第2話 最弱×最弱
転生したけどレベル1に戻る俺。新魔法をつくるスキルで最強を目指す も書いてますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
雨は、夜が明ける頃には止んでいた。
「……ん」
キラはゆっくりと目を開けた。
冷たい地面。
濡れた服。
昨日までなら、こんな場所で眠ることなど考えられなかった。
けれど――
「……あれ?」
キラは身体を起こして、自分の腕を見た。
「傷が……」
昨日まであった小さな擦り傷が、すっかり消えている。
指で触れてみても、痛くない。
「これが……《自己再生》」
昨日、スライムから手に入れた能力。
キラは自分の手を見つめた。
まだ信じられない。
自分には何の才能もない。
そう言われ続けてきた。
けれど今、自分の中には確かに新しい力がある。
「……僕にも、できるんだ」
小さな声だった。
その瞬間。
「ぷるっ!」
「わっ!」
頭の上から何かが落ちてきた。
ぽよん。
青いスライム――ソラだった。
「ソラ、おはよう」
「ぷるぷる!」
ソラは嬉しそうにキラの肩へ跳ねる。
「昨日はありがとう」
キラが頭を撫でようとすると、ソラは嬉しそうに身体を揺らした。
「……でも、これからどうしよう」
キラは辺りを見回す。
王都に戻ることはできない。
アルヴェイン家にも帰れない。
お金も食べ物もない。
「まずは……食べ物を探さないと」
「ぷる?」
「うん。二人分」
「ぷるっ!」
ソラが元気よく跳ねた。
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街道を歩いて一時間ほど。
キラは小さな森へ入った。
「食べられるもの……」
母から教えてもらったことを思い出す。
幼い頃、母はよく森へ連れて行ってくれた。
木の実。
薬草。
食べられる草。
「えっと……これは食べられる」
赤い実を見つける。
キラは少しだけ口に入れた。
「……甘い」
「ぷる!」
「ソラも食べる?」
ソラが実を包み込む。
そして――
「ぷる?」
「どうしたの?」
ソラの身体が少し大きくなった。
「えっ?」
キラは驚いた。
ソラの中に、赤い実が溶けていく。
「食べたの?」
「ぷる!」
「……スライムって何でも食べられるのかな」
キラは少し笑った。
そのときだった。
森の奥から、ガサッという音がした。
「……!」
キラは動きを止めた。
ソラもキラの肩で固まる。
草むらから姿を現したのは――
三匹のゴブリンだった。
「ギギ……」
手には粗末な棍棒。
キラの足が震えた。
「……ゴブリン」
知っている。
子供でも襲う魔物。
戦えば、自分など一瞬で殺される。
逃げなければ。
そう思った。
けれど――
一匹のゴブリンがソラを見た。
「ギギッ!」
ゴブリンが棍棒を振り上げる。
「ソラ!」
キラは咄嗟にソラを抱きしめた。
ドンッ!
「ぐっ……!」
棍棒がキラの背中に当たった。
「キラ!」
もちろん、ソラはそんな言葉を話せない。
けれどキラには、そう聞こえた。
痛い。
怖い。
逃げたい。
それでも――
「ソラは……僕が守る!」
キラは震えながら立ち上がった。
手元にあった木の枝を握る。
武器としてはあまりにも頼りない。
「来い……!」
ゴブリンが笑った。
次の瞬間。
キラの身体が動いた。
ドンッ!
「え……?」
ゴブリンの棍棒を、紙一重で避けていた。
身体が軽い。
昨日までとは明らかに違う。
「もしかして……」
《自己再生》だけじゃない。
テイムしたことによって、身体そのものが少し強くなっている?
キラは木の枝を握り直した。
「やれる……!」
ゴブリンが再び襲いかかってくる。
キラは横へ飛んだ。
そして――
ガツン!
