第1話 無能と呼ばれた少年
ちょっと欲を出してみました。
こちらもマイペースに進めていきます。 妄想第二弾テイマー編
2026/8/19 100、200pv 達成
2026/8/20 300.400.500.600.pv達成
2026/8/21 700.800pv達成
アルヴェイン侯爵家には、一人の少年がいた。
名は、キラ・アルヴェイン。
十歳。
赤い髪と赤い瞳を持つ、まだ幼い少年だった。
だが、彼の家族は、その姿を一度たりとも褒めたことがない。
「キラ! まだ掃除が終わっていないのか!」
「す、すみません……すぐに終わらせます!」
早朝。
キラは屋敷の廊下を一人で掃除していた。
手には、彼の身長には少し大きすぎるほうき。
貴族の子供なら、本来家庭教師から魔法や剣術を教わっている時間だ。
けれどキラには、そんなものはなかった。
「お前は本当に何をやらせても遅いな」
使用人が吐き捨てるように言う。
「申し訳ありません……」
「謝れば済むと思うなよ」
バケツを蹴られた。
中に入っていた水が床にぶちまけられる。
「……っ」
「全部やり直しだ」
「はい……」
キラはしゃがみ込み、こぼれた水を布で拭き始めた。
慣れていた。
何をされても、謝る。
逆らわない。
そうしなければ、もっと酷いことをされるからだ。
キラがこの家で唯一大切にしているもの。
それは、胸元にある古びたペンダントだった。
亡くなった母が残してくれたもの。
母はキラが六歳のときに病気で亡くなった。
その後、キラはますます家の中で孤立していった。
「おい、無能」
背後から声がした。
振り返ると、二人の少年が立っていた。
キラの兄たちだった。
「今日、父上が呼んでいるぞ」
「……僕を?」
「ああ」
二人は笑った。
「今度こそ捨てられるんじゃないか?」
「お前みたいな無能、家に置いておく意味なんてないからな」
キラは俯いた。
「……僕、何か悪いことした?」
「存在してることじゃないか?」
二人の笑い声が響いた。
キラは何も言い返せなかった。
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その日の昼。
キラは父親の執務室へ呼び出された。
「入れ」
「失礼します……」
部屋の中央には、父――グレアム・アルヴェイン侯爵が座っていた。
その隣には、見慣れない男がいる。
王宮の紋章を身につけた魔法士だった。
「キラ」
「はい」
「今日、王宮でお前の能力を鑑定した」
「……!」
キラの顔が少し明るくなった。
能力鑑定。
十歳になった貴族の子供が受ける、人生を決める大切な儀式。
もしかしたら。
自分にも、何か才能があるかもしれない。
そうすれば。
父に認めてもらえるかもしれない。
「結果を言う」
父親の声は冷たかった。
「職業は――テイマー」
「テイマー……」
キラは小さく呟いた。
聞いたことがある。
魔物と契約し、仲間にする職業。
「それと、固有スキルが一つ」
魔法士が鑑定結果を読み上げる。
「《万象共鳴》」※ばんしょうきょうめい
「……!」
「効果は――不明」
部屋が静かになった。
「不明、ですか?」
父が眉をひそめる。
「はい。現在の鑑定魔法では解析できません」
「つまり?」
「分かりません。もしかすると無能なスキルなのかもしれません。」
父親はしばらく黙った。
そして――
「くだらん」
その一言で、キラの胸が締め付けられた。
「テイマーなど戦闘能力の低い職業だ。そのうえ固有スキルの効果すら分からない」
「で、でも……」
「何だ」
「これから頑張れば……」
「黙れ」
キラの言葉が止まった。
「お前に何を期待しろというのだ?」
「……」
「兄たちは魔法適性も高い。剣術も優秀だ」
父は立ち上がった。
「それに比べてお前はどうだ?」
キラは俯く。
「魔力も少ない。身体能力も低い。魔法も使えない。剣も振れない」
「……はい」
「ならば、もう必要ない」
「……え?」
父親が一枚の紙を机の上に置いた。
「今日をもって、お前はアルヴェイン家から除籍とする」
意味が分からなかった。
「……じょ、せき?」
「そうだ」
「……僕、何か悪いことしましたか?」
「何もしていない」
「じゃあ……」
キラは震える声で尋ねた。
「どうして?」
父親は冷たく答えた。
「お前のような無能を養う理由がないからだ」
「……!」
胸が痛かった。
けれど、それでもキラは必死に言葉を探した。
「頑張ります」
