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12話 スキル魔獣楽園


 ――朝。


 森に朝日が差し込んでいた。


 昨日まで森を覆っていた黒い魔力は、ほとんど消えている。


 鳥の声も戻っていた。


 木々の間から小動物が顔を出し、警戒しながらも森の中を歩き始めている。


「……静かだね」


 キラは焚き火の前に座りながら呟いた。


「昨日までとは全然違う」


 隣ではソラが丸くなっている。


「ぷる……」


 クロは木の根元で寝ていた。


 シロはキラの膝の上。


 リーフィは枝に座って朝露を飲んでいる。


 そして――


「……」


 森の中に、とんでもなく大きな存在が立っていた。


 銀色の髪。


 黄金の瞳。


 額に一本の角。


 背中には巨大な黒い翼。


 古代竜――グラウディス。


 ただし、今は人間に近い姿をしている。


「……なあ、グラウディス」


「何だ?」


「その姿なら……町に入れる?」


「無理だな」


「どうして?」


「我はどう見ても人間ではない」


「……確かに」


 キラはグラウディスの角を見る。


「角、隠せない?」


「無理だ」


「翼は?」


「無理だ」


「尻尾は?」


「……」


 グラウディスが黙る。


「あるの?」


「ある」


「……」


 キラは頭を抱えた。


「どうしよう」


 リナが笑う。


「昨日仲間になったばかりなのに、もう問題発生だね」


「うん……」


 そしてグラウディスが真面目な顔で言った。


「それに」


「何?」


「我が本来の姿で町へ入れば、町そのものが混乱する」


「そんなに?」


「我は古代竜だぞ」


「……」


 キラは空を見上げる。


「そっか」


 少し考えて。


「じゃあ、しばらく町には入らない方がいいね」


「それがいい」


 だが――


 キラには別の問題があった。


「……仲間が増えすぎた」


 今までは何とか歩いて旅をしてきた。


 しかし。


 クロ。


 ソラ。


 シロ。


 リーフィ。


 クウ。


 そしてグラウディス。


 さらに今後も仲間を増やしていくつもりだ。


「このままだと……」


 キラは頭を抱える。


「歩くだけで疲れそう」


「何か問題でもあるのか?」


 グラウディスが尋ねる。


「僕の《異次元収納》に、みんなが入れればいいんだけど……」


「……」


 クウが口を挟む。


「無理じゃろ」


「やっぱり?」


「《異次元収納》は物を入れるための空間じゃ」


 クウが指を立てる。


「生き物を入れれば、呼吸もできぬ」


「じゃあ、《生命領域》なら?」


「今の《生命領域》では狭すぎる」


「……」


 キラは考え込んだ。


「もっと大きくできないかな」


 その瞬間。


 グラウディスが言った。


「できる」


「え?」


「お前のスキルならな」



---


《万象共鳴》の可能性


 グラウディスはキラの前に座った。


「《異次元収納》と《生命領域》」


「うん」


「本来は別の能力だ」


「そうだね」


「だが、お前の《万象共鳴》なら、それらを組み合わせられる」


 キラの目が輝く。


「じゃあ……!」


「可能性はある」


 グラウディスが続ける。


「ただし、今のお前では難しい」


「どうして?」


「二つの空間を一つにするには、強い『核』が必要だ」


「核……」


「空間を維持するための中心だ」


 クウが頷く。


「確かにのう」


「何か必要なの?」


「特殊な魔力」


 グラウディスが答える。


「あるいは――」


 黄金の瞳がキラを見る。


「お前自身の魔力」


「僕の?」


「そうだ」


 キラは自分の手を見る。


「僕が核になる?」


「ああ」


「それって危険?」


「非常に」


「……」


 キラは少し黙った。


 だが。


「やってみたい」


 即答だった。


 グラウディスが笑う。


「やはりそう言うと思った」



---




 キラは地面に座った。


 目を閉じる。


「《異次元収納》」


 目の前に小さな黒い空間が開く。


 続いて。


「《生命領域》」


 緑色の光が広がる。


 普段なら別々に発動する二つの能力。


 キラは意識を集中させる。


「……一つに」


 《万象共鳴》発動。


 空間。


 生命。


 魔力。


 三つの力が絡み合う。


「……!」


 頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。


> 《異次元収納》




> 《生命領域》




> 《空間干渉》




> 《生命干渉》




> 《万象共鳴》




> 統合可能性を確認。




 キラの周囲に魔法陣が浮かぶ。


「もっと……!」


 力を込める。


 空間が歪む。


 森の木々がざわめく。


 グラウディスが目を細める。


「キラ、焦るな」


「……!」


「力を押し込むのではない」


「じゃあ……」


「繋げろ」


「……繋げる」


 キラは深呼吸した。


 ソラ。


 クロ。


 シロ。


 リーフィ。


 クウ。


 グラウディス。


 仲間たちの存在を感じる。


 そして――


 自分の魔力と繋げる。


「……みんなのための場所」


 キラが呟く。


「僕の中に、みんなが安心していられる場所を作る」


 光が強くなる。


 ――ドクン。


 そして。


 目の前に、一つの扉が現れた。


「……!」


 キラが目を開ける。


 扉の向こう。


 そこには――


 広い草原が広がっていた。


「え……」


 リナが驚く。


「中……?」


「うん」


 キラも驚いている。


 そこには空がある。


 草原がある。


 小さな湖まである。


「これ……《異次元収納》?」


 クウが首を振る。


「いや」


「じゃあ?」


「もう《異次元収納》ではない」


 キラの目の前に、新しい文字が浮かぶ。


> 《生命領域》が進化しました。




> 《異次元収納》との統合に成功。