枝をゴブリンの手に叩きつける。
「ギャッ!」
棍棒が落ちた。
キラ自身が一番驚いていた。
「僕が……戦えてる?」
だが。
残り二匹が同時に襲ってくる。
「うわっ!」
キラは転んだ。
ゴブリンの棍棒が振り下ろされる。
――怖い。
死ぬ。
そう思った瞬間。
「ぷるるるっ!」
ソラが飛び出した。
ゴブリンの顔へ体当たり。
「ギギッ!」
ゴブリンがよろめく。
「ソラ!」
キラは立ち上がった。
その瞬間。
頭の中に、昨日とは違う感覚が走った。
まるでソラの感覚が、自分の中へ流れ込んでくる。
目の前のゴブリン。
その動き。
地面。
木々。
全部が、いつもよりはっきり見える。
「これ……」
キラには分かった。
《万象共鳴》。
ソラと繋がっている。
なら――
「一緒に戦おう、ソラ!」
「ぷるっ!」
キラは走った。
ソラが正面からゴブリンへ突っ込む。
ゴブリンがソラを叩こうとする。
その瞬間。
キラが横から枝を叩き込む。
「たあっ!」
ゴブリンが倒れる。
残った二匹は逃げ出した。
「……勝った?」
キラはその場に座り込んだ。
手が震えている。
「こ、怖かった……」
ソラがキラの頬に飛びつく。
「ぷる……」
「うん」
キラはソラを抱きしめた。
「ありがとう」
その瞬間。
また、目の前に文字が浮かんだ。
『戦闘を確認しました』
『対象との共鳴率が上昇しました』
『《万象共鳴》の能力が一部解放されます』
キラは目を見開いた。
『新機能――《能力共有》』
「能力……共有?」
『テイムした対象の能力を、任意で自身に付与できます』
キラの胸が高鳴った。
「じゃあ……」
キラはソラを見る。
「ソラの力を、僕も使える?」
「ぷるっ!」
『《能力共有》を実行します』
キラの身体を淡い光が包んだ。
そして――
「……!」
身体の奥に、何かが宿った。
柔らかい。
不思議な感覚。
「これが……スライムの力」
キラは小さな手を握った。
まだ何ができるのか分からない。
でも。
昨日まで何も持っていなかった自分に。
初めて「力」ができた。
「ソラ」
「ぷる?」
「僕たち、もっと強くなろう」
キラは笑った。
「もう、誰にも馬鹿にされないくらい」
ソラが元気よく跳ねる。
「ぷるーっ!」
こうして。
キラとソラの旅が始まった。
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一方その頃。
王都――アルヴェイン侯爵家。
「……キラは、もう出発したか?」
父、グレアム・アルヴェイン侯爵が尋ねた。
「はい」
使用人が答える。
「二度と戻ってこられないよう、王都から十分離れた場所へ追い出しました」
「そうか」
グレアムは満足そうに頷いた。
「これで我が家に無能はいない」
その言葉を聞いていた長男が笑う。
「父上、あんな奴が生きていけると思いますか?」
「無理だろう」
「ですよね」
二人は笑った。
誰も知らない。
その少年が今。
たった一匹のスライムと共に――
新しい力を手に入れたことを。
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さらにその頃。
王宮の地下。
古びた魔道具の前に、一人の老人が立っていた。
「……おかしい」
老人は震える手で魔道具を操作する。
「今……何かが目覚めた?」
魔道具に、一瞬だけ文字が浮かんだ。
«《万象共鳴》»
老人の顔から血の気が引く。
「まさか……」
そして老人は呟いた。
「千年前に世界を救った、あのテイマーが……」
魔道具が砕け散る。
老人は空を見上げた。
「再び、現れたというのか……?」
その頃キラはまだ知らなかった。
自分が世界で唯一のテイマーであることも。
自分のスキルが、王国の歴史を変えるほどの力を秘めていることも。
そして――
自分を追放した王国が。
これから少しずつ、崩れ始めることも。




