新しい装備
その日の夜、拓也は自室のベッドの上でダラダラと配信サイトを巡回していた。おすすめ動画の欄に表示されたサムネイルは、見覚えのある2人がいた。タイトルには『【新人】天照の光デビュー戦!』とある。
「あんっ!? これ光輝じゃねえか!」
拓也はガバッと身を起こし、動画を再生した。画面の中でゴブリンを薙ぎ倒す琴葉と雪の姿が映し出される。
「えっ? 結城さんってこんなに可愛かったのか? それに薙刀の子めっちゃキレイじゃん。制服、進学校のだな」
拓也はすぐに昌幸に電話をかけた。
「もしもし昌幸! 光輝の配信見たか?」
「おう、見た見た! あの2人いいよなー!」
昌幸の声にも興奮が滲んでいる。
「あいつら絶対光輝にはもったいねえよ。俺たちのパーティにスカウトしてやろうぜ」
「そうだな! 俺たちのパーティに入れるって知ったら絶対女の子も喜ぶぞ! イケメン探検者の誘いなんて断れるわけねえし!」
なぜか自信満々の2人は、まるで彼女たちがすでに自分たちのものだと決め込んでいた。
その頃、パーティ「天照の光」の3人は、スマホのグループ通話で明日の作戦会議をしていた。
「あのさ、私のステータスがすごく伸びてるから、武器をメイスとか殴る系のものに変えようと思うんだ」
琴葉が切り出した。彼女の攻撃力はもはや後衛のそれではなく、前線で戦えるレベルに達している。
「そうだな。短剣じゃリーチが短いし、回復役が怪我したら意味がないもんな」
光輝も即座に同意した。彼女の守備力も底上げされているとはいえ、リスクは減らすに越したことはない。
「でしたら、明日はD級ダンジョンに行く前に、武器を見に行きましょうか?」
雪が提案する。
「光輝の剣も、量産品より手に馴染む物に変えた方がいいですよ。今の剣じゃ光輝の動きに追いつけていません」
「えっ、そうかな?」
「なってません。お父様の知り合いのお店に頼んでおきますね。良い職人さんがやってるお店ですから」
雪の頼もしい提案に助けられ、3人は明日の予定を決定した。
「じゃあまた明日。おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみー」
通話を切り、光輝は自分の剣を見つめた。言われてみれば、少し重心が甘い気もする。プロに見てもらうのは悪くない。
次の日、登校した光輝が見たのは、教室の入り口で拓也と昌幸に囲まれている琴葉の姿だった。
「結城さんって可愛かったんだね。俺たちのパーティに戻してやっても良いぜ?」
拓也がニヤニヤしながら琴葉に顔を近づける。
「そうそう、ちゃんとレベルアップもさせてあげるからさ。光輝と一緒にやるより良いだろ?」
昌幸も続く。
「あっ、あの薙刀の子も一緒に来てもいいぜ! これで俺たちも6人パーティだな!」
まるで彼女たちが加入することが確定しているかのような、傲慢な物言い。琴葉は両手を握りしめ、怒りを必死に抑えていた。
「…光輝は?」
琴葉は震える声で問いかけた。
「光輝? あんなの足手まといだろ。いらないよ」
拓也は鼻で笑い、あっさりと切り捨てた。
その瞬間、琴葉の中で何かが弾けた。自分が一番大切にしている人を、これみよがしに見下す言葉。許せるはずがなかった。
「あなたたちのパーティになんて行くはずないでしょ! ふざけないで!」
琴葉が声を張り上げた時、教室のドアが開き、光輝が登校してきた。
「どうしたんだ?」
騒ぎを聞きつけた光輝が、眉をひそめて尋ねる。
「コイツらが私と雪をパーティに入れるって言ってきたのよ! 光輝の悪口も言ってて!」
琴葉が訴えると、光輝は一瞬きょとんとし、それからゆっくりと拓也たちの方へ向き直った。
「コイツらって…」
光輝はプッと吹き出した。あまりにも滑稽で、笑いすら込み上げてきたのだ。
「何笑ってんだ!」
拓也が凄むが、光輝は笑みを消し、一歩踏み出した。その目から笑顔が消え、鋭い眼光が拓也たちを射抜く。
「俺のパーティメンバーに手を出したら許さないぞ」
低く、しかし力強い声が響いた。周囲の空気が一瞬で凍りつく。拓也たちは息を呑み、後ずさった。
「まあ、俺たちは魂で繋がっているから引き抜きなんて無理だけどな」
光輝はそう言い捨てると、琴葉の手を取り、その場から立ち去った。拓也たちは何も言い返せず、ただ呆然と2人の背中を見送ることしかできなかった。
「…くそっ! 光輝のくせに!」
残された拓也と昌幸は、握りこぶしを震わせていたが、もう2人の背中は遠かった。
放課後。3人は雪の父の紹介で、老舗の武器屋を訪れていた。店内には無数の剣や鎧が並び、歴史を感じる重厚な空気が漂っている。
「いらっしゃいませ。氷室様からお話は伺っております」
恰幅の良い店主が深々と頭を下げた。
琴葉は何本かメイスを試し振りし、少しだけ重めのものを選んだ。短剣とは違う振り抜き心地に、彼女は満足げに頷く。
「こっちの方が破壊力がありそうだし、防具としても使えそうだし」
光輝も数本の剣を吟味し、店主お勧めの業物を手に取った。刃紋が美しく、手に馴染む感触は量産品とは別物だった。
「これなら俺の力をもっと活かせそうだ」
「配信でお金が入るまでは父が立て替えてくれると言いましたから、遠慮はいりませんよ」
雪の太っ腹な提案に甘え、3人は防具も新調することにした。色を揃えた革の胸当ては、見た目以上に丈夫で動きやすい。
新しい装備に身を包んだ3人は、ダンジョンへ向かう足取りも軽い。
「よし! 行くぞ! D級ダンジョン!」
「うん!」
「ええ!」
パーティ「天照の光」は新たな装備と共に、より深き闇へと足を踏み入れていく。魂で繋がっている3人の瞳には、揺るぎない光が宿っていた。