> 新スキル――




《魔獣楽園》


> 習得しました。




「……魔獣楽園」


 キラが呟く。


 その瞬間。


 ソラが扉へ飛び込んだ。


「ぷるる!」


「ソラ!」


 キラが追いかける。


 中に入ると――


 ソラが草原を跳ね回っていた。


「ぷる! ぷる!」


 クロも走る。


「ワオーン!」


 シロも飛び跳ねる。


「ぴょん!」


 リーフィは木の枝に飛び移った。


「……」


 クウも入ってくる。


「これは……」


 周囲を見渡す。


「なかなか良い場所ではないか」


「本当に?」


「うむ」


 クウが腕を組む。


「ここなら魔物たちを休ませることもできる」


「じゃあ――」


 キラは嬉しそうに笑った。


「みんな、ここで暮らせるね」


 グラウディスは入口から中を覗く。


「……」


「グラウディスも入ってみて」


「我が?」


「うん」


 グラウディスが中へ入る。


 巨大な身体でも問題なく入れる。


「……」


 グラウディスは草原を見る。


 遠くには湖。


 木々。


 青い空。


「悪くない」


「でしょ?」


「しかし」


「?」


「我が本来の姿では狭い」


「……」


 キラが固まる。


「どのくらい?」


「この十倍ほどは欲しい」


「……」


 キラは無言で扉を見る。


「……広げられるかな」


 クウが笑った。


「そのうちじゃな」



---


◆ 魔獣楽園のルール


 キラは新しいスキルを確認する。


> 《魔獣楽園》




> ・契約した仲間を内部へ収納可能。




> ・内部では時間経過が外界より緩やか。




> ・生命活動が可能。




> ・内部環境を自由に調整可能。




> ・主人の魔力によって領域を拡張できる。




> ・仲間同士で自由に行動可能。




 キラは目を輝かせる。


「すごい……」


 これなら旅がかなり楽になる。


 魔物たちを常に連れて歩く必要がない。


 疲れたら《魔獣楽園》へ。


 戦う時だけ出てきてもらう。


 さらに――


「ここで畑とか作れるかな」


「畑?」


「うん」


 キラは草原を見る。


「食べ物も作れたら便利だし」


 リナが笑う。


「もう家じゃん」


「……!」


 キラがその言葉に反応する。


「家……」


 その言葉を聞いた瞬間。


 キラの胸が温かくなった。


 前世でも。


 この世界に来てからも。


 自分には「帰る場所」がなかった。


 貴族家では虐げられていた。


 追放されてからは、森や宿を転々としていた。


 だけど。


 今は違う。


「……ここを」


 キラが草原を見る。


「僕たちの家にしたい」


 グラウディスが静かにキラを見る。


「良い考えだ」


「本当に?」


「ああ」


 そして。


「お前が守りたいと思う場所なら、我も守ろう」


 キラは笑った。


「ありがとう」



---




 その日の夕方。


 キラたちは《魔獣楽園》の中で過ごしていた。


 ソラは湖で泳いでいる。


 クロとシロは草原を走り回っている。


 リーフィは木の枝で眠っている。


 クウは湖の近くで本を読んでいる。


 そしてグラウディスは――


「……」


 巨大な岩の上に座っていた。


 キラは焚き火を囲んで食事を作る。


「はい」


 小さな皿を並べる。


「今日は簡単なものだけど」


「いただきます」


 リナが食べる。


「おいしい」


「本当?」


「うん」


 キラも食べる。


「……」


 ふと。


 周囲を見る。


 仲間たちがいる。


 笑っている。


 走っている。


 眠っている。


 誰もキラを馬鹿にしない。


 誰もキラを気味悪がらない。


「……」


 キラの目から、一滴だけ涙が落ちた。


「キラ?」


 リナが気づく。


「どうしたの?」


「……ううん」


 キラは笑う。


「なんでもない」


 でも。


 胸の中では、はっきりと思っていた。


ここを守りたい。


 誰にも奪われたくない。


 誰にも壊されたくない。


 ここにいる仲間たちと一緒に――


 ずっと暮らしたい。


 それが。


 キラにとって初めてできた――


「帰る場所」だった。



---


その頃、王都


「まだ見つからんのか!」


 王宮。


 国王が怒鳴っていた。


「申し訳ございません!」


 兵士が震える。


「森に入った捜索隊も戻っておりません!」


「何だと?」


「さらに――」


 兵士が顔を上げる。


「森の魔力反応が消失しました」


「……」


 国王が眉をひそめる。


「まさか……」


 その時。


 王宮の扉が開いた。


 一人の男が入ってくる。


「陛下」


「何だ」


「森で確認された魔力反応について、報告があります」


「言え」


 男は震える声で告げた。


「古代種の反応です」


「古代種?」


「はい」


 そして。


「確認された魔力の特徴から判断すると――」


 男は唾を飲み込む。


「古代竜の可能性があります」


 国王の顔から血の気が引いた。


「……古代竜?」


「はい」


「馬鹿な……」


 国王は知らない。


 その古代竜が――


 自分が追放した十歳の少年の仲間になったことを。



---


◆ そしてキラは知らない


 《魔獣楽園》の奥。


 まだ誰も使っていない場所。


 そこに、小さな黒い亀裂があった。


 キラは気づいていない。


 クウも気づいていない。


 グラウディスですら――


 まだ気づいていない。


 亀裂の向こうから。


 ほんのわずかに――


 魔族の魔力が漏れていた。


 そして。


 誰かの声がした。


「……見つけた」


 小さな声。


「《万象共鳴》……」


 亀裂が閉じる。


 何事もなかったかのように消える。


 しかし――


 キラの旅は、確実に次の段階へ進み始めていた。


第十二話 終。



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