新しい仲間
「パーティを組んでいない人を探すとしたら、やっぱり後衛だよな」
俺がそう呟くと、琴葉が頷いた。
「そうだねー。前衛の武闘家や剣士は大抵すぐパーティに拾われるからね。需要が供給を上回ってるの」
俺は腕を組んで考え込んだ。前衛は雪と俺で十分だが、琴葉は回復役であり前衛もこなせる。しかし、ダンジョンの階層が深くなればなるほど、罠や隠密行動をとる敵の存在が無視できなくなる。そこで必要になるのが索敵専門のスカウトだ。だが、レベルが上がりにくい職業ゆえに、パーティ間のトラブルも多い。
「あっ、いたいた。いい人がいるよ」
琴葉がパッと手を打った。
「隣のクラスの水瀬みどりちゃん。彼女、スカウトなの」
「水瀬みどり?」
「覚えてない? 紫髪のショートカットで小柄な子。あのバカ拓也と今組んでいる和志と剛志、元々はあの3人でパーティを組んでたんだけど…みどりちゃんも私たちと同じで、レベルが上がらないって理由で追放されたらしいの」
琴葉の言葉に、俺は胸が痛んだ。やはり拓也たちは変わっていない。レベル至上主義の彼らにとって、サポート役は切り捨てるべき駒でしかないのだ。
「危険察知ができるスカウトか。上のダンジョンに行けば必ず必要になってくるな。けど、レベルが上がる職じゃないから拓也たちとは合わなかっただけだろうに…」
俺はため息をついた。
「声かけてみるか」
「うん! 」
俺たちは意を決して隣のクラスへ向かった。
教室を覗くと、窓際の席にぽつんと座っている少女がいた。窓の外を眺めるその横顔はどこか寂しげだ。鮮やかな紫髪のショートカットが、初夏の日差しを受けて艶やかに輝いている。小柄な体躯はすばしっこそうで、まさにスカウトという職業が似合いそうだった。
俺と琴葉は彼女の席まで歩み寄った。
「水瀬さん、ちょっといいかな?」
俺が声をかけると、みどりはびくりと肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には警戒心と疲労感が混じっている。
「…誰? ああ、確か隣のクラスの…」
「神代光輝だ。こっちは結城琴葉」
「なんの用?」
みどりは興味なさそうに視線を逸らした。
俺は単刀直入に切り出した。
「俺たちのパーティに入ってくれないか?」
その瞬間、みどりの手が止まった。彼女はゆっくりとこちらを向き、眉をひそめた。
「は? 何言ってんの? 私は探索者はもう辞めたの」
「え?」
「レベルも上がらないし、もうこれ以上ツラい思いはしたくないのよ。だから、パーティ勧誘なら他を当たってよ」
彼女の声には、拒絶以上の諦めが滲んでいた。追放された傷は、想像以上に深いらしい。
「ちょっと待ってよ」
琴葉が一歩前に出た。
「私が説得するから」と小声で俺に言うと、みどりの目を真っ直ぐに見つめた。
「みどりちゃん、私のこと覚えてる? 私も拓也たちに追放されたのよ」
みどりはハッとして琴葉を見返した。
「…あんたもだったの」
「ええ。だから、みどりちゃんの気持ちは痛いほどわかるわ。辛かったよね? 頑張っても報われなくて」
琴葉の優しい声に、みどりの表情が和らいだ。
「でもね、光輝は違うの。彼には不思議な力があるのよ」
琴葉は光輝の加護のこと、天照大御神様に頼まれて日本の厄災に対抗するために戦うこと。そして何より、光輝のパーティにいればレベルが上がることを熱心に語った。
「私たち、もうレベル6なのよ。スキルだって強力だし、絶対に仲間を切り捨てたりしないわ」
琴葉の説得は熱を帯びていた。同じ境遇から救われた者として、みどりをどうしても救いたいのだろう。
しかし、みどりは首を横に振った。
「…俄かには信じられないわ。そんな夢みたいな話、あるわけないじゃない」
彼女の瞳には懐疑の色が濃く浮かんでいる。無理もない。追放されたトラウマは簡単には拭えないだろう。
「そうだよね、ごめんね。信じられないなら仕方ないから、この話は忘れて」
俺は苦笑して立ち上がった。無理強いはしたくない。彼女が断るなら、また別の人を探すしかない。
俺が琴葉と共に踵を返そうとした時だった。
「待って!」
背後から慌てた声が響き、パタパタと駆け寄る足音が聞こえた。
振り返ると、みどりが息を切らして立っていた。
「ごめん…ステータスを見せてくれたら信じる」
彼女は俺たちの顔を交互に見つめながら言った。
「本当にレベル6になったのか、本当に加護を持ってるのか…それを確認できれば、私も一緒に戦わせてって言うつもりだったの」
みどりの目には、微かな光が宿っていた。完全に拒絶したわけではない。ただ、信じる根拠が欲しかっただけなのだ。
「いいよ」
俺は即答した。
俺と琴葉は空中にステータスウィンドウを展開した。
そこには確かに『Lv.6』の文字。そして加護の欄には『天照大御神』『大国主命』と刻まれている。
みどりは息を呑んで画面を見つめた。
「嘘…本当だわ…」
彼女は震える手でステータスを確認するかのように胸元を掴んだ。
「信じるわ。私も一緒に戦わせて! お願い!」
その瞳にはもう迷いはなかった。希望という名の強い光が宿っていた。俺たちは互いに顔を見合わせ、力強く頷いた。
「よろしくな、みどり」
「うん! よろしくね!」
こうして、「天照の光」に新たな仲間が加わったのだ。




