キラは少し迷う。


 そして。


「お願いします」


 視界いっぱいに、新しいスキル名が浮かび上がった。


> 《万象共鳴》




> ↓




> 《万象支配》




 キラは言葉を失った。


「……支配?」


 しかし。


 その下には、もう一つの候補があった。


> 特殊進化条件を確認。




> 《万象共鳴・極》




> 条件:仲間を支配せず、信頼によって一定数以上の種族と繋がること。




 キラはしばらく画面を見つめた。


 そして――。


「こっちだ」


 迷わなかった。


「《万象共鳴・極》を目指す」


 力で従わせるのではない。


 仲間だからこそ。


 信じてもらう。


 その道を選んだ。


 その瞬間。


 キラの手の甲に刻まれた紋章が、静かに輝いた。


 ――王都への旅が始まる。


 そして。


 キラはまだ知らない。


 王都で待っているのが――。


 聖獣を狙う者だけではなく。


キラの出生そのものを知る人物だということを。



---

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