「……」
「もっと頑張ります」
「……」
「勉強もします。剣も練習します。魔法だって……」
涙がこぼれた。
「だから……お願いします」
十歳の少年は深く頭を下げた。
「僕を、ここに置いてください」
父親は答えなかった。
代わりに、隣にいた兄が笑った。
「父上、そんな奴に何を言っても無駄ですよ」
もう一人の兄も続ける。
「せめて最後に何か持たせてやったらどうです?」
「そうだな」
兄が何かを取り出した。
古びたペンダントだった。
「これでも持っていけよ」
「……!」
キラはそれを見て、目を見開いた。
「母さんの……」
母が生前、大切にしていたペンダント。
「どうして……」
「お前の母親が俺にくれたんだよ」
「……」
「でも、お前みたいな奴が持っていたほうがお似合いだ」
兄は笑った。
キラはペンダントを両手で握りしめた。
「……ありがとう」
最後まで、キラは疑わなかった。
母が自分に残してくれたものだと。
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その日の夕方。
キラは王都の外へ放り出された。
荷物はない。
金もない。
食料すらない。
門番が無情にも門を閉める。
「二度と戻ってくるなよ、無能」
その言葉を最後に。
キラの十年間の人生は終わった。
「……」
しばらく、キラは動けなかった。
目の前に広がるのは、見たこともない街道。
後ろには、もう帰れない王都。
「……僕、これからどうすればいいんだろう」
誰も答えてくれない。
夕暮れが夜へ変わっていく。
やがて雨が降り始めた。
「寒い……」
キラは木の下で身体を丸めた。
お腹が空いていた。
怖かった。
寂しかった。
それでも泣くまいとした。
泣いたところで、誰も助けてくれない。
「……母さん」
胸元のペンダントを握る。
「僕……ちゃんと頑張ったよね?」
返事はない。
「……僕、悪い子だったのかな」
涙が頬を伝った。
そのときだった。
草むらから、小さな音が聞こえた。
「……?」
キラが顔を上げる。
そこには――
一匹のスライムがいた。
青くて、小さな身体。
けれど、その身体には傷がいくつもあった。
「……怪我してるの?」
スライムは震えている。
「大丈夫?」
キラは近づいた。
スライムは逃げなかった。
キラは自分の服の袖を少し破り、スライムの身体についた小さな傷を拭った。
「痛いよね……」
するとスライムが、
「ぷる……」
と小さく震えた。
「僕も……痛いんだ」
キラは苦笑した。
「家を追い出されちゃった」
スライムは何も言わない。
でも、逃げなかった。
「君も一人なの?」
「ぷる」
「……そっか」
キラはポケットを探った。
昼にもらったパンが、一欠片だけ残っていた。
本当なら自分が食べるはずだった。
でも。
キラはそれを半分に割った。
「はい」
スライムの前に置く。
「一緒に食べよう」
スライムがゆっくり近づいてくる。
ぷるん。
小さな身体がパンを包み込む。
その瞬間――
キラの目の前に、青白い光が浮かんだ。
『――条件を満たしました』
「……え?」
『固有スキル《万象共鳴》が発動します』
キラは目を見開いた。
『対象――スライム』
『対象があなたを受け入れました』
『テイム条件を達成』
『テイムに成功しました』
「テイム……?」
さらに文字が浮かぶ。
『対象から取得可能な能力を確認』
『《自己再生》を取得しました』
「……!」
その瞬間。
キラの身体を温かな光が包んだ。
さっきまで冷え切っていた身体が、少しだけ軽くなる。
小さな傷が、ゆっくりと塞がっていく。
「これ……僕の力?」
スライムがキラの膝の上に乗った。
「ぷる!」
初めて見る笑顔のようなものだった。
キラは思わず笑った。
「……ありがとう」
誰にも必要とされなかった少年。
誰にも価値がないと言われた少年。
そんな少年の隣に。
世界で一番弱いと言われるモンスターがいた。
「君の名前……どうしようか」
キラは少し考えて。
「……ソラ」
「ぷる?」
「空みたいに、どこまでも自由になれるように」
「ぷるん!」
スライム――ソラが嬉しそうに跳ねた。
誰も知らない場所で、一人の少年と一匹のスライムが出会った。
この出会いが後に――
世界の歴史を大きく変えることになる。
世界で唯一。
あらゆる種族と心を通わせ、その力を己のものとするテイマー。
その最初の一歩は、たった一欠片のパンから始まったのであった。




